業界トップ級の画像生成AIツール「Recraft」 Adobeユーザーは体験する価値あり
デザイン系の画像生成AI「Recraft V3」の使い方。特徴となるテンプレートの活用方法も含めて紹介。 【もっと写真を見る】
2024年10月30日、AIスタートアップのRecraftが画像生成モデル「Recraft V3」を発表した。従来のAI画像生成モデルを上回る品質を実現し、デザイン作業に特化した機能を強みとしている。 写真のような写実的な表現からイラストやアイコンまで、多彩なスタイルでの画像生成に対応。無料プランでも1日50枚まで画像を生成できるほか、画像内のテキスト配置を微調整できるなど他のサービスにはない実用的な機能も備えている。 この記事では、まず基本的な画像生成の手順を説明し、その後で用意されている5つのテンプレート機能を順に、各機能の特徴と実践的な使い方を具体例を交えながら紹介していく。 基本の画像生成(Create new project) まずはテンプレートを使わない、基本的な画像生成から始めよう。 ブラウザーでRecraft.aiにアクセスし、画面右上の「Get Recraft Free」をクリック。 メールアドレスを登録してアカウントを作成しよう。またはグーグル、Discord、アップルなどのアカウントを使用することもできる。 アカウントが作成されると最初に「テンプレート選択画面」が表示されるが、まずはテンプレートを使用せず、「Create new project」をクリックして新しいプロジェクトを作成しよう。 新しいプロジェクトの画面が表示された。 一見して一般的な画像生成AIとはかなりUIが異なっていることに気付くだろう。MidjourneyやDall-Eのような従来の画像生成AIが、プロンプトやパラメーターを入力していくことで逐次的に画像を生成していくのに対し、Recraftでは画面中央の広いキャンバス上に画像やテキストを自由に配置し、グラフィックソフトのように作業を進めていく形になっている。 これはPhotoshopなどのグラフィックソフトに慣れているユーザーにとって直感的なインターフェースだ。 画面左上にはプロジェクト管理やツール類のボタンが並んでいる。ホームボタン、ユーザーメニュー、ファイル出力、アカウント設定などの基本機能に加え、Tシャツや吹き出しアイコンなど、モックアップ作成に便利なツールも配置されている。これらのツールは生成した画像をTシャツなどの商品に合成したり、テキストを追加したりする際に使用する。 画面右上には画像の保存や共有に関するボタンが配置されている。「Export」で画像のダウンロード、「Share」で他のユーザーとの共有が可能だ。 数字で表示されている「42」は残りのクレジット数。無料プランでは1日50クレジットが付与され、24時間ごとに更新される。 「Upgrade」ボタンからは有料プランへのアップグレードができる。また、その横のアイコンはプロジェクトの設定メニューを開くためのものだ。 画面右下には編集に関する基本的なコントロールが並んでいる。「Undo(元に戻す)」「Redo(やり直し)」の操作ボタンに加え、表示倍率の調整(50%)、レイヤーパネルの表示切り替え、スタイル設定の表示切り替え、ヘルプメニューへのアクセスが可能だ。 ここでは画像生成をしたいのでプロジェクトパネルから「Images」をクリック。 すると、左上に「NEW > IMAGE」パネルが表示されキャンバス上には水色の正方形が描画された。この画像はフレームと呼ばれこの中に画像が生成されることになる。 フレームのサイズは初期設定で1024×1024ピクセルだが、左側パネルのサイズ設定や、フレームの角をドラッグすることで自由に変更できる。 次にパネル上のスタイルセレクターをクリックし、スタイルを「Recraft V3 Raw」から「Photorealism」に変更しよう。 スタイルの変更が終わったらプロンプトを記述し「Recraft」ボタンをクリックすれば生成が開始される。 なお、プロンプトは英語での入力が基本だが、日本語でも画像生成は可能だ。 プロンプト:A photorealistic portrait of a young woman with dyed pastel pink hair and subtle makeup, wearing trendy streetwear, standing in a bustling urban crossing with neon signs in the background パネル下部ではアスペクト比の変更や、生成する画像の枚数(無料版は2枚で固定)などを指定できる。 生成された画像は、キャンバス上でドラッグして移動したり、角をつまんでサイズを変更することが可能。また、画像を選択した状態で複製や削除もできる。 「Fine-tune」と「Variate」 画像を生成した後、さらに詳細な調整をしたい場合は「Fine-tune」機能を使用する。 「Similarity to original image」スライダーを調整することによって、元の画像との差異を「Quite similar(とても似ている)」から「Different(異なる)」まで設定可能だ。 また、この画面では生成された画像の部分的な編集も可能。特定の領域だけを変更する「インペイント」や、画像の外側に追加で描画する「アウトペイント」機能を使って細かな調整ができる。