半世紀にわたり追い続けて辿り着いた、アメリカン・ファッションの現在地──特集:2024年秋冬、新しいアメリカン・ファッション
原宿キャシディは1981年にオープンしたセレクトショップの草分け的存在だ。開店以来、日本におけるアメリカン・ファッションを目の当たりにしてきた名物スタッフの八木沢博幸さんにその魅力を訊いた。 【写真の記事を読む】原宿キャシディは1981年にオープンしたセレクトショップの草分け的存在だ。開店以来、日本におけるアメリカン・ファッションを目の当たりにしてきた名物スタッフの八木沢博幸さんにその魅力を訊いた。
時代ごとに移り変わる衣服としての存在価値
八木沢博幸はアメリカンファッションに10代から興味を持ち始めたという。VANなど、ジャパニーズ・アイビーが人気だったが、当時の八木沢少年の心には響かなった。 「リアルにアメリカで流行っていた服を着たくて、アメリカ製のものにこだわりました。ただ、あの頃の日本にはまだ、アメリカン・ファッションに身を包んでいる人は街でちらほら見かける程度でしたし、アメリカ製の衣服も限られた店にしか流通していませんでした。私と同年代でファッションに興味があった人たちは、血眼になって探していたと思います」 昨今のアメカジ、アメトラブームについて水を向けると、ニューヨーク発の人気ブランドを持ち出し、印象を語ってくれた。 「2010年頃にアダム キメルがウエスタンをベースにしたコレクションを展開しましたが、ちょっと鋭くて都会的なウエスタンという切り口が新しかった。今季はルイ・ヴィトンなどがウエスタンを提案していますが、個人的にはファッションとしてすごく面白いなと思いますね。いまウエスタンを解釈するなら、パールのスナップボタンやフリンジ、あとヨークやパイピングの入ったシャツやアウターを着こなしに取り入れると雰囲気が出ると思います」 ファッションのプロである八木沢さんにとって、アメリカン・ファッションはどんな存在なのだろうか。 「ウエスタンやミリタリー、ワークなど、アメリカのファッションって、スタイルとしての完成されたものばかりですから、定期的にブームになるたびに浮かんだりしますよね。ですから、タイムレスなスタイルであると思っています。ヨーロッパのアイテムも、アメリカのものがルーツにあるように感じますし、アメリカが一つのベースになっているのかなと感じます」 アメリカンウェアの魅力について聞くと、服飾の専門家らしい答えを聞くことができた。 「西部の開拓時代の作業着から生まれたものなので、そのぶん作りが合理的ですよね。例えばウエスタンシャツは、すぐに脱げるようにボタンがスナップ仕様になっていたりするなど、そういった機能美は、いまも一般的なシャツの意匠として残っています。 また、消耗品であるバンダナも、日本でいえば手ぬぐいみたいなものですが、デザインや使い方を工夫することで、ファッションアイテムとして広く浸透していますよね。アメリカ製のアイテムは、緻密なクラフツマンシップを出自とする一方、その後マスプロダクト化され、消費されるものとなって世界に広がっています。時代ごとに服としての存在価値を変え、いまなお世界中愛されている。こういった服はほかにありません」 八木沢さんのお気に入りアイテムを以下に紹介! エンジニアード ガーメンツのエアボーンパンツ 2005年秋冬コレクションで登場した名作パンツ。座ったまま道具が収納できるよう、膝部分にジップポケットを備えるなど、アメリカ製ならではの実用性を考慮した作りが魅力。ミルスペックのように緻密に作られているが、股上の深いシルエットなど、デザイン製も優れているのだ。 タピアロサンゼルスのBDシャツ 2000年にヨーロッパでスタートし、一時休止後、2013年にデザイナーの故郷であるLAで再びコレクションを発表。八木沢さんは、ベーシックで素材にこだわったプロダクトがお気に入りなのだという。 MADE IN USAのバンダナ アメリカ出張のたびに、ニューヨークのダウンタウンにあるサープラスショップで購入していたそう。汗を拭くためはもちろん、着こなしのアクセントとしても活用しているという。ミニマルで実用性の高い究極のメイド・イン・USAアイテムだ。 八木沢博幸 「原宿キャシディ」仕入れ販売担当。1956年生まれ、東京都出身。1981年から「原宿キャシディ」の店頭に立っている、東京にアメトラを広めた業界のパイオニア。現在は接客もしつつ、仕入れも担当している。 写真・笹井タカマサ 文・オオサワ系 編集・高杉賢太郎(GQ)
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