「トランプ2.0」の主要政策で物価・金利・為替はどう動くか?
■ 米国が対外的に課す税率は約17%まで上昇という試算も 対中関税はその他の外交政策とセットで可変的な部分も多く含むだろうが、「世界全体に対する10%の一律関税」はトランプ氏が早めに表明してきた案でもある。実施可能性は相応に高いと構えておくべきだろう。 例えば、日本の対米黒字の大半を占める自動車に対する関税は現行では2.5%だが、これが12.5%まで引き上げられるケースが想定される。 貿易相手国の通貨安と対米黒字を目の敵にしているトランプ氏にとって、追加関税は稀少な実効性のある政策ツールであり、日本の自動車企業にとっては重大な関心事と言わざるを得ない。 ちなみに、対中関税60%と世界一律10%関税を加重平均すると、米国が対外的に課す税率は加重平均で現行の約2~3%から約17%まで上昇するという試算もある。輸入財に賦課された追加関税はそのまま米国の民間部門が支出するわけだから、同国の一般物価水準も当然、押し上げられる。 以上のようにラフに考えただけでも、それを日本株の上昇要因と見なすのが正しいかどうかはさておき、為替市場におけるドル高・円安は極めて真っ当なアクションと評価できる。 なお、10月29日時点のIMM通貨先物取引において円の対ドルポジションが▲20.2億ドルと8月6日以来、約3か月ぶりの売り持ちに転じていることも、トランプトレードの一環と解釈すれば合点はいく(図表(2))。 【図表(2)】
■ FRBに待ち受ける理不尽な仕打ち トランプ前政権同様、金融・通貨政策に関して言えば、トランプ氏はリフレ的要素が色濃い政策を展開しながら、低金利やドル安への志向を吐露するという支離滅裂な言動を繰り返すことが予想される。 一方で、上述するように、最終的には拡張的な財政政策や輸入単価を引き上げる通商政策、労働需給をひっ迫させる移民政策などが相まって、米国経済の一般物価はどうしても過熱しやすくなる。通貨・金融政策は、これらの政策に対して事後的に決まるに過ぎない。 この点が重要である。トランプ氏が低金利やドル安を希望しても実体経済がそれを許すかどうかは別次元の話だ。 トランプ氏の希望するポリシーミックスが実現すれば、米金利とドルの相互連関的な上昇は発生しやすく、ハト派路線を歩み始めたばかりのFRBの政策運営がナローパスを強いられる恐れはかなり高い。極端なシナリオとして「不況下の物価高(スタグフレーション)」も警戒を要するだろう。 前回政権の教訓を踏まえれば、トランプ氏の政策でインフレが下がらないのに、パウエルFRB議長がトランプ氏から叱責を受けるという滑稽な構図はいかにも予見されるものである。 市場参加者にとってはそうした思惑主導の値動きがどうしても主題になりやすいが、日本にとっての喫緊の関心事は、やはり実現の確度が高そうな追加関税である。多額の対米貿易黒字を抱える日本の円安修正がままならない現実を前に、トランプ氏が着想するのは「追加関税でこらしめる」という結論に違いない。