さらに「Adjust colors」では画像全体の色調を調整することができる。 これらの機能を組み合わせることで、最初に生成された画像をベースにしながら、理想の画像に近づけていくことができる。 「Variate」タブでは、生成された画像のアスペクト比(縦横比)を変更することができる。左側パネルには一般的なアスペクト比のプリセットが表示されており用途に応じて適切なサイズを選択できる。 SNSの投稿やウェブサイトのヘッダー、印刷物など、異なるメディアで使用する際に便利な機能だ。また、ここでも「Adjust colors」で色調の調整が可能となっている。 テンプレートを使ってみる Recraftには基本的な画像生成機能に加えて、5つの専用テンプレートが用意されている。これらのテンプレートを活用することで、目的に応じた最適な設定で作業を始めることができる。 「BASICS」は通常の画像生成に特化したテンプレート。「MOCKUPS」はTシャツや看板など、生成した画像を実際の商品に合成するためのテンプレートだ。「VECTOR GENERATION」ではロゴやアイコンなどのベクター画像を生成でき、「REMOVE BACKGROUND」は画像から背景を自動で削除する。「ERASE AREA」では画像の特定部分を消去して再生成でき、「UPSCALE」は画像の解像度を向上させることができる。 ここでひとつ注意点を。画面に表示されている「MOCKUPS」などの各テンプレートアイコンは、一見するとテンプレートの選択画面のように見えるが、実はこれらをクリックすると各機能の基本的な使い方や活用例を学ぶことができるチュートリアル(英語)が表示される。 実際に各機能を使用する場合は、まず「Create new project」から新規プロジェクトを作成し、その後各種ツールパレットなどから目的の機能を選択して作業を進めていく。 直感的ではないかもしれないが、このようにプロジェクトを作成してから機能を選ぶ形式により、1つのプロジェクト内で複数の機能(テンプレート)を組み合わせて使用できるというメリットがある。 モックアップを作成する では実際にテンプレートを使った画像生成を試してみよう。「MOCKUPS」テンプレートは、生成した画像やロゴを様々な商品や媒体に合成するための機能だ。Tシャツ、パーカー、トートバッグといった衣類や雑貨はもちろん、看板、ウェブサイト、名刺など、幅広い用途に対応している。 まずは「Create new project」をクリックして新しいプロジェクトを作成。 プロジェクトパネルが表示されるので「Mockup」をクリック。 今回はTシャツのモックアップを作成したいので「white t-shirt」というプロンプトを入力し「Recraft」をクリック。 白いTシャツのモックアップが生成され、その上に図柄を生成するためのフレーム(レイヤー)が表示される。 ちなみにプロンプトを「white t-shirt」ではなく「white t-shirts」にしてしまうと複数のTシャツが生成されてしまった。 " 次にTシャツの柄となるフレーム内に表示させたい画像のプロンプト(ここでは「ice cream」)を書いて「Recraft」をクリック。 生成が開始される。 アイスクリームの画像が生成された。 サイズや位置を調整して完成だ。 生成された画像。シャツのシワの部分などもきちんと処理されているのがわかるだろう。 画面左上のツールバーから「T」を選んでテキストを入力することも可能。 画像の下に「ASCII」のロゴを入れるといったこともできる。 さらに「On Mockup」パネルの「Tiles」を「Repeat」にすることで、モザイク状に画像を配置することも可能だ。 合成後は画像のサイズや位置を調整できるほか、商品自体の色を変更したり、異なる角度から見た画像を生成したりすることも可能だ。商品カタログやECサイト、プレゼン資料など、様々な場面で活用できる機能となっている。 ベクター画像を生成する 「VECTOR GENERATION」は、ロゴやアイコンなどのベクター形式の画像を生成するためのテンプレートだ。通常の画像(ラスター形式やビットマップ)が点の集まり(ピクセル)で構成されているのに対し、ベクター画像は数学的な計算式で形状を定義している。そのため、拡大縮小しても画質が劣化せず、Webサイトからビルボードまで、様々なサイズで使用できる。 まずは「Create new project」をクリックして新しいプロジェクトを作成、プロジェクトパネルから「Image」を選ぼう。 次にスタイル名をクリックしてセレクターを開き、右上にあるフィルターで「Vector Art」を絞り込もう。 同様に「Photorealism」「Illustration」「Icon」で絞り込むこともできる。 標準的な「Vector Art」スタイルを選択する。 スタイルを選択したら、プロンプトを入れて「Recraft」をクリックしよう。 プロンプト:cyber kitten ベクター形式の画像が生成された。 生成されたベクター画像はSVG形式でエクスポートでき、Illustratorなどのグラフィックソフトでさらなる編集も可能だ。また、既存の画像(JPGやPNG)をベクター形式に変換する機能も備えており、既存のデザイン資産の活用もできる。 また、ブランドカラーなど特定の色やパレットを指定することで、企業やサービスのアイデンティティに合わせた制作もできる。 