『大奥』徳川家茂役・志田彩良は原作ファンも納得 聡明さと愛らしさを兼ねた最高の将軍に
NHKドラマ10『大奥』で志田彩良が演じる徳川家茂が14代将軍となった。聡明で、将軍として自分に何が求められているのかを理解し、最適解を導くことができるだけでなく、屈託のない笑顔がかわいらしい。 【写真】岸井ゆきのの和宮も原作から飛び出してきたよう 公武合体で「和宮」を正室に迎え入れたものの、朝廷から降嫁してきた和宮(岸井ゆきの)は偽物で、しかも女性だったことが発覚。瀧山(古川雄大)が「間者」だと警戒すると、家茂は「そんなに簡単にバレるような(まぬけな)偽物は間者ではないのでは?」と冷静に判断したうえで、「湯殿では恥ずかしい思いをなさったのでは?」と気遣いの言葉をかける。自分が嫌な目に遭ったと相手を責めたり、相手の疑わしいところや粗探しをするのではなく、「いかなる事情でここに?」と、どんな事情があるのか丁寧に聞こうとするのも、家茂の良いところ。 実際事情を聞いてみると、本物の和宮が降嫁を拒否したため、弟の身代わりとなって姉がその役目を引き受けて江戸にやってきたということ。健やかな弟は「家の光」として大事に育てられたが、姉は生まれつき左手がなかったため、彼女のことは人前に出さず、いないものとされていた。姉が江戸に行ったとしても気づかれずに済むし、姉は弟だけに向かっていた母・勧行院(平岩紙)の関心を引きたかった。勧行院も江戸に下ることで身代わりになったとしても母を独占できればそれでいい、こうして性別を偽り、和宮は婿入りしたのだ。 和宮が男装し、偽りの正室だとしても公武合体は徳川に向けられた諸侯たちの反感を抑えるために必要であるし、家茂が「京に帰りたいのであれば何か手立てを考える」と言っても和宮は帰りたいわけではないと答える。原作でも、夫婦となった女同士の家茂と和宮のやりとりは、お互いを心から必要とする友情を超えた特別なものになっていくのだが、演じている志田彩良と岸井ゆきのの繊細で豊かな表現には思わず引き込まれてしまう。 少し拗ねたような物言いで、ちょっと偉そうな態度をとっても美味しいものを口にすると反応が素直な和宮を、おおらかに大きな心で包み込むような家茂。この見事な包容力と理想的な上様としての貫禄を堂々と演じる志田彩良には原作ファンからも熱い視線が集まる。 とくに、多くの人の心に強い余韻を残したのが家茂と和宮が囲碁をしながら話をするシーン。「さような思いまでなさり、まことによくぞここにいらして……」と、家茂が涙ぐむと「あんた話聞いてた? 私のしょうもないたくらみのせいであんたは散々な目に遭うてるいうことなんやで」と和宮があきれたような顔で言う。「でも、そのしょうもないたくらみのおかげで和宮様は亡くならずに済んでいるではないですか。私は人を死の淵に追いやらずに済んだのですよ。お気づきになりませんか。宮様は知らぬうちに多くの者を救っていらっしゃるんですよ」と家茂はまっすぐ和宮に伝える。「そんなふうに考えるん上さんくらいやで」と和宮は素っ気なく言うが、全力で自分の存在そのものを肯定して、純粋に宮様こそ光だと手放しに愛情を示してくれる家茂の言葉に和宮は涙した。 さまざまな問題が降りかかるなかにあっても希望を持って、最善の道を選んでいけるリーダーとしても最高の資質を持っている家茂。原作の魅力を余すところなく伝え、和宮との関係性を鮮明に観るものに焼き付ける志田彩良の演技にもさらに期待が高まる。
池沢奈々見