統一教会は「いい人ばかり」だった 教団という“共同体”の人間関係に絡めとられた若者が語る「洗脳体験」
洗脳ののち“正体”を明かされた
救世主は東方(中東)よりもさらに東方(極東)に出現するとされ、日本は女神信仰の国かつ韓国を迫害した国、中国は共産主義国家だということで「サタン側」だとされる。その上で、朝鮮半島が政治的に分断されているという事実すら、韓国が救世主の国だということを強弁するために利用される。 【イエスは、堕落世界を創造本然(ほんぜん)の世界に復帰されるために再臨されるのであるから、まず再臨されるはずの国を中心として、共産世界を天の側に復帰するための摂理をなさるということは確かである。それゆえ、イエスが再臨される韓国は神が最も愛される一線であると同時に、サタンが最も憎む一線ともなるので、民主と共産の二つの勢力がここで互いに衝突しあうようになるのであり、この衝突する一線がすなわち38度線である。すなわち、韓国の38度線はこのような復帰摂理によって形成されたものである。(『原理講論』、590ページ)】 韓国と北朝鮮を分断する38度線で、じつは神とサタンの軍勢が民主と共産という世俗勢力として対峙(たいじ)しているというのだった。「洗脳」ののち、正体が統一教会だと明かされたが、みほさんは入会申込書を書いて、社会人として2年で貯めた50~60万円を献金した。
脱会後に「たいへん」だったこと
ホームで共同生活を送り、『原理講論』を学んだ。昼は介護職として勤務し、夜は「伝道」に励んだ。6年か7年をそうやって過ごしたものの、親とプロテスタントの牧師による脱会支援が始まった。彼らは邪悪な「サタン」が遣わしているのだと感じたが、親から贈られた本を読んでみると、もしかしてじぶんはマインドコントロールにかかっているのかなと思うようになった。みほさんは教団に脱会届を内容証明で郵送した。 みほさんは統一教会という「共同体」の人間関係に絡めとられたが、教団が約束する「地上天国」という究極の共同体には、初めは関心が湧かなかった。それまでみほさんが生きてきた世界観から離れすぎた観念だったのだ。しかし講習を受けていると、なんだかじぶんもぜひ「地上天国」に行きたいと願うようになってしまった。子ども時代のみほさんはいじめられっ子で、他者と深く対話をする機会を持たなかった。統一教会に入ったら、まわりは「いい人ばかり」だった。やめるまでに、「いい人」たちのことが思いかえされ、ためらいは大きかった。 脱会後、「人間関係の作りなおし」という課題が待っていた。みほさんは社会人サークルに入り、野球チームを結成した。被害者家族の会のメンバーに加わり、さまざまな人から心のケアを受けた。しゃべる内容が教義に「汚染」されていたから、「もとの言葉を組みたてなおす」のがたいへんだったと語る。 (続)
横道 誠