1500種類のウイスキーが自慢のバー この道40年のオーナー、地元で営業再開の理由は忘れられなかった「故郷愛」
長野県小諸市の小諸駅から徒歩5分ほど、居酒屋やスナックが立ち並ぶ小諸の繁華街の一角。3階建て住宅の1階にその店はある。外観は見逃してしまいそうなたたずまいだが、店に入ると長さ7メートルのカウンターが目に飛び込んでくる。その向こう側にオーナーバーテンダーの小山公一(こういち)さん(59)が、いつもの穏やかな笑みを浮かべて立っている。
小山さんは小諸市出身。バーの世界に入ったのは、18歳の時に横浜市のバーでアルバイトしたのがきっかけだ。その後、東京都渋谷区広尾のバーで本格的にカクテル作りを学んだ。
小諸市に戻り、1989年に英語の俗語で「酔っぱらい」を意味するという「Bomb(ボム)」という名のバーを開いた。96年、近くに移転し、店名を現在の「Bar Zizz(バー ジズ)」に変えた。小山さんによると「ジズ」は「寝る前」という意味だ。
97年10月に開通した長野新幹線の駅は、小諸ではなく佐久市に建設。小諸駅には特急列車が止まらなくなった。2002年、ながの東急百貨店小諸店が閉店。電力や通信関連の大手企業の支店は相次ぎ撤退した。「小諸は2005年ごろに勢いを完全に失った」と、小山さんは振り返る。
手狭だった店の拡張を考えていた小山さんは、思い切って08年に佐久平駅近くに店を移転。だが、生まれ育った小諸に対する思いは消えなかった。「人生の終盤は地元に戻りたかった。個性的な店が出店するなど小諸の町にも新しい風が吹いてきた」。21年4月、現在の場所で営業を始めた。
軽井沢町からタクシーを飛ばして一杯やりにくる男性客、ジズで飲んだウイスキーの特徴をノートに書いて学ぶ若者など、客はさまざまだ。以前店に来ていたカップルが結婚したり、昔なじみの客が子どもを連れて飲みに来たりする。
小山さんは「提供したお酒を喜んでもらうのが一番。お客さんの人生に少し関われているのがうれしいかな」と話す。
店の自慢は、カウンターの後ろや右奥の棚にずらりと並ぶ約1500種類のウイスキーだ。