【社説】持続可能な観光 訪日客との共存策探ろう
日本を訪れる外国人旅行客の急増で観光名所の混雑が激しくなり、トラブルも多発している。受け入れる地域と観光客が共存する手だてを探らなくてはならない。 新型コロナウイルス禍が収束して以降、円安効果も手伝って訪日客数は飛躍的に伸びている。 2023年は2507万人で、コロナ禍前の8割程度にまで回復した。今年も増加が続き、9月までに2688万人に達した。通年で過去最高だった19年の3188万人を上回る勢いだ。 この弊害として、京都や富士山、鎌倉といった海外でも知られる観光地で「オーバーツーリズム」が問題になっている。 受け入れ能力を超える観光客が押し寄せた地域では、公共交通機関の混雑や渋滞、騒音、ごみのポイ捨てなどに悩まされている。観光公害とも呼ばれる事態だ。 九州でも福岡県の太宰府天満宮周辺、大分県の湯布院などで見られる。 観光客が交流サイト(SNS)に投稿する写真を撮るため、無断で私有地に立ち入ったり、芸舞妓(げいまいこ)たちを追いかけ回したりする犯罪的な行為も起きている。 訪日客の増加は今後も続く可能性が大きく、30年には政府目標の年間6千万人が視野に入る。オーバーツーリズム対策は急務だ。 政府は観光地の住民生活、自然環境、伝統などに配慮した「持続可能な観光」を推進している。 ポイントの一つは分散である。東京や京都などに集中している観光客を他の地方にも誘導する対策だ。 紅葉や桜の見頃のように混雑しがちな時期を避け、比較的すいている時期や時間帯に来訪を呼びかける分散の意味もある。 京都では寺社の協力で参観時間を早めたり、朝にイベントを開いたりして、朝の観光をPRしている。他の地域でも参考になるだろう。 兵庫県姫路市は外国人を含む市民以外を対象に、世界遺産・姫路城の入城料値上げを検討している。修繕費に充てるという。二重料金は海外の観光地にあるが、不当な差別だと反発を買う恐れもある。慎重な議論を求めたい。 外国人によるトラブルは、母国と日本との生活習慣の違いに起因するものが少なくない。日本のマナーを多言語で分かりやすく伝える工夫が欠かせない。 訪日客の旅行消費額は23年に過去最高の5兆円を超え、今年は8兆円をうかがう。人口減少が進む地域にもたらす経済効果は大きい。貴重な雇用も生む。 オーバーツーリズムの要因は地域ごとに異なるため、対策もさまざまだ。観光客との共存策は行政や観光業者だけでなく、住民も一緒にまちづくりの視点で考えたい。それは地域の魅力を磨くきっかけにもなる。
西日本新聞