辰吉JrがTKO勝利デビューに見せた遺伝子
元WBC世界バンタム級王者、辰吉丈一郎(44)の次男、寿以輝(18、大阪帝拳)が16日、大阪府立体育会館でスーパーバンタム級4回戦でのプロデビュー戦に臨み、1勝2敗の戦績の岩谷忠男(31、神拳阪神)から3度のダウンを奪い2ラウンド2分45秒でTKO勝利を飾った。 世界タイトル戦の前座カードだったが、父親譲りの闘争心あふれるファイトに約6000人のファンは大興奮。父のように8戦目で世界戦という技術的レベルにはまだないが、持っている独特の華とハートは魅力だ。今後は、新人王を狙うプランもあるが、次戦は大阪で7月、8月に外国人ボクサーが予定されている。
入場テーマ曲は、ブルースリー主演の大ヒット作「死亡遊戯」のテーマではなかった。だが、父と同じく白いトランクスに白いハイブーツシューズに赤で「Juiki」の刺繍。カリスマの遺伝子を継承した寿以輝は、左手を高く上げて颯爽とリングに登場した。リングサイドには、その父と母・るみさんに兄・寿輝也さん。約6000人のファンで埋め尽くされた会場がざわめいている。ゴング直前に対戦相手と対峙してレフェリーの注意を聞く際、相手の目を見ないのは、父と同じだった。 「緊張した。でも、それも最初だけだったけど」 動きは固い。最初はジャブ。左のフックは相打ちになる。それでも常に前へ。左のボディアッパーから左フックへの上下のダブルは、父のそれをほうふつさせた。父が持っていたスピードや天性のバネはないが、ガツガツと石のようなパンチを一発一発打ち込んでいく。荒削りな喧嘩屋とでも呼ぼうか。 「打ち終わりを狙われていた。デビュー戦とは思えない冷静さだった」 対戦相手の岩谷が、そう感じた刹那、左フックがカウンターとなってあごを捉えた。 最初のダウン。岩谷は「パンチが見えなかった」という。ゴングに救われた岩谷も2ラウンドに入ると意地を見せた。そんなところまで似なくてもいいのに寿以輝のガードは父のように甘い。そこに左右のフックを合わせられた。寿以輝の右の目尻が赤くなる。 「効いたパンチはひとつもなかった」とは、試合後の談。 スリリングな展開に場内からは寿以輝コールが湧き上がった。 まるでストレートの左ジャブを至近距離から打ち込むと、岩谷は、たまらず2度目のダウン。再び立ち上がって打ち合いになったが、最後は、怒涛の猛ラッシュ。パンチをまとめて右ストレートがヒットしたところでレフェリーが試合を止めた。 「凄く楽しかった。こんな大声援の中で試合できるなんてね」 リング上で、アナウンサーから父にひとことと聞かれた寿以輝は、「勝ったよおーー」と答えて会場を爆笑に包み、お母さんは泣いていましたよ?とふられると「泣いているなあとわかった。心配するなということです」と自然体で答えて、また会場を笑わせた。 いつもの辰吉ファッションで報道陣に囲まれた偉大なる父は「アマチュア経験もなくてズブの素人だと考えたら、スパーだけで、あれだけできるのはたいしたもん。よくやったんとちゃうかな。親ばかといわれるかもしれんけどね」と珍しく合格点を与えた。