周央サンゴはにじさんじDNAの“正統後継者”か カオスと偏愛から産まれるバイラル性
現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。 【動画】あらためて見たい 「10分で理解(わか)る周央サンゴ」 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ数年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加してきた。 育成プロジェクトである「バーチャル・タレント・アカデミー(VTA)」からも新規ライバーがデビューし始めており、現在約150名のメンバーが所属・活動しているにじさんじ。その層の厚さで今後も大きな影響を与え始めている。 ここ数週にわたって当連載では「世怜音(せれいね)女学院演劇同好会」4人のメンバーについて触れてきた。今回は最後のメンバーである周央サンゴについて記していこう。 ■小さくて可愛い“おしゃべりモンスター”こと周央サンゴ 周央サンゴといえば、低い身長にピンク色の長髪とおさげ、目尻・目元・眉毛がまるっこく、愛らしさと柔らかさを強調するルックスで、初めてVTuberを知る人にもポップでわかりやすい印象を与えてくれる。 制服・カーディガン・部屋着など、複数ある彼女の服装もピンクや桃色のカラーリングが特徴的だ。 そんな彼女といえば、イキイキとした口調と笑顔を振りまきながら、ハイトーンな声で小気味よくトークを繰り広げていくのが印象的だ。自らを「ンゴ」と呼び、声の高低・出し方・テンポなどをうまくコントロールしながら話しつづけていく姿は、さながら“おしゃべりマシーン”といった印象を残す。 そのトーク・会話力はそのまま演技の方面へと変幻していくようで、能天気そうな声でアッパーな雰囲気にしたかと思えば、はしゃいでいるところをすげなく扱われた時には大げさにイジけてみたり、泣いてみたりと、会話相手を翻弄することがよくある。 イジり・イジられのコミュニケーションが多く発生するにじさんじ同士の会話においても、彼女の振る舞いはかなり特徴的に受け取られるはずだ。 こういったオーバーリアクション・演技的なコミュニケーションから感じ取れるように、「世怜音女学院演劇同好会」のメンバーでも彼女はもっとも演技・演劇を意識し、ナレーションなどへの嗜好性を持ったメンバーでもある。 にじさんじ公式番組『にじさんじのB級バラエティ(仮)』でナレーションを務めていることを筆頭に、メディアミックス作品『Lie:verse Liars』に呱々乃結仁役として出演している。 演技とゲームという見方でいえば、「TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)」も彼女の大好物であり、TRPG配信にも数多く参加してきた。 自身がプレイするキャラクターへの愛情・入れ込みようは強く、その高い演技力のおかげか、演技しているときと演技していないときの差が非常に大きい。ゲーム中に休憩・話し合いの場面で「キャラクター」から変わって「周央サンゴ」として会話に混ざると、声や口調の変化があまりにも大きすぎて視聴者から驚かれることがあるほど。 TRPGでプレイしたキャラクターは配信サムネイルに設定し、自身のTwitterサブアカウントはTRPG専用のアカウントとして開設。自身のYouTubeチャンネル内に作成しているTRPG関係の配信をまとめたリストは、ズバリ「trpgは人生」と名付けられており、これまでプレイしてきた150を超えるTRPG配信が揃っている。 にじさんじには彼女以外にも、でびでび・でびる、モイラ、健屋花那、活動を終了してしまった黛灰など数多くのTPRGプレイヤーがいるが、そのなかでも指折りのTRPGプレイヤーではないだろうか。 ■周央サンゴのなかに隠れている"にじさんじのDNA"を解読してみる 明るく・可愛く・元気よく、周央サンゴを知るファンはそんなイメージを思い浮かべることが多いはずだ。 