【ネタバレ】ほぼ原作通りの映画『ルックバック』が独自に描いた「その先」とは
クレジットの順番にも要注目
●より強固にした、言葉で語らない「答え」 ここで改めて書いておくと、映画『ルックバック』は原作からの改変はなく、もうひとりの主人公「京本」の身に起きる悲劇や、それに対する「If」の世界の描写もしっかり再現されています。 そういったシーンを経たクライマックスで、藤野は「だいたい漫画ってさあ…私、描くのはまったく好きじゃないんだよね」「楽しくないし、メンドくさいだけだし、超地味だし」「一日中ず~っと絵描いてても全然完成しないんだよ?」と原作通りのセリフを、京本に話していました。それはラストの、まさに地味な作業を続けている藤野の背中と一致しているのです。 その藤本の言葉に対する、京本の「じゃあ藤野ちゃんはなんで描いてるの?」という質問の答えは、言葉では語られていません。しかし、個人的にはこれからの藤本は「京本のため」にも、その「鎮魂」の意味も込めて、作品を描き続けるのだと、受け取りました。「一日中」の時間でそのラストを演出したエンドロールは、(観る人によって異なるでしょうが)その答えをより「強固」にしたともいえるでしょう。 また、こちらも「SWITCH」7月号のインタビューで、押山監督は「藤野はずっと机に向かって絵を描いている。ともするとアニメ映えしない画面になってしまう」懸念があった一方、「僕自身も絵描きなので、絵描きの話にはすごく共感する部分もあった」ことや「長編ではない上映尺(実際の上映時間は58分)で話を進めていたので、自分たちが得意とする少人数でアニメを作る手法にハマる思惑があった」ことも語っています。 脚本のほかに、キャラクターデザイン、絵コンテと作画監督と多くの部分をひとりで担当した押山監督は、劇場版パンフレットで「漫画にできるだけ寄り添った作品」にするため、アニメーターの原画をクリンナップせずにそのまま使用し、あえて均一な線、絵柄にしないことを心掛けていたことも語っていました。 押山監督をはじめとするスタッフの工夫、膨大な作業があった上で、原作の物語を1時間に満たない上映時間で濃密に描いたことも、本作の大きな意義でしょう。「原作通り、アニメ映えしないはずの地味な背中をずっと映しているはずなのに、アニメで描いた意義を感じられる」という、価値観が逆転したような特徴と感動があることも、またとてつもないことだと思うのです。 押山監督は、「アヌシー国際アニメーション映画祭 2024」のインターナショナルプレミアで、『ルックバック』について「あらゆるクリエイターへの賛歌になればと思いを込めて制作しました」とコメントしています。 そして、本作のエンドロールでの、(通常のアニメ作品ではボイスキャストが先に表示されるところを)原作者の藤本タツキ先生、押山清高さん、原画、動画、仕上げ、美術監督など、スタッフの名前が先に出る「クレジットの順番」にも、漫画家やアニメーターらクリエイターへの敬意が込められていたといえます。ぜひ劇場で最後まで席を立たずに見ていただきたいです。
ヒナタカ