背景を除去する 「REMOVE BACKGROUND」は、画像から背景を自動で除去するテンプレートだ。AIが画像の前景と背景を分析し、人物や物体などの主要な被写体だけを切り抜くことができる。 使い方は簡単。まずは画面上部の「Import image」アイコンをクリックして、背景を切り抜きたい画像をアップロードする。 画像はドラッグ&ドロップでもアップロード可能、また、AIで生成したものでも構わない。 今回はこの猫の画像で試してみよう。 あとは「Remove Backgroud(はさみ)」アイコンをクリックするだけ。 数秒で背景が除去された。この状態でダウンロードして画像編集ソフトにもっていくのもいいだろう。もちろんここで編集を続けても構わない 新しい背景に置き換えることも簡単だ。 この機能は特に商品写真やプロフィール画像、マーケティング素材の制作で威力を発揮する。例えば、ECサイトの商品画像から背景を除去したり、プロフィール写真を切り抜いてプレゼン資料に使用したりできる。髪の毛や複雑な模様など細かいディテールを含む画像では多少の手動編集が必要になる場合もあるが、ほとんどの画像で高精度な切り抜きが可能だ。 ただし無料プランでは一日にアップロードできる写真の枚数が3枚に制限されているので注意が必要だ。 エリアごと消去する 「ERASE AREA」はPhotoshopの「生成塗りつぶし(削除)」に似た機能で、画像の特定の部分を消去し、AIが周囲の状況から自然な見た目に補完する機能だ。例えば、写真に写り込んだ不要な人物や物体を削除したり、画像の一部分だけを違う要素に置き換えたりすることができる。 先ほどと同様に「Import image」からイメージをアップロード。今回はこの写真に写っている人物を消去してみよう。 画面上部の「Erase area(消しゴム)」アイコンをクリック。 スライダーを動かすことで消しゴムのブラシサイズを調節できる。 消しゴムツールで左側の人物を塗りつぶす。 マウスから指を離した瞬間に生成が開始される。しばらくすると人物の削除が完了。背景も補完されている。 同様に右の人物も削除しよう。 電車だけの写真を作成することができた。拡大してよく見ると不自然な部分もあるが、それもそのうち改善されるだろう。 このように観光写真から他の観光客を消したり、配置を変更したいロゴやテキストの背景を自然に補完したりと、Photoshopのような専門的なスキルがなくても、直感的な操作で自然な編集が可能なのが特徴だ。 アップスケールする 「UPSCALE」は、低解像度の画像を高解像度に変換する機能だ。通常の拡大とは異なり、AIが画像の細部を分析し、不足しているディテールを予測・補完することで、画質を劣化させることなく高解像度化を実現する。 使い方は非常にシンプルで、画像をアップロードまたは生成した後「アップスケール」アイコンをクリックするだけだ。 わずか数秒で画像の解像度が向上し、より鮮明な画像が得られる。元の画像の構図や重要なディテールを保ちながら、画質だけを改善できるのが特徴だ。 この機能は様々な場面で活用できる。例えば、古い写真を現代的な解像度にアップスケールしたり、ウェブサイト用に作った画像を印刷用に高解像度化したり、プレゼンテーションやマーケティング素材の品質を向上させたりできる。SNS投稿用の小さな画像から大判ポスターまで、用途に応じた最適な解像度に調整することが可能だ。 通常の高解像度化に加えて、「Creative Upscale」という発展的な機能も用意されている。通常のアップスケールが元画像の忠実な高解像度化を行うのに対し、Creative Upscaleではより積極的な画質の改善や創造的な補完を行う。 例えば、ぼやけた写真の細部をより鮮明に描き直したり、古い写真のノイズや傷を除去しながら解像度を上げたりすることができるという。また、風景写真の空をより劇的な表情に変えたり、テクスチャをより豊かにしたりと、単なる高解像度化を超えた創造的な画質向上も可能だ。 ただし、この機能は元の画像から大きく変化する可能性があるため、オリジナルの雰囲気を重視する場合は通常のアップスケールを使用することが推奨されている。 画像編集ソフトのノリで生成AIを Recraftは単なる画像生成AIではない。キャンバスやレイヤー、ベクターグラフィックなど、従来の画像編集ソフトの概念を取り入れながら、そこにAIの強力な機能を組み込んだブラウザーベースの次世代デザインツールだ。Adobe Expressに近い立ち位置といえるが、より高度なAI機能を備えている。 そのため、PhotoshopやIllustratorといった従来の画像編集ソフトの操作に慣れたデザイナーほど、その真価を発揮できるだろう。無料プランでも十分な機能が使えるため、次世代のデザインワークフローを体験してみる価値は十分にある。 田口和裕(たぐちかずひろ) 1969年生まれ。ウェブサイト制作会社から2003年に独立。雑誌、書籍、ウェブサイト等を中心に、ソーシャルメディア、クラウドサービス、スマートフォンなどのコンシューマー向け記事や、企業向けアプリケーションの導入事例といったエンタープライズ系記事など、IT全般を対象に幅広く執筆。2019年にはタイのチェンマイに本格移住。 新刊:発売中「生成AI推し技大全 ChatGPT+主要AI 活用アイデア100選」、: 文● 田口和裕