しかし、周央サンゴは“にじさんじの正統後継者”と評しても過言ではないほどに尖った「インターネットカルチャーへの偏愛」を持つライバーでもある。 2023年7月3日の雑談配信では、当時Twitterが名称変更するというニュースが駆け巡っていたことを大きく引きずっており、「このTwitterという土地はもう終いじゃ!」「わしらはもうこの土地以外では生きていけぬ」と語りだし、昔のインターネットを回顧する"インターネット老人会の長老"のような内容となった。 日本独特なTwitter文化を中心にした話題となっており、「天空の城ラピュタ」の放送に合わせて「バルス!」投稿でTwitterが重くなった事件、お風呂に入る人を「ほかてら」と送り出して「ほかえり」と迎えるなど、いまほどパブリックなものではなくプライベートな温度感を保っていた時期を振り返っていた。 こういったネットミームを多用するところが所以してか、とくにニコニコ動画との親和性が非常に高いのも、周央サンゴの特筆すべき点だ。 2021年8月後半からはニコニコ動画のランキングにおいて「周央サンゴ」が一つのジャンルとして設けられるほどに、ユーザーからの支持を集めている。 同年には『ネット流行語100 2021』にノミネートされるなど、にじさんじ×ニコニコ動画といえば周央サンゴというほどに認知が広まった。現在でも彼女をネタにした動画はランキング上位に入るのだ。 ほかのにじさんじ所属のメンバーにも見られる傾向であるが、アニメやマンガなどを好み、なおかつ生配信にも興味があるとなると、ニコニコ動画やかつての「2ちゃんねる」を筆頭にしたインターネットカルチャーからの影響が強く残った方が非常に多い。 斜め上の発想で笑わせるさまざまなネットミーム、他者とのコミュニケーションも踏まえたSNSや掲示板のローカル感、そしてそれまでの自分にはなかったクリエイティビティを呼び起こす二次創作文化など、ネットカルチャーの持つ重層的・交差的・拡張的な魅力は多くのひとびとを魅了してきた。 それに魅入られ、吸収してきた人間はVTuberにも多数おり、こと「にじさんじ」は特にこの傾向が強いわけだ。 この点については今後別の記事で記したいと考えているが、にじさんじライバーの間には「自らがネットミームになる・なりたい」というDNAが生まれており、周央サンゴもまたそれを体現するライバーである。 彼女自身も、言動一つ一つがネットミーム化することを意識しているのだろう。配信開始時にリスナーへ語りかける「みなさまぁ~?」の一言は、にじさんじリスナーにとってお馴染みの挨拶としてミーム化しつつある。 かつて自身のゲーム配信の概要欄に「インターネット生まれブルーライト育ち」と記していたが、その言葉はまさに「彼女らしさ」を正確に表現した一文だといえる。 彼女の嗜好性は多岐に渡るが、インターネットカルチャー以外のところでいえばデビュー直後から愛を隠さないのが“サンリオ”への愛情だ。自身のSNS初投稿・初配信では最愛のキャラクター・ポチャッコを紹介し、さまざまなサンリオ作品・商品に精通している、「サンリオマニア」である。 東京都・多摩区にある「サンリオピューロランド」については当然熟知しており、各アトラクションや売店の特徴からパーク内の歩き方、初心者へのオススメまで、まるで観光ガイドのように語れるほどだ。 しかも、サンリオについて語るのは大抵がテーマを定めての配信ではなく、なんでもない会話が弾んで語りだすことがほとんどで、その愛情の深さを感じさせてくれる。 サンリオ社の社員でありVTuberでもある なつめれんげと共演した際には、サンリオの社員である彼にサンリオのアニメについて矢継ぎ早に語り続けたこともある。 暴走気味な愛情を抱えた周央についてはサンリオ側もしっかりとチェックしており、これまで何度かサンリオの協力を得てさまざまな配信やイベント参加といったコラボレーションがなされてきた。 