「しょうがねぇな~」火野正平さんに翻弄された思い出 大人で、人懐っこくて、誰とも違う男の匂い
◇俳優・火野正平さん死去 【悼む】「火野正平=タバコ」だった。いつの取材でも、片手には煙が上がっていた。晩年、ストイックに自転車を駆っていた姿とはおよそ結びつかない。 2013年、スポニチ65周年の企画でインタビューしたときも、常に紙巻を離さなかった。この取材は「振り返り」の趣旨が強かったため、こちらもいつもよりは過去の際どいことを聞きたい心中が丸出しだったと、振り返れば思う。でも取材中は「しょうがねぇな~」とか言いながら、見出しになるようなことをたくさん話してくれた。事実、後日の紙面は「プレーボーイ回顧録」で埋もれた。 ドキッとさせられたのは、最後の写真撮影。火野さんから「タバコを吸ったカットにしよう」といつもの要望があった。いつものようにセクシーで、色気があって、記事にも合ってるな…などと考えながら見ていると、最後に歩み寄ってきて「今日は、ケムに巻く、ってことでどうだ?」とニヤリ。その時までは手玉に取っていたつもりだったが、その奔放な言葉と無邪気な笑顔に、理屈でなく引きつけられ思わず赤面したのをはっきり覚えている。 思えばタバコを好んだのは、作家で詩人のチャールズ・ブコウスキーへの思慕、憧れに伴う部分も大きかったのだろうと思う。ただ、火野さんのタバコからは、誰とも違う煙の匂いがした。大人で、だけど人懐っこくて、何より自分のしたいことを優先した男の匂い。合掌。(元文化社会部音楽担当・桑原淳)