AIはどの程度、選挙に影響を与えているのか?「民主主義を蝕む」と警鐘を鳴らす専門家も
いま現在、人工知能(AI)はあなたの投票行動にどの程度影響を与えているだろうか? 専門家は、AIとディープフェイクが世界の選挙にどのような影響をもたらすのか注視しており、英国で行われる総選挙がその試金石になると話す。 2024年は、世界中で約20億人の有権者が投票資格を持つ。 データ科学に関する英国立のアラン・チューリング研究所は、2023年1月以降行われた世界の112の国政選挙を調査した結果、19件でAIによる干渉を認めたという。 ただ、同研究所のストックウェルさんは、AIが選挙結果に大きな影響を与えたという明確な証拠はないと話す。 英国立チューリング研究所 サム・ストックウェルさん 「例えば世論調査のデータと比較して、現時点でそうしたことを示す明確な証拠はない」 それでもストックウェルさんは、AIの誤った使い方が民主主義のプロセスを蝕む可能性があると指摘する。 「政府や情報源への信頼の低下、政治的二極化の深化、同じ意見や情報を繰り返すエコーチェンバーの強化などこれらすべてがディープフェイクやAIの脅威によってさらに強まっている」(ストックウェルさん) オックスフォード大学のサンドラ・ワクター教授は、テクノロジーが高度化するにつれて、事実とフィクションの境界線を引くことがより難しくなるだろうと話す。 「誰もが危険にさらされていると思う」 特にアルゴリズムが、有権者が気付かないうちに慎重に選別されたオンラインの世界をフィルタリングする際には。 オックスフォード大学 ワタラー教授 「自分が誘導されていることにすら気づいていない。例えば選挙に干渉しようとするには絶好のチャンスだ。(中略)知識を体験し、確認する従来の方法は、テクノロジーとともに変化しなければならない。『自分の目で見たから信じる』だけではダメだ。オンラインで見るものはすべて、おそらく非常に批判的に検討する必要があることを認識する必要がある」 例えばインドで総選挙の期間中、著名なボリウッド俳優2人がモディ首相を批判する動画が拡散した。だがこれはディープフェイク動画だった。 規制当局が介入すべき時が来たという人も。 サイバーセキュリティ企業サイバーアークのリッチ・ターナーさんは、人を信じ込ませるディープフェイク音声を作成することは難しくないとして、そのやり方を実演してくれた。 AIで作ったターナーさんの声 「ディープフェイクは楽しくてクリエイティブだが、リスクも伴う」 サイバーアーク リッチ・ターナーさん 「それを規制する仕組みはなく、本物のコンテンツか検証する仕組みもない。規制当局や立法者が今後数年間で対処しなければならない問題だと確信している」 フェイスブックやX、ユーチューブなどの主要なソーシャルメディアはディープフェイクを禁止し、削除する取り組みを行っているが、対策は不十分だ。 チューリング研究所は、英選挙管理委員会などに対し、選挙運動中の政党によるAIの公正な利用に関する指針を策定し、自主的な合意を求めるよう提言した。 米国では、ラジオやテレビの政治広告において、その内容がAIが生成したものであるかどうか開示の義務化について、当局者の意見は分かれている。 専門家は両国の選挙におけるトレンドの変化を注意深く見守っている。