WBA世界ミドル級王者・村田諒太の4.15横アリ初防衛戦にのしかかる難題
プロボクシングのWBA世界ミドル級王者、村田諒太(32、帝拳)の初防衛戦が4月15日に横浜アリーナで同級10位のエマヌエーレ・ブランダムラ(38、イタリア)を挑戦者に迎えて行われることが22日、東京・九段下のホテルで発表された。ブランダムラもイタリアから来日して会見に出席。「俳優みたい。顔では勝てない」と村田は笑わせたが、世界挑戦経験のない無名ボクサー。27勝2敗のキャリアのうち5KOとパンチ力に乏しいテクニシャンで村田にとって、そう危険な挑戦者ではない。だが、「絶対に負けられない」プレッシャーに加え、5月5日に再戦予定の統一王者、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)対元2階級王者のサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)の勝者との頂上決戦へ向かうために勝ち方が問われるV1戦となる。
初防衛戦はベルトを取るよりも難しいと言われている。 今すぐボクシング評論家ができるほど知識豊富な村田は、その理由を自ら、こう語りだした。 「ハングリーさを失うのが原因のひとつだと思う。プレッシャーもある」 確かに祝勝会などに引っ張り回され、十分な準備もできないまま試合を迎え、膨らむ期待に比例するかのように増大するプレッシャーに押し潰された短命世界王者は少なくない。 村田は、昨年10月22日に日本中が注目したアッサン・エンダム(フランス)との再戦で劇的なTKO勝ちをおさめ自らリング上で涙した。それから3か月。「あっという間に感じる」と言う。紅白歌合戦の審査員や、テレビ出演などに追われ「ボクシングだけに集中できていたか、と言えば、そうでなかった」。“あっという間”は、それほどボクシング外の活動に多忙だったことを示す時間感覚なのだろう。ただし、この元五輪金メダリスト&世界王者の場合“初Vの魔物”に片足を突っ込んでいることを自覚しているのが救いだ。 “評論家”村田は語らなかったが、「初防衛戦が難しい」と言われるもうひとつ理由は、指名試合と重なるケースが多く、大きなプレッシャーの中で最強の挑戦者とぶつかることにある。ミドル級世界王者の先人、竹原慎二も初防衛戦が1位のウィリアム・ジョッピーとの指名試合で9回TKOに散った。 だが、幸いにも今回の村田は、王者が挑戦者を選べる選択試合。プロモートしているトップランク社と協議の上、日本での初防衛戦であること、ここから世界のトップクラスとのマッチメイクを模索していかねばならないなどの事情を考慮して、できるだけリスクの少ないランカーを選んだように見受けられる。 イタリア人のブランダムラは、18歳からボクシングをはじめアマ戦績は30勝8敗6分。プロ転向は27歳と遅く、欧州ミドル級タイトルを獲得しているが、4年前の7月には、現WBO世界ミドル級王者のビリー・ジョー・サンダース(英国)と欧州王座決定戦で対戦し8回TKOで敗れている。「右一発でやられたが、そこまでは互角以上の勝負だったんだ」。映像を見てみると、8ラウンドはブランダムラがインファイトを仕掛けてサンダースを消耗させた。しかし、ラウンド終盤に大きな右フックが一発顎に当たり、フラフラと足にきてしまったブランダムラはサードロープに腰をかけたまま立てずにTKOを宣告されている。 基本的にはアウトボクサーで足を使って距離をつくりながら試合を組み立てるオーソドックススタイル。 「私はカメレオンといわれている。かける曲によって踊り方が違うんだ。ボクシングはアートだから」 村田が「例えが素敵ですね」と感心したほど、豊かな表現力で自己紹介したが、気になるのはパンチを外すフットワークと、時折インサイドから繰り出すアッパーくらいで、踏み込みも浅く、パンチ力も回転力にも乏しく危険な匂いのしないボクサーである。 昨年6月にアレッサンドロ・ゴディ(イタリア)を判定で下して欧州ミドル級王座を守った試合が、直近の試合だが、ほとんど決定打のないまま、フルラウンドをうまくごまかしながら動いていただけだった。 村田が敗れるイメージはまったく浮かんでこない。