BRICSがドル支配の重要な柱の1つを崩すかもしれない…デジタル通貨での決済を模索(海外)
10月にロシアのカザンで開催されるBRICS首脳会議で加盟国が脱ドル構想を進める可能性がある。 あるアナリストによれば、ドル以外の通貨での貿易が増えると予想されるという。 中央銀行デジタル通貨によって、国際決済におけるドルの役割が弱まるかもしれない。 新興国からなるBRICSグループは、米ドルによる支配からの脱却を求めて活動している。 ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ(Luiz Inácio Lula da Silva)大統領は2023年、BRICS共通通貨の創設を訴えた。しかし、BRICSの名づけ親であるエコノミストは、その構想について「あり得ない」と切り捨てている。 共通通貨の創設は現実的には難しいものの、BRICSはドルと決別する一手段として、地域通貨での貿易と融資の増加を求めてきた(なお、BRICSとは、構成国であるブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの頭文字をとった連合で、2024年2月には、イラン、エジプト、エチオピア、アラブ首長国連邦が新規加盟した)。 グローバルデータTSロンバードでグローバル政治研究担当マネージングディレクターを務めるクリストファー・グランビル(Christopher Granville)が5月24日付の報告書に書いたところによれば、2024年にはドル脱却にいっそう勢いがつく可能性があるという(10月22~24日には、ロシアの都市カザンでBRICS首脳会議が予定されている)。 BRICS首脳会議は、アメリカとその同盟国が、中国の輸出に対して攻撃的な姿勢を強めている状況で実施されることになる(アメリカとその同盟国は、中国は過剰生産状態だと批判している)。さらに、アメリカ政府は、ロシアが絡む決済を処理した銀行に対して二次制裁を課している。これは、中国人民元などのローカルな通貨で処理された場合も対象となる。
各国の中央銀行が、デジタル通貨取引に目を向けている
グランビルの報告書によれば、国際決済銀行(BIS)による、さらに組織的なソリューションが動き始めているという。つまり、加盟国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)を用いて、コマーシャルインボイスや外国為替取引の決済をピアツーピアで直接的に可能にするプラットフォームだ。ここで言うデジタル通貨は、暗号資産(仮想通貨)と似ているが、中央銀行が発行し、その後ろ盾となる点が異なる。 2022年には、中国、香港、UAE、タイの中央銀行が、BISのデジタル通貨システム試験に参加したが、このシステムはまだ稼働していない。 とはいえ、ロシアのセルゲイ・ラブロフ(Sergey Lavrov)外相も先ごろ地元メディアに対して、デジタル通貨ベースの決済システムを褒めそやした。グランビルによればこれは、各国の中央銀行が「アメリカと絶縁する」策に目を向けている兆候だという。 グランビルは「ラブロフ外相によるほのめかしは意外ではない。ロシアには、独自の切迫したニーズがあるからだ」と書いている。 「アメリカの同盟の外にいる他の国々には、同様の切迫感はないだろうが、アメリカから隔離されたCBDCソリューションには関心を寄せているようだ」 とりわけ、アメリカとの貿易戦争のさなかにある中国にとっては意味があるだろう。中国の中央銀行にはすでに、世界でもひときわ発達したデジタル通貨であるデジタル人民元がある。デジタル人民元は、中国国内で、一部の公共セクターの給与支払いなどに使われている。 2022年に起きたロシアによるウクライナへの全面的侵攻を受け、BISはロシア中央銀行の参加を拒否している。そのため、BISのデジタル通貨プラットフォームとインフラがロシアでどう機能するかについては不透明だ。
中央銀行デジタル通貨によって国際決済における米ドルの役割が弱まる可能性
そうは言っても、グランビルの報告書によれば、ロシア以外の中央銀行がCBDCシステムへ参加することにより、国際準備通貨における米ドルの地位を支える重要な柱(ユーロ圏外での国際決済)が弱まる可能性があるという。
Huileng Tan