小関裕太・岡宮来夢ら新キャストの演技が光る迫力のステージ ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』観劇レポート
5月16日にジェラール・プレスギュルヴィックの音楽、小池修一郎の潤色・演出による『ロミオ&ジュリエット』が開幕し、新国立劇場が物語の地・ヴェローナとなって熱く盛り上がっている。公演の度にフレッシュなキャストが話題になるが、特に今回はSNS等を見ても熱い反応が多いように感じる。その大きな要因として、まず小関裕太・岡宮来夢の両ロミオ、吉柳咲良・奥田いろは(乃木坂46)の両ジュリエットの好演が挙げられるだろう。今回観劇できたのは小関ロミオ・吉柳ジュリエット・内海啓貴ベンヴォーリオ・伊藤あさひマーキューシオ・太田基裕ティボルト・栗山廉(K-BALLET TOKYO)の“死” で15日に行われたゲネプロ、また岡宮ロミオの初日となった21日マチネ(ロミオ以外は15日と同じキャスト)。そのため残念ながら奥田ジュリエット・石川凌雅ベンヴォーリオ・笹森裕貴マーキューシオ・水田航生ティボルト、キム・セジョン(東京シティ・バレエ団)の“死”は未見のため、このレビューでは既に好評をもって迎えられている彼らが、公演中にさらに役として深化していくに違いないという期待だけを述べておく。 【全ての写真】ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』より (全16枚)
前回公演を踏襲しつつ、ひとつの到達点に至った迫力あるステージ
さて、この作品は2011年以来現代~近未来的世界観で演出されてきたが、今回も細部でセリフが変更されてはいるものの大きな変化はなく、物語の展開上スマートフォンが重要な役割を果たすという特色は健在。二村周作の美術、笠原俊幸の照明、生澤美子の衣裳、KAORIalive、AKIHITO、小尻健太(尻の正式表記は尸に丸)の振付なども、基本的に前回の2021年公演を踏襲している。 もちろん前回公演も非常に素晴らしかったが、今回はあらためて音やダンスの“圧”とでも言うべき、迫力やまとまりを強く感じた。それは「R&Jダンサー」と呼ばれるアンサンブルの、精度の高さゆえのことではないか。新井智貴・岡田治己・小澤竜心・笹川慎一朗・鈴木大菜・高山裕生・松平和希・水島渓・務台悠人・安井聡・脇田暉峻・渡辺崇人・大久保芽依・岡田梨依子・奥富夕渚・北田涼子・小石川茉莉愛・塩川ちひろ・柴田海里・高橋舞音・冨岡瑞希・本多玲菜・松井英理・宮崎琴、そしてスウィングの中村翼・晴華みどり・佐藤志有・西山侑希・明部桃子・池畠結花。モンタギューとして、キャピュレットとして、彼らが表出する憎しみや楽しさ、それに伴う躍動。それがしっかりとしたベースになっているがゆえの感動なのだろう。 そして彼らに相対している大人たちも、一人ひとりの輪郭がくっきりと伝わってくる。幕開けの「ヴェローナ」で張りのある中低音で観客を圧倒する渡辺大輔のヴェローナ大公は、凛とした立ち姿の中に争いの絶えない地を統べる者の苦衷をにじませる。彩吹真央のキャピュレット夫人は不毛な夫婦仲、甥・ティボルトとの関係、娘・ジュリエットへのある種理不尽な態度と、矛盾に満ちているようで何故かとてもリアルに感じられる女性像を描く。 ユン・フィスのモンタギュー夫人は劇中でベンヴォーリオが言う「過保護なおふくろさん」、つまり息子を愛してやまない母親だからこそ、後半の悲劇における悲しみの深さが胸に迫る。モンタギュー卿は観客の想像に委ねられる部分が大きいが、貫禄のある父・当主なのだろうと思わせる田村雄一の存在感が見事。岡田浩暉のキャピュレット卿は、かなり掘り下げられている家族関係の中で、俗っぽさや脆さ、さらには色気や愛嬌までも漂わせる。「娘よ」でジュリエットへの愛情を吐露する時、間違いなく観客の心をわしづかみにしていた。 別の立場からロミオとジュリエットを愛し見守り、また歌唱面でこの作品を大いにリードする、津田英佑のロレンス神父と吉沢梨絵の乳母の存在も大きい。コミカルな要素も聴かせどころもたっぷり、そして何といっても白眉は乳母の「あの子はあなたを愛している」。その深い慈しみに胸を打たれない者はいないだろう。 さらに、極上のスパイスを利かせているのが雷太のパリス。“くせ者”感満載で目が釘づけになってしまう。第1幕で、姿は現さないものの彼のヒューマンビートボックスのスキルが発揮されていることも嬉しい。