誕生から４０年を迎えた「未来くん」。見かける機会は減ったが、愛着を持つ人は少なくない（京都市下京区・下京消防署）

　1988年に京都府で開かれた国民体育大会（京都国体）を盛り上げたマスコット「未来くん」が今年、誕生から40周年を迎えた。かつては街で見かけない日がないほどの知名度を誇った。だが「ゆるキャラ」ブームや後輩マスコットの台頭もあり、今や40歳の節目を祝う声は皆無だ。中年になった未来くんを探すと、歴史資料になっていた。 【画像】子どもたちに囲まれて大人気だったころの「未来くん」 　京都国体のマスコットが決まったのは、開催4年前の1984年8月30日。全国公募したデザイン案約500点の中から、国体の準備委員会が牛若丸（源義経の幼名）をモチーフにした作品を選んだ。10月には愛称が約3千点の中から「未来くん」に決まった。 　設定は「夢とロマンを追い求める明朗快活な坊や」。国体の啓発看板やPRパンフレットをはじめ、米袋や預金通帳など企業の商品にも登場するなど「八艘（はっそう）飛び」の活躍を展開した。着ぐるみも作られ、各市町の庁舎やスポーツ施設には未来くん像も相次いで登場。府内での知名度は抜群だった。 　国体終了後も、第二の人生が待っていた。国体の盛り上がりを継続しようと府内の各種団体で立ち上げた協議会が未来くんの著作権も継承。炬火（きょか）を持った右手をVサインの絵柄に変え、街の美化や健康づくりなどの協議会が進める府民運動のシンボルとして活用された。 　だが2000年代に入ると「ひこにゃん」（滋賀県彦根市）や「くまモン」（熊本県）など「ご当地キャラクター」が全国で急増した。京都府でも09年に国民文化祭（11年）のマスコット「まゆまろ」が登場するなどキャラクターが相次いで誕生した。未来くんの存在感は急激に低下していった。 　今どうしているのか。探し回ると、著作権は協議会の流れをくむ「きょうと地域創生府民会議」が引き継いでいた。ただ同会議は19年、未来くんを積極的に使わない方針を決めたという。事務局の京都府文化生活総務課によると、認知度の低下が背景にあったという。 　全盛期には十数体があったとされる着ぐるみも損傷が激しく、府によると、ほとんどが廃棄処分になった。現在残るのは1体のみで、京都関係の資料を収集する「府立京都学・歴彩館」（左京区）に収蔵されているという。もう歴史資料になってしまったというわけだ。 　とはいえ、まだ完全に「過去の人」になったわけでもない。府によると、今でも大会パンフレットのイラストなどに未来くんを使いたいという申請が、年に数件程度寄せられるという。府立植物園（左京区）の「未来くん広場」や、優秀なジュニアスポーツ選手を顕彰する「未来くん賞」などにも名前は残り続けている。 　下京消防署（下京区）は昨年3月、区民が保管していた未来くん像を引き取り、専門学校「YIC京都工科自動車大学校」（同区）の協力を得て修復した。現在は「火の用心」のたすきを掛けて来署者を出迎え、同署は「とにかく目立つので、懐かしんでもらいながら火事に気を付けるきっかけにしてほしい」と未来くんが築いた遺産に期待を寄せている。 　取材中は、未来くんの名が出るだけで「地域の祭りで会った」「炬火リレーを追いかけた」と、さまざまな思い出を語ってくれる人も少なくなかった。府の担当者は「ある程度の年齢の人にはなじみ深く、愛されてきたキャラクターでもある。使っていただけるのであれば、ほそぼそとでも活躍してほしい」と静かにエールを送っていた。