相続した「空き家」は早めの対策で税金を節約!売却時に使える2つの特例と選び方を税理士が解説
お盆シーズンや9月の連休で、実家に帰省された方も多いのではないだろうか。久しぶりに家族や親族と会った機会に、できれば話し合っておきたいのが、ご家族の財産や相続に関すること。特に「実家をどうするか」は後々問題になりがちな論点だ。 被相続人が亡くなり、ひとまず自宅等を相続したものの、誰も住まずに空き家となってしまうケースは少なくない。総務省の報道資料によると、住宅総戸数に占める空き家の割合は約14%にものぼる。 核家族化が進み、相続人は遠隔地にすでに住居を構えていることが多いため、相続はしたが、誰も住まずに、賃貸に出す手間もかけられず、空き家として放置してしまうケースが後を絶たないと考えられる。そして、住んでいないのに、家の管理や固定資産税などの維持費を払い続けることになってしまう。 元気なうちに相続人・被相続人同志で「実家をどうしたいか」などを話し合っておけば、空き家問題も起こりにくくなるのだが、実際はそうもいかないケースが多い。 ● 空き家のまま放置すると、税金が高くなる 空き家問題は国の重要事項であるため、法整備が年々強化されている。その1つが「空き家法」(空家等対策特別措置法)だ。 空き家法では、空き家が「そのまま放置すれば倒壊など著しく保安上危険な状態」などの条件に当てはまると、市区町村から「特定空家」と認定される。特定空家となると、市区町村から助言や指導、改善の勧告や命令が行われるが、命令に従わない場合、50万円以下の過料に処される場合がある。 固定資産税が高くなることにも要注意だ。住宅用地には、固定資産税等の評価額を引き下げる特例が設けられているが、特定空家の勧告を受けると適用外となる。 2023年から新たに「管理不全空家」(特定空家の前段階)が新設され、勧告を受けた管理不全空家は、特定空家と同様に固定資産税の特例が受けられない。 さらに、空き家解消の法整備強化として「相続登記の義務」が設けられた。2024年4月以降は、相続によって不動産を取得(または遺産分割)してから3年以内に相続登記をしなければならない。正当な理由なく相続登記を行わない場合は、10万円以下の過料が課せられてしまう。 このように、相続した空き家をそのままにしておくと、思わぬ出費がかさむことになる。将来的に賃貸も含めて誰も住む予定のない空き家は、売ることも検討するといいだろう。相続後は、早めに売却することで、税金面も有利になる。 ● 早めの売却なら特例の利用で税金面で有利 相続した空き家を売却する際には、いわゆる「空き家特例」の適用を受けることで、大幅な節税を図ることができる。制度の具体的な内容は以下のとおり。 【空き家の譲渡所得の特例(3000万円控除)】 相続から3年後の12月31日までに、相続した家屋及びその敷地等を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を差し引くことができる(相続人が3人以上の場合は2,000万円まで)。 <適用要件> ・昭和56年5月31日以前に建築されたもの ・相続開始まで被相続人が一人で居住していた ・相続開始から売却時まで空き家状態であること ・区分所有建築物(マンション等)でないこと ・売却先は第三者で、配偶者や親族、同族会社などではない ・譲渡年の翌年2月15日までに、更地または一定の耐震基準を満たすもの(これまで売主が更地または耐震改修工事をする必要があったが、2024年からは買主が代わって耐震改修工事等を行う場合も適用される) ・売却代金が1億円以下 ・2027年12月31日までに売却したもの 控除の金額は3,000万円と大きいものの、このように要件が細かく定められているため、場合によっては適用対象外となる。その際は、「取得費加算の特例」を使うことで、譲渡益を減らすことが可能だ。 【取得費加算の特例】 相続から3年10か月以内に、取得した相続財産(土地、建物、株式等)を売却した場合、相続税額の一定金額を取得費に加算できる。取得費を加算することで譲渡益を減らすことができ、その分譲渡所得税の負担が軽減される。 <適用要件> ・相続、遺贈により財産を取得した人であること ・その財産を取得した人が相続税を納めていること ただし、「空き家の譲渡所得の特例」と「取得費加算の特例」は併用することができないため、どちらか有利なほうを選択する必要がある。 どのように選択すればいいか、田邊美佳税理士に聞いた。 ● どちらの特例を使うかで納税額が数百万円も異なる 空き家を以下の条件とし、特例が適用できる期間内に売却したと仮定した場合で「空き家の譲渡所得の特例」と「取得費加算の特例」の、それぞれにかかる所得税・住民税をシミュレーションしてみましょう。 <税額シミュレーション> 【前提条件】 ・相続人は1人 ・相続財産5,000万円(不動産のみ)、支払った相続税額160万円、債務控除なし ・売却価格6,000万円(取得費不明、譲渡費用200万円)。不動産は昭和56年5月31日以前に建築されたもの 【パターン1 空き家の譲渡所得の特例を利用した場合】 ・収入…6,000万円 ・必要経費…計500万円 └取得費…300万円(取得費不明のため譲渡価格の5%として計算) └譲渡費用…200万円 ・差引金額…5,500万円 ・譲渡所得…5,500万円ー特別控除額3,000万円=2,500万円 概算所得税および住民税…508万円 【パターン2 取得費加算の特例を利用した場合】 ・収入…6,000万円 ・必要経費…計660万円 └取得費…300万円(取得費不明のため譲渡価格の5%として計算) └譲渡費用…200万円 └取得費加算…160万円 ・差引金額…5,340万円 ・譲渡所得…5,340万円 概算所得税および住民税…1,085万円 ※所得税・住民税は譲渡所得×20.315%で計算 この条件下では、上記の通り、「空き家の譲渡所得の特例」を使った方が節税となります。 ● 適用可能なら一般的に「空き家の譲渡所得の特例」が有利 「空き家の譲渡所得の特例」と「取得費加算の特例」は併用ができないため、有利な方を選択することになりますが、一般的には「空き家の譲渡所得の特例」の適用が有利なケースがほとんどです。 一方、「取得費加算の特例」が有利になるケースは、空き家だけを相続して、3,000万円超の相続税を払っている場合です。 他の財産も相続している場合の、取得費加算の特例の計算方法は、「自分が支払った相続税×(譲渡した不動産の相続税評価額/相続で取得した財産合計)」となるため、当計算結果が3,000万円超になる必要があります。 これだけの相続税を払う方は少ないかと思いますので、基本的には空き家の譲渡所得の特例を適用していただければ問題ありません。 【取材協力税理士】 田邊美佳(たなべ・みか)税理士 オネスタ税務会計事務所所長。公認会計士・税理士・行政書士・ファイナンシャルプランナー。相続税申告、生前対策業務に特化。国際相続案件にも対応可能。 事務所名 : オネスタ税務会計事務所 事務所URL:https://onesta-tax.com/
弁護士ドットコムニュース編集部