「スリムクラブ」真栄田 人生変えたM-1で相方がくれた言葉
コンビ組んでから、毎日同じことを言いました。「お前でいいんだよ」って。そして、結成から5~6年経った頃になって、それが浸透してきて、少しずつ、少しずつ、内間らしいゆっくりしたしゃべり方が出るようになってきたんです。 すると、しゃべり方に無理もないし、本当にそういうしゃべり方なのでリアリティーもあるし、独特の間になってもお客さんが待ってくれる。そして、そこでたっぷり間を取ってから出す一言というのは、確実にウケるんです。そうやって、成功体験が出てくると、また次もゆっくりしゃべろうとする。そういう積み重ねで、内間本来のしゃべり方の割合がわずかながら日々、増えていったんです。 ただ、光が見えるまで5~6年。正直、長かったことは長かったです。吉本のライブでトーナメントみたいなのがあって、何とか決勝まで勝ち上がった。あと一つ勝てば優勝というところで、また内間が誰かになるクセが出て、負けてしまう…。それは悔しいし、残念でなりません。そんなことが多々ありました。 ただ、それでも、それでも、絶対にいけると確信していたんです。その源は、あの“一品”発言。あれを聞いてますから。何があっても、あのセンスを出せば、必ずウケる。実際、普段、その感覚でしゃべっている内間は本当に面白い。今は彼に自信がないからそれを出せないけど、出せばいける。それを信じていたんです。
そして、2010年の「M-1グランプリ」。ここで準優勝して、明らかに人生が変わったんですけど、実は、決勝の日、僕、ムチャクチャ緊張してたんです。「エンタの神様」(日本テレビ系)で、ピンのネタとして“フランチェン”というのをやらせてもらっていたのが2007年。それまでは月の収入が5000円くらいだったのが、一気に50~60万円になりました。ただ「エンタの神様」の流れが終わって、収入はまた元の5000円に戻った。しかも、一発屋という見られ方もしていた。ゼロからただただ上を目指すということよりも、一発屋というレッテルがある方がより大変。ゼロというかマイナスからの再スタートになってしまう。 だからこそ、はい上がるには「M-1」しかない。ここが一世一代の大勝負。その思いが、決勝当日、一気に押し寄せてきてしまった。ガチガチに緊張して、余裕が全くなくなってしまったんです。そんな中、本番の生放送がスタート。「絶対に、ここで失敗できない…」という感覚がより強くなって、もっと自分をがんじがらめにしているのが分かるんです。でも、考えれば考えるほど、そこにはまっていく。 そうしているうちに、出番5分前になって、スタジオに向かうことになりました。ステージ裏に続くエレベーターがあって、そこでは極限状態にまでガチガチになってしまってました。これはダメだ。さすがにそう思った瞬間、内間がポンとオレの肩を叩いて言ったんです。 「真栄田さん、今までありがとうございました。僕、本当に真栄田さんに感謝しています。それを今どうしても伝えたくて…。僕、ポンコツじゃないですか。ネタも覚えきれない。ネタも書けない。かむ。緊張する。本当にポンコツって分かります。そんな僕が日本の漫才師の9組にまで選ばれました。全部真栄田さんのおかげです。本当にありがとうございます。僕が見たところ、真栄田さん、今日調子悪いでしょ?実は、僕、今日、絶好調なんです。だから、オレを見ててください。オレは真栄田さんが好きだし、真栄田さんのネタが大好きだから、オレは真栄田さんが言ったことで絶対に笑います。今日はいつも以上に笑うと思います。だから、真栄田さんは笑ってるオレだけ見ててください。だったら、何も心配することないでしょ?ここまで連れてきてくれて、本当にありがとうございます。じゃ、楽しい漫才をやりましょう」 一気に涙が出ました。今でも、話してると泣いちゃいます…。そして、颯爽とエレベーターに乗った瞬間、あいつ、つまづいてコケたんです(笑)。一瞬で感動と笑いがやってきて、気づいたら、ふと普段の自分に戻ってたんです。だから「M-1グランプリ2010」の映像を見てもらうと分かるんですけど、登場した瞬間、オレ、ものすごく笑顔なんです。