世界で大流行…海外旅行に行く人は「デング熱」に注意!
年末年始を海外で過ごす計画を立てている人も多いのではないか。海外では現地流行の感染症に気をつけるのは当たり前だが、近年は地球温暖化による蚊の感染症(ジカ熱、チクングニア熱など)が増えている。特に「デング熱」に注意したい。 「蚊アレルギー」強い皮膚症状の原因はEBウイルスにあり 今年10月、WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長がデング熱の感染急増について「国境を超えた協調的な対応を必要とする憂慮すべき傾向」であると警告した。 欧州疾病予防管理センターによると、今年1月から11月までに、世界中で1400万人以上のデング熱患者と1万人以上の死亡が報告されたという。症例の多くは南北アメリカでの報告だが、欧州やヒマラヤの国ネパールの首都カトマンズでも報告されている。 日本では、国立感染症研究所の感染症発生動向調査速報第47週(11月18~24日)の報告件数は217人。前年同期の156人に比べて約1.4倍増となっている。 「この数字は海外で感染した輸入デング熱ですが、今年10月には台湾からの訪問者が帰国後にデング熱を発症し、日本での感染が疑われたケースがありました」(長崎大学熱帯医学研究所病害動物学分野・砂原俊彦助教) デング熱はデングウイルスによる感染症で、発症すると40度近い高熱や激しい頭痛、筋肉痛などの症状が現れる。新型コロナと違って飛沫感染など人から人へ感染することはなく、8割程度は無症状とされるが、「デング出血熱」を発症し、死に至ることもある。 なぜ、デング熱が世界中で急増しているのか?長崎大学感染症研究出島特区長で教授の森田公一医師が言う。 「日本でデング熱を媒介する蚊はヒトスジシマカですが、現在世界中で流行しているデング熱を媒介している最も重要な蚊はネッタイシマカです。東南アジアの熱帯および亜熱帯気候に自生していたのですが、地球温暖化で生息地が拡大。感染者が急増したと考えられています。都市部を好む傾向にあり、ゴミのプラスチックにできた水たまりでも容易に幼虫が成虫になれる。世界中で都市化が進んでいることも増加の原因のひとつでしょう。新型コロナで免疫力のない人が増えたことや、その収束で人の往来が活発になったこと、地球温暖化による異常気象の定着に加え、南米沖の海水温が平年を上回るエルニーニョ現象の発生など南米で雨が増えることも要因と考えられます」 ■スーパー耐性蚊が増殖 注意したいのは、デング熱を媒介する蚊のなかには遺伝子変異により殺虫剤が効きづらいスーパー耐性蚊が増殖していることだ。いまはスーパー耐性ネッタイシマカは日本に定着していないが、日本の国際空港内でも時折、ネッタイシマカの侵入が確認されている。いたずらに心配する必要はないが、その情報は頭の隅には置いておきたい。 では、いまの私たちができることは何なのか? 「デング熱を媒介するネッタイシマカやヒトスジシマカは昼間活動する蚊です。熱帯では室内でもネッタイシマカに刺されることがあります。特に昼間は皮膚の露出が少ない服装や虫よけの使用などを心がけましょう」(砂原助教) デング熱流行国から帰国し体調がすぐれないときは医療機関を受診する際に、デング熱の流行国に行ったことを伝えるのは言うまでもない。 「虫よけ」はさまざまなタイプが発売されているが、一部東南アジアでは、日本メーカーが開発した新発想の虫よけクリームが人気になっている。化粧品にも使われるシリコーンオイルを肌に塗ることで、血を吸うため肌に降り立った蚊が足を取られる感覚となり、吸血前に飛び立ってしまう仕組みだという。 なお、デング熱ワクチンは現在世界で2種類が製造・販売されている。 「デングウイルスには4種類の血清型がありますが、血清型間に免疫交差性が乏しく、異なる血清による2回目感染時には最初の感染でできた抗体が防御でなく逆に増強となり、重症化する可能性があります。これを抗体依存性感染増強(ADE)と呼びます。世界で最初に承認されたサノフィ社のデング熱ワクチンは感染歴のない人が接種すると、ADEによると考えられる重症例が多数報告されたことから、感染歴のある人が対象のワクチンとなっています」 最近登場した武田薬品工業のデング熱ワクチンは感染歴のない人でも効果があることが検証されているが、日本ではまだ必要とされるケースが少ないこともあり、発売されていない。 蚊は世界で最も人間を殺している生き物で、毎年75万人が蚊が媒介する感染症で亡くなっている。うち数万人はデング熱によるものだ。デング熱を媒介する蚊の生息地域は、地球温暖化により拡大の一途をたどっており、いずれ人類の半分がデング熱感染リスクを抱えるとも予想されている。渡航予定者はもちろんのこと、そうでない人も蚊には注意したいものだ。