【稽古場レポート】萬長さんも見てくれている「天保十二年のシェイクスピア」活気みなぎる稽古場
浦井健治らが出演し、藤田俊太郎が演出を務める「天保十二年のシェイクスピア」の稽古場公開と会見が昨日11月20日に東京都内で行われた。 【画像】「天保十二年のシェイクスピア」稽古場公開に向けて説明する藤田俊太郎。(他25件) 「天保十二年のシェイクスピア」は、井上ひさしがウィリアム・シェイクスピアの作品群と江戸末期の人気講談「天保水滸伝」を題材に執筆した作品。今回は、本作の2020年上演版を手がけた演出の藤田、音楽の宮川彬良が再び集結して作品を立ち上げる。なお本公演では、2020年版できじるしの王次役を演じた浦井が佐渡の三世次役を務める。 稽古場公開では、4つのシーンが披露された。まずは佐渡の三世次が登場する、第3場「おとこ殺し腰巻き地獄」のシーン。清滝村に姿を現した三世次が自身の身の上を語りつつ、やがて野望を堂々と歌い上げる様を、浦井はダイナミックに表現する。第9場「浮気もの、汝の名は女」では、大貫勇輔演じるきじるしの王次が颯爽と登場。歌と踊りで、男も女も魅了してしまう。唯月ふうか演じるお光が姿を現す第11場「賭場のボサノバ」では、賭場の日常が明るいナンバーに乗せてにぎにぎしく描かれる。続く第12場「時よとまれ、君はややこしい」では、代官の妻で、お光とそっくりなおさち(唯月の2役)が、可憐な歌声を披露した。 公開稽古後の会見には、浦井、大貫、唯月、土井ケイト、阿部裕、玉置孝匡、瀬奈じゅん、中村梅雀、章平、猪野広樹、綾凰華、福田えり、梅沢昌代、木場勝己、そして藤田と宮川が登壇し、作品への思いを語った。宮川は「僕は舞台音楽の仕事を始めてもう40年以上のキャリアがありますが、5年前に初めて東宝さんのお仕事を承り、それが本作品です。藤田さんとオリジナルで組ませていただいたのもこの作品が初めてで、そういった作品が再演されることは、非常に光栄なことだと思っています」とあいさつ。 藤田は「2020年に私たちのカンパニーは初演を迎えましたが、残念ながら全公演を上演することがかないませんでした。ですので今回、2020年の上演を共に作り、闘った仲間たちの思いと熱き痕跡をきちんと胸に抱きながら稽古を進めています。2024・2025カンパニーも本当に素晴らしい方たちばかりで、自信を持ってお届けできる作品となっていますので、早く皆さんにご覧いただきたいです。お客様には劇場で、大いに泣いて笑っていただけたらと思っております」と観客にメッセージを送った。 浦井は「今回、お稽古場に入り、板の上に立たせていただいたときに、2020年の思い出がよみがえってきました。志半ばで終わってしまった初演のことを思い出して、『もう一度あそこからスタートが切れたんだな』という感じがしたんです。木場さんを筆頭に、先輩方の勇姿やすごさをまざまざと見せつけられながら、井上ひさしさんが書かれた一言一言を大切に、みんなで紡いでいけたらと思っています。きっと(辻)萬長さんも見てくれていると思って、笑顔でがんばりたいと思います」と、初演で鰤の十兵衛を演じ、2021年に死去した辻への思いを語った。 今回、鰤の十兵衛を担う梅雀は「カンパニーのパワーと温かさが本当に素晴らしくて」と述べつつ「私は今まで、なかなかテレビでも映画でも舞台でもお見せできなかったような役をやっております。『梅雀がやるとこんな風になるのか』というところを、お客様にも萬長さんにも、楽しんでいただけたらと思っております」と話した。 木場は「蜷川幸雄さんが演出した2005年の『天保十二年のシェイクスピア』からずっと、隊長役をやらせていただいています。セリフの量の多さに……今、闘っています」と謙虚に語った。 司会から再演にあたっての取り組み方の違いを問われた宮川は「初演で自分たちはどういうことを作っていたのかということを冷静に受け止める時間が今、持てていて。“二次解釈”をしているような感じの稽古になっています。また個人的には、井上ひさしさんにも1回しかお会いしたことがないし、シェイクスピアには当然お会いしたことはないわけですが(笑)、井上さんの向こうにシェイクスピアがいて、こちら側には僕やカンパニーのみんながいる、この距離がちょっと近くなったような気持ちになって取り組んでいます」と話す。 浦井演じる三世次の魅力について尋ねられた藤田は「僕は浦井さんの三世次が、とても好きです」と即答。「浦井さんが演じている姿を見て、佐渡の三世次は劇中でこういう人物なのだなと共感することができましたし、三世次は自分の中にもいるかもしれないなと思わせてくれました。と同時に、佐渡の三世次は絶対に生き続けてはいけない人物だとも思ったんです。これは相反するようでいて、実は背中合わせのイコールだと思います。佐渡の三世次という人物は、今の世界にイエスとノーを同時に突きつけてくる存在なのだ、という気づきを、浦井さん演じる三世次はカンパニーに与えてくださいました。人間の暗部を光で抉り出すような、そういう痛烈な人物が今、稽古を通して誕生しつつあります」と言葉に力を込めた。 最後に、「井上ひさしが本作に込めたメッセージをどのように捉えているか」と問われた浦井は、「僕は井上ひさしさんにお会いしたことがないですが、木場さんが『三世次が亡くなる寸前、もがいているシーンでも井上ひさしさんはギャグをお書きになった。そこをちゃんと伝えないと』とおっしゃって。井上ひさしさんに実際にお会いしている方たちが、井上さんの思いを受け取って、僕らにもそれを受け取らせてくださるのはありがたいことです。この作品は“闇”を描いてはいますが、その闇を光に変えていくような舞台にできればと思います」と意気込みを述べた。 公演は12月9日から29日まで東京・日生劇場、来年1月5日から7日まで大阪・梅田芸術劇場、11日から13日まで福岡・博多座、18・19日に富山のオーバード・ホール 大ホール、25・26日に愛知・愛知県芸術劇場 大ホールで行われる。 ■ 天保十二年のシェイクスピア 2024年12月9日(月)~2024年12月29日(日) 東京都 日生劇場 2025年1月5日(日)~2025年1月7日(火) 大阪府 梅田芸術劇場 2025年1月11日(土)~2025年1月13日(月) 福岡県 博多座 2025年1月18日(土)~2025年1月19日(日) 富山県 オーバード・ホール 大ホール 2025年1月25日(土)~2025年1月26日(日) 愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール □ スタッフ 作:井上ひさし 音楽:宮川彬良 演出:藤田俊太郎 □ 出演 浦井健治 / 大貫勇輔 / 唯月ふうか / 土井ケイト / 阿部裕 / 玉置孝匡 / 瀬奈じゅん / 中村梅雀 / 章平 / 猪野広樹 / 綾凰華 / 福田えり / 梅沢昌代 / 木場勝己 / 妹尾正文 / 新川將人 / 出口雅敏 / 武者真由 / 森加織 / 山野靖博 / 天瀬はつひ / 斎藤准一郎 / 下あすみ / 鈴木凌平 / 中嶋紗希 / 藤咲みどり / 古川隼大 / 水島渓 / 水野貴以 ※白木美貴子はけがのため休演し、代わって天瀬はつひが出演します。