蘇州日本人学校バス襲撃事件の背景に、中国でまかり通る「日本蔑視策」
誇張される中国の報道
そもそも歴史問題に関して、中国人の日本に対する感情は複雑だ。しかし、かつて毛沢東主席や周恩来首相は、「日本の軍国主義は悪いが、日本人民には罪がない」と述べた。こうしたリーダーたちの発言もあってか、中国の人々は、戦争で同様にひどい被害を受けた日本人に対して、同情的だった。しかし、いまはそんな雰囲気はない。 いまの中国では、中国共産党中央宣伝部の指示で、外国の悪辣さや、災害あるいは社会事件、犯罪などを、誇張して報じる傾向が強い。中国がいかに素晴らしい国かを際立たせるのが目的だ。 特に、米国を敵とみなし、その同盟国もけなすようになった。日本も「戦略的互恵関係」の国ではなくなり、批判や揶揄、侮蔑の対象となっている。 5月下旬から中国では、「日本の人食いバクテリア」(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)のニュースが増えている。それで中国人は、大騒ぎしているのだ。 「48時間で死亡に至る、日本の人食いバクテリアの感染者が史上最多。わが国まで感染が広まるのか? 日本への旅行を自粛すべきだ」(「半島都市報」6月20日) 「人食いバクテリアが日本で蔓延、感染すると48時間で死に至る」(中央テレビ(CCTV)ネット 6月17日) 「日本の人食いバクテリアの感染例が増加」(新華社、4月3日) ニュースとして報道する意味は分かるが、気になるのは表現の仕方である。中国語では「食人菌」と表現されるだけではなく、「日本食人菌」と書かれたりしている。
日本を貶める風潮
周知のように、新型コロナウイルスが蔓延した頃、世界が「武漢肺炎」「中国ウイルス」などと呼ぶことに、中国は国を挙げて猛烈に抗議した。しかしいまや、「日本食人菌」と、政府系メディアが平気で報道している。特に、国営新華社通信がこの言葉を使うということは、中国政府の「了解」があったとしか思えない。福島第一原子力発電所が放出する「ALPS処理水」を、中国だけ故意に「核汚染水」と呼び続けているのと同じだ。 そこには、日本及び日本人を貶めるという意図を感じる。中国を代表するSNS「抖音」(ドウイン 中国版TikTok)」では、中国人が日本人に扮して、中国人を「支那猪」(シナ豚野郎)と呼ぶVTRが数多くある。福島のALPS処理水を批判する映像にも、大量の魚の死骸などを加えて、被害を粉飾している。 中国人は、そうしたニュースや映像に接していると、日本に対してなら、何をしても構わないと勘違いするだろう。こうした風潮を放置しておくと、日本人に被害が及ぶのは時間の問題だ――。 そんなことを思っていたら、6月24日、中国の蘇州で日本人学校のバスが襲撃される事件が起こった。 日本は、中国に対して言うべきことを言って、間違いを正すべきだ。これこそが日本政府の当面の急務ではないだろうか。
林 愛華