昔の日本車にやたらとグレード数が多かったのはアメリカ車の影響!? そもそもなぜ数多くのグレードが必要だったのか
装備は二の次でいいからハイパワーなエンジンがほしい!
日本では排気量に応じて課税額が決まる「自動車税」というものもあり、長い間「排気量が大きいほど高級車」といったようなイメージが強く持たれていた。そして、排気量の大きい車種の売れ筋モデルはまさに豪華な内容であった。 【画像ギャラリー】昭和の日本車がお手本としていたとされるクルマ 昭和のほとんどの時期はクラウンやセドリックといったクルマでも5ナンバーサイズのボディとなっていた。搭載エンジンも2リッター直6が一般的であり、1970年代後半ぐらいになると、上級エンジンとして2.6リッターや2.8リッターの直6エンジンがラインアップされるようになった。排気量が2リッターを超えるので3ナンバーとなるのだが、大きいバンパーを装着してボディサイズも3ナンバーサイズにしたりもしていた。 しかし、それでも“ロイヤルサルーン”や、“ブロアム”といった高級グレードがある一方で、“スタンダード”や“デラックス”といった装備が簡素ながら2リッター直6エンジンを搭載するグレードも用意されていた。トヨタ・マークIIの4代目では、売れ筋のグランデあたりは直6エンジン搭載となるのだが、パワーウインドウまで装備しない簡素な装備の6気筒エンジンを搭載するLEといったグレードがあるかと思えば、2リッターでも4気筒エンジンを搭載しながらLEと同じような装備内容のGRや、1.8リッター4気筒エンジンを搭載するSTD(スタンダード)もラインアップされていた。 つまり、売れ筋としてはラグジュアリーグレードが圧倒的に多かったのだが、とくに「装備は簡素でもいいから2リッター6気筒エンジン搭載車が欲しい」といったユーザーなどにも対応したラインアップになっていたのである。このような動きはアメリカの流れが影響していたようだ。
アメ車も日本車と同じようなグレード体型だった
アメリカでもセダンにおいては、ボディサイズが大きく大排気量V8エンジンを搭載するキャデラックやリンカーン、そしてそれよりはランクが落ちるもののビュイック、オールズモビル、マーキュリーといったラグジュアリー色の強いブランドにもフルサイズセダンがラインアップされていた。 しかし、シボレーやフォード、ダッジ、プリマスといった量販ブランドでも、見た目はキャデラックのような豪華さを全面に押し出したキャラクターではない、実用性を重視したフルサイズセダンがラインアップされていた。アメリカで自動車関係のアナリストをしていたスコットランド人に当時の話を聞くと、「豪華だから大排気量車を買う人がいる一方で、必要だから大排気量車を買う人もいる」と実用性を重視しながら、大排気量V8エンジン搭載車に乗る人もいると教えてくれた。 広大な国土を持つアメリカで、大陸横断は大げさでも長距離移動する機会が多い人ならば、やはりボディが大きく、大排気量V8エンジン車のほうが疲れにくいので選びたいところだが、華美な装備がいらないという人もいるということになるらしい。 そんなアメリカ車も、いまや2リッターや2.5リッターあたりの直4エンジンを搭載するモデルばかりとなっており、日本車に近い存在となってしまった。 昭和のころの日本の高級セダンと言うのは、アメリカ車を意識したクルマ作りが目立ち、搭載エンジンは2リッター直6あたりが限界となっていたが、その存在感や柔らかい乗り心地など、アメリカ車からインスパイアされた部分が多く見受けられた。そのため、前述したようにアメリカ車のアメリカでのラインアップを見て、「6気筒エンジンでも簡素なグレード」というものも存在していたようなのである。 1980年代半ばあたりまでは、日本でも芸能人やプロスポーツ選手、資産家などは大きなアメリカ車に乗っていたが、その後トレンドがメルセデス・ベンツなどの欧州高級車に移っていく。欧州車は同一車種内で幅のあるワイドグレード構成といったことはまずない。クルマ作りのトレンドが欧州車へシフトすると、日本車もそれまでよりはグレード数も絞り込まれるモデルが目立つようになった。 以前より装備差はなくなってきているものの、複数のグレードを用意するモデルがいまだに多いのは、そもそも日本車はアメリカ車の影響を受けながら成長してきたという過去の名残りなのかもしれない。
小林敦志