2022年12月には新キャラデビューをかけたコンペ対決に、サンリオ社の代表取締役社長・辻朋邦らを含む社内審査員にまざって、ゲスト審査員として参加。彼女の影響力はもちろんだが、培ってきた知見やセンスを活かしての起用だと推察できる。 ■志摩スペイン村をバズらせ、のちにPR大使に就任 自分自身がネットミームになることを恐れず、強い愛情と深い知識でさまざまにトークできる周央サンゴ。そんなタレントを持ち合わせた彼女ゆえに、不思議とカオスな状況が生まれやすい。それがうまくハマることで、徐々にインフルエンサーとしてのオーラをかもし、実績も生み出すようになっていった。 2021年12月11日、毎週土曜日に定期配信している雑談配信「おつかれさんご」が第50回を迎えたこの日、周央サンゴは友人たちと訪れた志摩スペイン村について“熱く”語り始めた。 「そもそもテーマパークが好きで、前から行ってみたかった」と期待を込めて足を運び、「テーマソングが良い!」「キャラクターグリーティングがめっちゃ丁寧!」といったポジティブな話題、「園内にあまり人がいなくて……」「志摩スペイン村行きのバスが普通のローカルなバス」というネガティブな話題、さまざま入り混じったストレートな内容を語った。 後日、「志摩スペイン村について語る周央サンゴ」と題した切り抜き動画がYouTubeやニコニコ動画などに投稿され話題が広まると、すぐさま志摩スペイン村側にも認知され、両者の交流がスタートしたのだ。 2022年5月7日の「おつかれさんご第62回」では、今回は母親とともに2人で訪れたことを話し、ここでもまた高い熱量でもって志摩スペイン村の素晴らしさを語った。 配信終了後、これまた「志摩スペイン村について語る周央サンゴ」の切り抜きが投稿されると、X(当時:Twitter)のトレンドに「志摩スペイン村」が登場。たまたま夜中に目が覚めた志摩スペイン村の影山社長は、トレンド入りした状況・理由がまったくわからないまま「VTuber」「周央サンゴ」について調べて夜が明けた、とメディアの取材に話したほどだ。 その後「ネットでバズったテーマパーク」として認知度をあげていったことを受け、志摩スペイン村は周央サンゴとANYCOLOR社にバーチャルアンバサダー(広報大使)就任を正式にオファー、2022年12月末に「周央サンゴ、PR大使就任」報じられた。 年が明けた2023年1月から4月にかけては、まさに怒涛の流れとなった。志摩スペイン村だけではなく近畿日本鉄道を含めた大型コラボイベント『みなさま~(広報大使) 志摩スペインゴ村へ、来て!』がスタートすると、テレビ・雑誌・webを含めた多数のメディアが同イベントを紹介したのだ。 同イベントは大盛況のうちに終わり、無事アンバサダーとしての任を務め上げたわけだが、今後も周央サンゴと志摩スペイン村のコラボレーションは続いていく可能性が高いだろう。企業間のビジネスとして、という以上に周央サンゴの強い愛情がなせる取り組みだからだ。 さて、インターネット~サンリオ~志摩スペイン村と連関した繋がりは、周央サンゴのなかのフィーリング・好み・趣味性によって生まれたものであり、何かしらの関連性をもってつながることは想像しにくい。 もしも自分自身の好みや愛したものをすべて表現したならば、それはどのような世界となるのか。宝石のようにキラキラに輝いたり、ときに濁った空気と空模様をみせるような、摩訶不思議で支離滅裂な世界となるのだろうか。 それを形にした周央サンゴの3Dお披露目配信は、一個人の嗜好性や想像を縦横無尽に広げ、怜悧なロジカルさで荒波のようなカオスをコントロールしてみせた内容に仕上がっている。もしも彼女のことがわからないのであれば、この鮮やかなる配信を見てみれば一番に分かるはずだ。 今後の彼女がどのような形で活躍していくのか、未来のことは誰にもわからない。だが、きっと彼女らしい深い愛情とセンスでもって我々を楽しませ、世間を盛り上げてくれるだろう。
文=草野虹