プーチンによる偽情報作戦、ソーシャルメディアで裏目に出る可能性
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は危機を無駄にしたりはしない。多くの犠牲者が出た首都モスクワでの3月22日のテロ事件にウクライナが関与していたと主張した。この事件では、モスクワ郊外のコンサート会場に武装集団が突入し、少なくとも137人が死亡、100人超が負傷した。 プーチンは犯行声明を出している過激派組織イスラミックステート(IS)には言及しておらず、またウクライナの同事件への関与の否定も認めていない。その代わりにプーチンは物事を自身の筋書きどおりに進めるために今回の治安上の失態を利用している。 ■「うそつきの配当」で事態を混乱 約25年前、モスクワのアパートが相次いで爆破される事件が発生し、当時権力の座についたばかりだったプーチンはチェチェン人によるテロだと断定した。これについては、チェチェン侵攻への支持を集めるための偽旗作戦として、情報機関が「自作自演」した可能性があると反政府の一部の人々は主張している。ウクライナが何らかのかたちで今回の事件の背後にいる、少なくとも攻撃を支援したというプーチンの主張は、昔の筋書きから持ってきたかのようだ。 「大多数のロシア人はラジオやテレビから情報を得続けている。これらの報道機関は現在、大統領府にほぼ支配されている」と話すのは米ニューヘイブン大学のマシュー・シュミット教授(国際問題、国家安全保障、政治学)だ。 シュミットは「ロシアの人々は22日に起きた事件の実行犯がISの地域組織ISIS-Kのメンバーであることをすでに知っているが、プーチン政権はウクライナ政府の一部がISIS-Kを支援していたと主張した」と指摘した。 ロシア大統領府はウクライナのゼレンスキー大統領の事件への直接的な関与は主張せず、代わりに別の人物が秘密裏に動いていたのではないかという古典的な陰謀論を展開している。
ソーシャルメディアで事実関係が明確に?
「ロシアは、国民が耳にする他のすべての情報の信憑性を疑うよう、ISIS-Kが関与しているという真実に偽情報を混ぜ合わせ、『うそつきの配当(利益をうそをついた側が得ること)』で本質的に事態を混乱させるために陰謀論を使っている」とシュミットは警告した。「嘘と真実の区別がつかないような状況を作り出している」 ■ソーシャルメディアで事実関係が明確に? おそらく大多数のロシア人はウクライナ側の関与否定を耳にすることはないだろうが、ロシア大統領府は全世界からの情報の流入を完全に遮断することはできない。今回の攻撃の背後に誰がいたのか、ソーシャルメディアは事実関係を明確にするのに役立つ可能性がある。 ロシアはこれまで以上に宣伝組織を強化せざるを得なくなるかもしれない。 米ミシガン大学情報学部の学務担当副学部長のクリフ・ランペ教授(情報学)は「ソーシャルメディアに関して我々が過去に目にしたことの1つは、政権がすばやくソーシャルメディアに適応するということだ」と説明した。 「偽情報作戦の戦略の1つは『フラッディング』だ。この手法では、人々が全情報の選別を諦めるように仕向けるために、ある筋書きを推し進めようとする人々がソーシャルメディアのチャンネルをさまざまな情報で溢れ返らせる」とランペは話した。「ソーシャルメディアがフラッディングに弱いのは、国家統制に耐性があるのと同じ理由だ。つまり誰でも発信できるためだ。だが、フラッディングはますますうまく機能しているようで、代替情報を提供する場としてのソーシャルメディアの能力を妨げているかもしれない」 それでも、誤情報を溢れ返らせる手法は、他の権威主義国家が展開してきたネット検閲システム「グレートファイアウォール」ほどの効果はないかもしれない。 「プーチン最大のミスは、ロシアのインターネットを封鎖しなかったことだ」とシュミットは指摘した。「中国やイランのように外部からの情報を遮断するファイアウォールがない。2000年代初めにプーチンはインターネットを軽視し、その潜在力を理解していなかった。その結果、ロシアのインターネットは世界とつながっている」