司馬遼太郎や伊丹十三ゆかり 新潟県佐渡市のそば店「七右衛門」が12月下旬、200年の歴史に幕
江戸時代から200年以上続く新潟県佐渡市小木町の老舗そば店「七右衛門」が、12月下旬でのれんを下ろす。提供するのは刻みネギを乗せた冷やのぶっかけそば、ただ一つ。素朴で風味豊かな一品は、地元民や観光客にとどまらず、小木を訪れた文豪、食通もうならせてきた。60年以上店を守ってきた中川アサさん(86)は「たくさんのお客さんに支えられた。ありがとうの言葉以外、何にもない」と涙ながらに感謝する。 【画像】「七右衛門」のぶっかけそば 「定年になったら戻るから。だから、店をやめんといて」。新潟市に暮らし、店を継ごうと言ってくれた長男俊哉さんが2023年に急死した。24年2月には店を手伝ってきた夫の昭男さんを91歳で亡くし、閉店を決めた。 「できることしかやらない」と1種類のそばを作り続けてきた。秘伝のつゆは佐渡伝統のアゴ(トビウオ)だしではなく、青森から取り寄せるイワシの焼き干し。そば粉は数年前まで店の石臼でひいていた。「ひきたて、打ちたて、ゆでたて」の十割そばにこだわり、味を守ってきた。 今の店舗は明治末期、小木大火の後に建てられた。奥行きのある町家で100年以上の歴史を刻んできた。かつては作家の司馬遼太郎さんや放送作家の永六輔さん、映画監督の伊丹十三さんらを店に迎えた。「そばも、この店も、ずっと残さないとならんよ」。司馬さんにかけられた言葉は脳裏に焼き付いている。 当初は9月に店を閉めるつもりだった。張り紙で予告するやいなや、常連から「新そばを食べさせんで終わるんだか」と言われ、強い思いに押され閉店を延ばした。別れを惜しむように島内各地から予約の電話が舞い込んでいる。 そばは1杯600円。営業時間は午前11時~午後1時で、事前予約が必要。