『アンメット』『光る君へ』『最愛』『アンナチュラル』 “名作に必ずいる”井浦新の吸引力
井浦新が見せる一つひとつの表情には、その役の人生がある
『アンメット』の序盤、大迫の登場シーンはそこまで多くはなかった。それなのに、物語のなかで大きな存在感を放っているのは、井浦が演じているからだろう。ふとした表情も見逃してはいけないように感じさせる吸引力が、彼にはある。 では、わたしたちは、なぜ井浦の演技に惹きつけられてしまうのか。今までは、理屈では語れない本能的な感覚で惹かれているのだと思っていた。しかし、『アンメット』を通して、少しずつ分かってきたような気がする。 井浦が見せる一つひとつの表情には、その役の人生があるのだ。たとえば、『アンナチュラル』の中堂系。彼が無愛想な表情をしていたり、ぶっきらぼうなことを言っていても、なぜかまるっと愛せてしまうのは、そうなるまでの過程を感じさせるような表現を井浦がしてくれているから。 “何か”ある演技をするには、“何か”が起きるまでの過程をしっかり落とし込まなければならない。裏切ったり、人を傷つけたり。そのアクションを起こしてしまうまでの人物の葛藤を、井浦は自分のなかで咀嚼して、体現しているのだろう。ゆえに、視聴者が置いてきぼりにならない。 そのため、大迫が実は“何か”を抱えていたとしても、どこか納得できてしまう自分もいる。ひとりになったときにふと見せる寂しげな表情。西島医療グループの最高権力者・西島(酒向芳)と話すとき、なんだかビジネスマンっぽい顔になる瞬間もあった。思い返せば、井浦はたくさんのヒントを、わたしたちに与えてくれていたのだ。 やっぱり、大迫はミヤビの記憶障害の原因に関わっているのだろうか。それとも、このままポワポワなキャラクターであり続けるのか。どちらに転んだとしても、受け入れる準備はもうできている。
菜本かな