ロボタクシー、なぜテスラやグーグルは推進しGM・ホンダは撤退するのか…ITとクルマでまるで違うコスト感覚
■ 欧米を追いかけてきた日本の自動運転開発 自動運転に関する変遷を振り返ると、2000年代に米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA:発音はダーパ)が実施した、自動運転車コンテストがその後の自動運転の実用化に向けた大きなきっかけだった。 同コンテストは合計3回開催されたが、その参加者が大学で学内ベンチャーを立ち上げたり、大手IT企業や欧米や中国の自動車メーカーにスカウトされたりして、自動運転の量産開発が加速していった。 この頃までは自動運転の量産化に向けた、実質的な創成期だと言える。 日本もそうした世界の動きに遅れまいと、内閣府が中心で進める国家プロジェクト「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム」の中で2期、9年半にわたり自動運転の産学官連携を推進した。 その結果、高精度3次元地図の実用化、ホンダ「レジェンド」による世界初の自動運転レベル3の量産、国際協調、そして人材開発など数多くの成果を上げた。 SIPの自動運転プロジェクトの幹部は、同プロジェクトが終了する際、「日本は欧米に比較して周回遅れだったが、やっとこのレベルまで来た」と感無量の様子だったことを思い出す。 それが今、先ほど指摘したような大きな転機を迎えている。
■ ロボタクシーは「コスパが悪い」? 筆者は前述のDARPA自動運転コンテストが実施された頃から、世界各地で自動運転に関する取材を定常的に行ってきた。その上で、自動運転における現在の状況は、「普及期に向けた調整期」であり、普及のキモは「コスパ(コストパフォーマンス)」だと捉えている。 日本では、国が地域交通を中心に2025年度に全国約50カ所、そして2027年度には100カ所で自動運転の実用化を目指している。 また、高速道路でも自動運転トラックを想定した、自動運転車優先レーンが2024年度末から2025年度に新東名高速道路の一部で設置される。時間帯は、土日祝日と特定日を除く。夜10時から早朝5時まで。 その後、実施地域や自動運転レベルを上げて、2035年には東北から九州までの高速道路で、大手・中小の事業者が自動運転トラックを数千台規模で走らせるという想定だ。 こうした、走行エリアを地域社会の特定されたルートや、高速道路などの自動車専用道などに限るのであれば、自動運転の安全性を一定以上のレベルで担保することは可能だろう。 そのための投資コストについても、SIPを含めこれまでの研究開発を踏まえれば、落としどころを想定することも可能だと思う。実際、自動トラック事業の関係者も「コスパが重要だ」と指摘する。 一方で、ウェイモやテスラなどが実用化を目指す、既存タクシーを代替として公道を自由自在に走るロボタクシーという視点に立つと、コスパを計りにくい。莫大な投資コストや万が一事故を起こした場合の訴訟リスクなどを考慮すると、既存の自動車業界の発想では明らかに「コスパが悪い」と映る。 その上で、日本の自動運転事業関係者の中には「(ウェイモやテスラなど先行する企業が)生成AIによるアルゴリズムをある程度、確立すれば、それを応用する(実質的に後追いする)方が結果的にコスパが良い」という意見もある。 果たして、自動運転の普及に向けた調整期は、これからどのように進展していくのだろうか。各地の現場取材をこれからも続けていきたい。 桃田 健史(ももた・けんじ) 日米を拠点に世界各国で自動車産業の動向を取材するジャーナリスト。インディ500、NASCARなどのレースにレーサーとしても参戦。ビジネス誌や自動車雑誌での執筆のほか、テレビでレース中継番組の解説なども務める。著書に『エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?』『グーグル、アップルが自動車産業を乗っとる日』など。 ◎Wikipedia
桃田 健史