15年ぶりのタイトル挑戦を決めた山崎隆之八段「自分の弱さを知られているのを知っている」
将棋の藤井聡太棋聖=竜王、名人、王位、叡王、王座、棋王、王将=への挑戦権を争う第95期棋聖戦挑戦者決定戦が22日、東京将棋会館で行われ、15年ぶりにタイトル挑戦権を獲得した山崎隆之八段(43)が対局後、報道陣の取材に応じた。 あまりにも素直な言葉が山崎の持ち味だ。「序盤戦は勝負を忘れて楽しく長考しすぎちゃったかな」と本局を振り返る言葉も。自身のタイトル挑戦を「想像もしなかった」という言葉も。そして、その大舞台を「当然、最後でしょうね」と言い切る言葉も。同じようにどこかドライで、同じようにあたたかい血が通っている。 43歳。2009年に28歳で羽生善治九段に挑戦した王座戦以来2度目の大舞台にたどり着いた。その15年という月日について「目の前のことに精いっぱいでゆっくり考えた事はない」というが、確かに思いの変化はある。「15年前より年々将棋にかける思いは強くなっていってるなと。なんとか勝負したいという気持ちは1年ごとに積み重なっている。あの手この手を使って戦っているという感じで。むしろ15年前に危機感を持ってあの手この手であがいとけよって思いますけど(笑い)なんで15年ぶりに挑戦出来たのかは棋力的には不思議ではあるんですけど、15年前よりも考えながら戦っていたので、うれしさは今のほうがあるかなと」 ここ数年の成績は勝率5割前後。18年にはNHK杯優勝をしつつも、もがきながらの現状である。「ここ1、2年常に、大きな舞台はこれで最後かもしれないという危機感をもってやってきた」と山崎はいう。この棋聖戦決勝トーナメントも、挑戦者決定戦もそのつもりだった。 だから、挑戦権を得たことについて、慢心は一ミリもない。「運を使い果たしている。棋士人生の相当な運を使っている」と飾らない気持ちをはき出す。「もう一回大きな勝負をしたいなという気持ちは常にありましたけど。むしろ普通にやってたんだったら落ちる方を心配しなければいけない状態ではあったので。当然最後でしょう(笑い)タイトル戦は正真正銘の最後の自分の、棋士人生で一番大きな勝負だと思うので。自分の一番いいものを出して終わりたいという気持ちがあります」 今、結果が出た要因を分析する言葉も痛いほどに素直だ。「トップ層の人たちからすると(自分は)ちょっと勝てる相手だと(思われていると思う)。自分の弱さを知られているのを知っているので。相手が嫌そうな戦い方をしているのがひとつ結果が出ている要因だと思います。それはちょっと棋力とは関係ないので、あんまり自分としては喜べるところではないんですけど。恥を気にしないで戦っているのは大きいかなと」 山崎が指す定跡から外れた独創的な手はファンからの支持も厚いが、当の本人は、「本当は剛速球をいつも投げたいし、ストレートに定跡形もやりたいと思いながら…変な将棋になってしまっているというか…」と伏し目がちでいう。 番勝負の相手は藤井だ。「これまでは僕はどちらかというと(藤井を見る)観戦者だった」。その21歳の王者と盤を挟んで対峙することとなる。「今まで藤井八冠の挑戦者はみんなが納得の実力者ばかりだった。皆すごい剛速球を投げる挑戦者ばかりだったのですが、僕はどちらかというと変化球のタイプ。そういうタイプが相手の時でも藤井棋聖は、完全無欠なのかどうか。そこら辺はちょっと自分もやってみないとわからないですし、(藤井にとっても)初めてのことだと思う。そういう意味では注目はしていただけると思うので、願わくば最後終盤戦までどちらが勝つかわからないような将棋にしたい。歯を食いしばってチャンスがきたらちゃんとチャンスボールをもち続けられるように…奇跡が起こって欲しいなと」 約50分に渡る囲み取材の最後は「すいません…自分でも何言ってるか分からなくて…」という山崎の謝罪で締められた。駆けつけた弟子の磯谷祐維女流初段と並んでの撮影に応じ、番勝負の日程説明を受けた。開幕は6月6日。「ちょっと…5月に旅行2回くらいいく予定だったんですけど行けなくなりました」。山崎はそうはにかんで、カバンを持った。(瀬戸 花音)
報知新聞社