【ライトノベル最新動向】『転スラ』最新刊が堂々1位! 『誰が勇者を殺したか』など注目作続々
TVアニメが面白いから、原作も読んでみようという人が続出する流れに乗って、楽天ブックスのライトノベル週間ランキング(11月6日~12日)は日向夏によるシリーズ最新刊の『薬屋のひとりごと14』(ヒーロー文庫)が5位に入った上に、14冊が31位までに並んで大盛り上がりを見せている。 作品の面白さで注目を集めた『誰が勇者を殺したか』(スニーカー文庫) 人さらいにあって後宮に入れられた薬師の猫猫が、持ち前の薬学や医学の知識を生かして後宮で起こる難事件を解決していくミステリとしての面白さと、後宮や宮中に渦巻く謀略に挑むサスペンス的な展開、そして毒や薬にしか関心がない猫猫に並々ならぬ興味を示す、壬氏という超イケメンとの関係を描く曲球ラブストーリーなど様々な要素を楽しめるシリーズだ。 もともと高い人気を持っていたが、絵が動いて声も付いたTVアニメでは、ストーリー自体の良さに加えて悠木碧が演じる猫猫の憮然とした口調と、大塚剛央演じる壬氏の美声に聞き入る人が続出。『SPY×FAMILY』のアーニャとも、『葬送のフリーレン』のフリーレンとも違う声音で玉葉妃を演じる種﨑敦美のすごさにも触れられるとあって、見逃せないアニメとなっている。勢いに乗って原作も、2種類出ているコミカライズもまだまだ売れ行きを伸ばしそうだ。 TVアニメ化された訳でもなく、賞を受賞した訳でもないのに急浮上して7位となったのが駄犬『誰が勇者を殺したか』(スニーカー文庫)。魔王を倒したパーティーのうち勇者だけが戻らなかった。仲間たちは口を揃えて勇者は死んだと証言した。それから4年。平穏になった王国で、亡き勇者を称えるべく数々の偉業を文献に編纂する事業が立ち上がった。ところが、記録者が仲間だった騎士・レオン、僧侶・マリア、賢者ソロンから勇者の過去と冒険話を聞こうとしても、全員が勇者の死の真相について言葉を濁した。 勇者を殺したのは本当に魔王だったのか。それとも別の誰かなのか。深まる謎。そもそも勇者になると予言され、王都に来たのは剣の腕前もそこそこで魔法も使えない冴えない男だった。それが、必死に食らいついて魔法を学び、剣の腕も磨きつつ指揮官として剣士や魔術師や賢者を束ね魔王を倒した。確かに勇者だったと言えるが、それにしては奇妙なところも少なくなかった。 その違和感の真相と、背後にあったある事態に迫るミステリとして楽しめる作品で、奇跡の積み重ねが結果を招くSF的な要素にも触れられる。何より、ひたすらに頑張る意志を誰もがしっかりと尊ぶところが気持ちいい。『葬送のフリーレン』でヒンメルが、勇者であることに誇りを持って突き進んでいった姿勢とも重なる、勇者とはどのような存在なのかを見せてくれる作品でもある。読めば作者が後書きで表明した「本屋大賞が欲しい」という願望も、決して大言壮語ではないと思える傑作だ。 ランキングの1位は、アニメ『転生したらスライムだった件 コリウスの夢』が11月1日から配信中の伏瀬によるシリーズ最新刊『転生したらスライムだった件 21』(GCノベルズ)。リムル消滅を受けて攻めてきた勢力に立ち向かうベニマルらジュラ・テンペスト連邦国の戦いがメインとなっていて、ヴェルドラやディアブロの圧倒的な強さを目の当たりにできる。次巻で完結というが果たして収まるのかといった盛り上がりぶりだ。 アニメ『コリウスの夢』の方は、日本テレビを始め地上波での放送も発表となって、後継を巡って王子たちが仲違いをしているコリウス王国に潜入したリムルの活躍をTVで見られる。『転スラ』は6位にも11月30日発売の『転生したらスライムだった件 10th ANNIVERSARY BOOK 転スラ10』がランクイン。原作者と担当編集者による8時間に及ぶ対談やみっつばーによる描き下ろしイラスト、アニメや舞台などに広がる『転スラ』ワールドの紹介などが掲載されている。ファンなら手に入れてこの10年を振り返りたい1冊だ。 2位は徒然花の原作を木野咲カズラが漫画にしている『誰かこの状況を説明してください! ~契約から始まるウェディング~ 9』(アリアンローズコミックス)が2024年1月24日発売ながらもランクイン。貧乏貴族令嬢と名門公爵家の当主との契約婚から始まる本当の恋の物語は、いつの時代も読む人をハラハラさせて引きつけ。 3位には12月10日発売の甘岸久弥『魔導具師ダリヤはうつむかない ~今日から自由な職人ライフ~ 9』(MFブックス)が入った。転生して魔道具師の家に生まれ育ったダリヤ・ロセッティが婚約破棄もなんのその、女性魔道具師として立身出世していくストーリーが、冒険とは違った異世界での成功を描いて読む人に夢を与えている人気シリーズの最新刊。功績を認められて叙爵を受け、舞踏会に臨むことになったダリアと、彼女を見守り続ける美形騎士のヴォルフレード・スカルファロットとの仲が進むかどうかが読みどころとなりそうだ。 4位は恒例のライトノベルランキング本「このライトノベルがすごい!2024」(宝島社)。書籍版の完結を記念して、『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』(TOブックス)の香月美夜へのスペシャルインタビューが掲載されている。ランキングの方は11月25日の発表まで不明だが、単行本部門で『本好きの下剋上』が連覇を果たして4度目の1位を獲得するかが注目ポイントとなりそう。文庫部門も衣笠彰梧『ようこそ実力至上主義の教室へ』(MF文庫J)の連覇か、それとも他の作品の躍進かに注目が集まる。 8位からは電撃文庫の人気シリーズがランクイン。8位の高橋弥七郎『灼眼のシャナSⅣ』(電撃文庫)は完結した本編とは別に紡がれていた短編をまとめつつ、新作を加えた1冊で、壮絶な戦いを終えたシャナたちのその後について触れられる。9位『ソードアート・オンライン IF 公式小説アンソロジー』(電撃文庫)は、川原礫の『SAO』シリーズについて『ガンゲイル・オンライン』の時雨沢恵一×黒星紅白、『魔法科高校の劣等生』の佐島 勤×石田可奈らが寄せた作品を集めたもの。ゲーム世界で司波達也とキリトが出会う話や、「もしもキリトとアスナがゾンビゲームで遊んだら」といった仮定の世界の『SAO』を楽しめる。 10位は入間人間『安達としまむらSS』(電撃文庫)。女子高生の安達桜と島村抱月が出会って恋人へと深まっていく関係について紡がれた短い作品が詰め込まれていて、2人の世界に改めてグッと近づける。同棲直前に安達母への挨拶の日を綴った中編「そして……」も収録。同時発売の『安達としまむら99.9』(電撃文庫)は13位。TVアニメのBD/DVD特典小説で大人になった安達としまむらの日々が綴られる。
タニグチリウイチ