「エビチリ」落書きは“犯罪”か、“アート”か… 器物損壊罪なら「3年以下の懲役」
落書きも「表現の自由」?
――落書きとアートの違いを分ける、法律上の明白な基準はあるのでしょうか? 杉山弁護士:すくなくとも法律の議論では、「アートだから無罪」という主張は基本的に受け入れられないと思います。 絵を表現する場所は、他人の家以外にもあります。他人の家や建造物に落書きする行為を「アート」と認めて法律で保護してしまうと、今度は家や建造物の所有者が持つ「財産権」が後退してしまいます。そこまでして落書きを保護する理由はないと考えられます。 器物損壊は、被害からの告訴がなければ検察が起訴できない、親告罪です。落書きが犯罪として取り扱われないことが多いのは、器物損壊という程度にとどまっており、権利者が告訴せず事件化しないからに過ぎません。 落書きする行為そのものが適法であるということは、ほとんどないでしょう。 なお、ストリート・アート以外の分野で「芸術であるかどうか」が法律的に問われる問題としては、文学作品などにおける「わいせつ表現」があります。この場合については、文章中に占めるわいせつな表現の量や程度などを考慮しながら、違法か適法かを判断するケースがあります。 ――落書きを取り締まることと「表現の自由」の兼ね合いについて、法律上はどうバランスを取っているのでしょうか。 杉山弁護士:憲法では、その自由が認められるべき理由と、それが規制されることでどうしようもならなくなる程度についてを細かく分析しながら、「許容される自由」の程度を判断していきます。 ストリート・アートについては、他人の家や建造物を勝手に使わなくても、キャンバスに描いて展示したりネットで表示したりするなど、自分の描いた絵を他人に見てもらう手段は他にあります。 憲法的には「他人の家を勝手に使うことまで認める理由が見当たらない」と判断されることになるでしょう。 ただし、ストリート・アートの政治的な背景や歴史的背景をふまえると、政治権力が特定の落書きだけを問題として取り上げ、非親告罪である建造物損壊で狙いうちにするといった極端な事態が起こった場合には、憲法による保護が必要な場面もあるかもしれません。 とはいえ、一般的な落書きについては「自分の家や自分の持ち物でやりなさい」という結論になるでしょう。
弁護士JP編集部