プライベートが原因で「仕事のミス」を連発する後輩、“異変”に気が付いた先輩が受けた「パワハラの壁」…何とかしたい
労務相談やハラスメント対応を主力業務として扱っている社労士である私が、労務顧問として社労士として企業の皆様から受ける相談は多岐にわたります。 【マンガ】5200万円を相続した家族が青ざめた…税務署からの突然の“お知らせ” 経済や社会情勢の変化によって労働問題やハラスメントの捉え方も変わり、「明らかにアウト」「明らかにセーフ」といった線が引きにくい時代になりました。 社労士としてグレーゾーンの問題を取り扱ってきた経験では、こうした問題に対処するには労働法だけではなく、マネジメントや人事制度など幅広い知識が必要になります。 あるメーカーで勤務していたAさん(30代・男性)は、家庭内のある事件がきっかけでメンタルヘルス失調を起こし、それを認められずに勤務していました。周囲も声かけをためらっているうちに、睡眠不足から労災事故を起こしてしまうことになりました。 一体、どうしてAさんは自身の不調を会社に相談できなかったのでしょうか。また、Aさんに対し、会社はどのように対処するべきだったのでしょうか。 今回は相談事例の中から、「どうしたらこの事故が防げたのか」「どのように対応すべきだったのか」という観点で事例を見ていきたいと思います。
不調な後輩と先輩のためらい
新卒で家電メーカーに就職したAさんには、周囲も認める生真面目さと几帳面さがありました。どちらかというと寡黙で淡々と仕事を進める職人気質なところがあり、配属先の研究開発部の仕事はAさんにとっては天職のような仕事でした。 予算は少なく成果を求められるというシビアな部署ではありましたが、それだけにメンバー1人1人の専門性は高く、それぞれが最低限のかかわりを持ちつつ自分に与えられた仕事にまい進する部署のあり方は、Aさんにとって好ましいものでした。 そんなAさんの変調に最初に気づいたのは、同じ部署の先輩であり、仕事の上でもかかわりがあったBさんでした。 何気なく見た進行管理表のAさんの担当部分で修正が行われるべき部分がそのままになっていたのです。進行状況によって修正が発生することはたびたびあるのですが、仕事の手が早いAさんにしては未修整のままにしているのは珍しい。そう、その時Bさんは思ったのだそうです。 Bさんがその事実を指摘すると、Aさんは「すみません。忘れていました。直しておきます」と素直に受け入れ、その場で表の修正作業をはじめました。 ところが、この頃を境にAさんの仕事にミスが続くようになりました。Aさんは真面目で几帳面だと思われていたので、この異変に対し、違和感を感じる人は多かったようです。 仕事面では大きな変化はなかったこと、Aさんのスマートフォンに仕事中に電話がかかってきたり、SNSでのメッセージが頻繁に入る様子も見受けられたため、BさんはAさんがプライベートな部分で問題を抱えているのではないかと感じるようになりました。 しかし、そこでBさんにためらいが生じます。プライベートなことに立ち入ることは不躾だと感じると同時に、パワー・ハラスメントに当たるのではないかと考えたからです。 迷った末に、Bさんは上司である研究室長に相談します。室長も最近Aさんの様子が少しおかしいことには気が付いており、直接Aさんと話すことを約束しました。 室長は人事部と相談し、Aさんと面談を行うことにしました。面談でAさんの最近の仕事ぶりにミスが多いことを指摘して改善を求めると、Aさんもそれについては素直に謝罪し、ミスの防止策は考えて提案するとのことでした。 そのあとで、室長が「話したくなければ話さなくてもいい」と前置きし、「何か悩みがあるなら相談して」と伝えたところ、Aさんは少し迷うそぶりを見せたものの、結局は「特にありません」と答えてきたのです。 何もないことはないと思いつつ、言いたくないこともあるだろうと考えた室長はその回答を受け入れました。 その後、改善計画を出したAさんのミスは確かに減りました。しかし、仕事の能率は明らかに以前より落ちており、それを時間で埋めるように残業申請の回数も増加しました。 さらに、顔色が悪い、明らかに体重が落ちているようなやせ方といった体の変調が徐々に目立つようになってきたのです。Aさんが精神的または肉体的になんらかの不調を抱えていることは、第三者から見ても明白でした。 この時点で会社から相談を受けた私は、まず、室長の初動対応を伺いました。室長の対応は適切だったものの、業務にも支障が出ている状況になっているため、安全配慮義務の観点から健康診断の受診を求めることにしたといいます。 しかし、Aさんはある懸念からこれを拒絶。その詳細は<【後編】“プライベートな問題”のせいで「仕事のミス」を連発する30代の男性が、会社の業務指示を「拒絶」したまさかの理由>でお伝えします。
村井 真子(社会保険労務士)