【解説】中国・北京に潜伏“北朝鮮IT集団”の外貨獲得工作 元国連の専門家に聞く
北朝鮮のIT技術者集団が中国の首都・北京に潜伏し、外貨獲得工作を進める実態がNNNの取材で明らかになった。IT技術者は、中国人男性と商談を進めながら、各国企業からリモートワークを受注していたとみられる。今回、撮影された映像や入手資料、そしてIT技術者を使った北朝鮮の外貨獲得工作について、国連安保理北朝鮮制裁委・専門家パネル元委員の竹内舞子氏に話を聞いた。
■明確な「国連制裁違反」 稼いだ金は核ミサイル開発に
――北朝鮮のIT技術者とみられる集団が北京で確認された。どのような問題があるか。 「国連の対北朝鮮制裁違反になる。2017年の制裁決議で、北朝鮮労働者を海外に派遣して金を稼ぐことが禁止された。各国は北朝鮮労働者を全て送還すると定められている。すでに北朝鮮は国境封鎖措置を緩和しており、送還できないという言い訳は通じない」 ――“正体”や目的は。 「国外で主に行うのはエンジニアとして通常の活動とみられる。ただし気をつけるべきことは、彼らを育成・派遣しているのが、朝鮮労働党・軍需工業部や国防省、原子力工業省といった“核ミサイル開発を主導する組織”だということ。IT技術者が稼いだ金が兵器開発に直接、使われている可能性が極めて高い」 ――ハッカーとの関連は。 「これまではIT技術者がエンジニアとしての活動、ハッカーが攻撃的な手段で“分業”して金を稼ぐといわれてきた。ところが最近、外貨獲得やサイバー攻撃のため両者が協力したと見受けられる事例も出てきた」 「IT技術者だとしても、例えば請け負い業務中に企業のシステムに進入経路を作っておき、そこをハッカーが利用してサイバー攻撃を仕掛ける。あるいは、外部と接触できないハッカーに代わって、IT技術者が不正プログラムを取引先に売ることも考えられる。コロナ禍で本国に帰国できなくなった時期に、両者の交流が一層進んだのではないか」
■昼夜逆転、行動監視…過酷な潜伏生活
――今回、撮影されたIT技術者の映像について。 「実際のやりとりや彼らが使う資料を入手するなど、精緻な取材をしたものは極めて珍しい。非常に貴重な映像だと思う」 「いくつか映像で気になる点があった。例えば、昼夜が逆転しているとみられること。北朝鮮IT技術者の典型的な手口としてアメリカ政府も指摘しているが、彼らは欧米などで活動するエンジニアだと装うために、時差にあわせた活動をしている。彼らも昼夜逆転しているとすれば、居住地や身元を偽っている可能性がある」 「また、拠点では複数の人が活動しているようだが、2人しか外出していないのも非常に気になる点。国連も指摘しているが、北朝鮮労働者は政府の監視要員の下で活動し、外部との接触は厳しく制限されている。全く家から出てこない人がいるとすれば、外部との接触を制限されているか、当局などから隠れている可能性がある」 ――北京に潜伏拠点を構える理由は。 「通常、北朝鮮労働者が多くいるのは本国との国境に近い中国東北部だが、あえて北京で活動する理由は2つ考えられる。1つは、都市に紛れ込めば北朝鮮の人間だと分かりにくく、目立たないこと。ある意味で都市を“隠れみの”として使っている可能性がある」 「もう1つは、より多くのビジネスチャンスを得るため。中国東北部だと事業も限られ、すでに市場は飽和状態にあるかもしれない。新しい商売相手を見つけるのも難しいかもしれない。中国に限らず、アジアや欧米などのビジネスパートナーを探すため、北京の拠点を使っている可能性もある」