本屋大賞「成瀬は天下を取りにいく」の宮島さん 新作「婚活マエストロ」語る 舞台は浜松、婚活パーティー奮闘劇描く
近江から遠江へ―。デビュー作「成瀬は天下を取りにいく」で今年の本屋大賞を受賞した宮島未奈さん(富士市出身、大津市在住)が、受賞後第1作「婚活マエストロ」(文芸春秋)の舞台に選んだのは「浜松」。婚活パーティーを取り仕切る伝説の司会者鏡原奈緒子の謎に迫る“お仕事小説”は、浜松市内の日常風景の中で奮闘する大人の青春を生き生きと描く。 隙を見せない鏡原の人物像を追うのは、40歳の売れない在宅ライター猪名川[いながわ]健人。時代遅れの零細婚活会社「ドリーム・ハピネス・プランニング」を紹介する記事の仕事を引き受ける。無料クーポンにつられて婚活パーティーに参加した猪名川に、鏡原は「私は本気で結婚を考えている人以外は来てほしくありません」と強烈な一言を突きつける。 プロフィルカードの記入方法やトークタイムの進行など、読者も、鏡原からきめ細やかなフォローを受けながら婚活パーティーに参加している錯覚に陥りそう。 宮島さんの今作を執筆するきっかけは、担当編集者が婚活パーティーの司会のバイトをしていたからという。「リアルな婚活パーティーは一度も取材していない」とも明かす。「だからこそ現実に引っ張られないで想像が膨らむ。こんな世界があってもいいんだろうなと」 舞台は当初、架空の都市を設定していた。貯金なし、スキルなしの猪名川の移動手段はもっぱら自転車。鏡原とたびたびファミレスに行き、郊外のショッピングモールで日用品を買う。「婚活パーティーを開くある程度の人口規模があって、(前作の主人公)成瀬あかりが暮らす琵琶湖のクルーズ船ミシガンに日帰り婚活ツアーで出かけられる距離感」として浜松に白羽の矢が立った。 「どの地域に行ってもある店が登場するほうが楽しい。私もよく行く。都会を舞台にした本はたくさんあるから、地方を肯定的に描きたい」 デビュー作にして本屋大賞を受賞し、一躍人気作家となった宮島さん。前作にはない主人公たちの恋愛模様に、出会いを求める婚活パーティー参加者の思いも淡く伝える。 「デビューしてまだ1年半、駆け出しなんです。1行1行、書いていて苦しいのは変わらない」と語る。その中で「40歳のケンちゃん(猪名川)」は、宮島さんが“こたつライター”をしていた時の実感をそのまま投影しているという。 「肩身が狭く、堂々とは言えない。3年後に小説家になるなんて分からなかった。こんな未来もあるんだなと思う。先のことは分からないから希望を持って生きていきたい」と笑顔を見せた。 婚活パーティーは、毎回波乱含み。危機を乗り越えていく鏡原と猪名川の関係も気になるところ。
静岡新聞社