「特需」に沸き立つ日本の港湾用クレーンメーカー…米中対立の余波で“棚ボタ”ウハウハ(重道武司)
【経済ニュースの核心】 日本の港湾用クレーンメーカーがちょっとした「特需」に沸き立っている。米国政府が2月、港湾インフラの再整備に向こう5年間で200億ドル(約2.8兆円)を投じる方針を打ち出したためだ。 株式市場の暴落は「歴史の転換点」を示唆? 中ロは世界の多数派を形成へ 信頼できる同盟国とのパートナーシップによる米国内でのクレーン製造能力の向上や、重要な商業用港湾でのサイバーセキュリティー対策強化などが柱。重機械業界関係者によると、すでに複数の案件が具体化に向けて動き出しているという。 背景にあるのは他でもない。中国の脅威──だ。 「ガントリークレーン」を主軸とする港湾用クレーンは、巨大な鋼構造物だが、中国が世界で圧倒的なシェアを持つ。中でも最大手の上海振華重工(ZPMC)はシェア70%。米国内でのそれは8割に迫るとされている。いまここで中国依存度を引き下げなければ、有事の際、物流機能や供給網がマヒしかねない。 さらに米政府の「警戒心をかき立てた」(事情通)とされるのが、中国交通運輸省が開発した「LOGINK」なるシステムだ。クレーンに高度なセンサーを搭載して物流を管理する仕組みで「こんなものが組み込まれて米国の港湾に配置されれば物資の移動や追跡データが容易に収集され、国家安全保障を揺るがす事態にもなりかねない」と防衛省筋。自国製クレーンに切り替えることで中国製「トロイの木馬」を締め出そうというわけだ。 バイデン政権は5月にはこれまで0%だったクレーンの関税を25%に引き上げる方針も決定。同盟国にも働きかけて中国製からの転換を促す構えで、そうなるとクレーン需要は「一段と盛り上がる」(業界幹部)。 ■国内の港湾用クレーン市場は3社でほぼ独占 国内の港湾用クレーン市場は首位の三井E&Sを筆頭に住友重機械工業とJFEホールディングス傘下のJFEエンジニアリングの3社でほぼ独占する。15年に三菱重工業がクレーン事業を住友重機に譲渡したことで一段と寡占化が進んだ。 ただ世界的にはコスト競争力で中国勢に対抗できず後塵を拝し続けてきた。それが米中対立の余波により思わぬ形で「我が世の春」(市場関係者)が巡ってきたことになる。 三井E&Sではカリフォルニア州にクレーンの組み立て拠点を開設する検討に入るなど「対応に大わらわ」(幹部)だとか。うれしい悲鳴が上がる。 (重道武司/経済ジャーナリスト)