ある日、突然つまづいて顔中が「血だらけ」に…定年後の生活を襲った「転倒」という圧倒的恐怖
口を切り、血だらけに
ある日、それで気をよくした私は、欲張って小走りをしました。ところが、我が家のまわりは平らな道が少ないということを、うっかり忘れていた。ちょっとした坂道で蹴躓き、前のめりに転んで顔からバーンと地面に落ちてしまったんです。 おでこや顎をしたたか打ち、口の中を歯で切り、顔中血だらけになりました。そのときの傷跡は今も残っています。身体のあちこちにもダメージを受け、しばらくは家でおとなしくしているしかありませんでした。 「次にまた同じようにひっくり返って起き上がれなくなったら、もう死ぬしかない」 若い人は大げさだと思うでしょうが、八〇代も半ばになると現実味を帯びた懸念です。そう思うとさすがに怖くなり、「あまり長く帰ってこなければ、近所を見に来てくれ」と、ワイフに頼んであります。 過信は禁物だと身に沁みたので、その日のコンディションによって歩く速さや距離を加減し、自分の実力以上のことをするのはやめました。 季節によって、散歩の時間帯も変えています。真夏の真っ昼間に歩くなんて、とんでもない。二〇二三年夏のような猛暑のなかでは、朝でも外で身体を動かすこと自体が危険なので、散歩は夜にしていました。 涼しくなってからの散歩は、早朝か夕方の六時頃。起き抜けだと手足が円滑に動かないので、前述したように早朝の場合は三〇分ほど軽く身体を動かしてから家を出ます。前の晩に本を読むのをなかなかやめられないと「寝不足だな」と思うこともありますが、散歩時間をずらすことはありません。散歩のあとには薬を飲んだり新聞を読んだりと、やることがたくさんあり、決めた時間にそれらをやりたいからです。 「散歩やウォーキングで健康を維持するには、一日一万歩が必要」と、以前から言われてきました。しかし、最近では、一日五〇〇〇歩未満でも効果があると言われています。散歩を習慣にしている私の知人は、「あまり歩きすぎると、足以外の筋肉によくない影響を及ぼす可能性がある」と言っています。 つまるところ、どのくらい歩けばいいかは人による、ということでしょう。 歩くフォームは人それぞれで違うので、同じ歩数を歩いても、膝や腰が痛くなってしまう人もいれば、なんともない人もいます。同じ人間が同じ歩数を同じスピードで歩いても、その日の体調によっては、身体のどこかが故障してしまうことがあります。 やみくもにたくさん歩けばいい、速く歩けばいい、というものではなく、自分の体調と相談するほうが安全ですね。それを踏まえたうえで、皆さんにも散歩を楽しんでいただきたいと思います。くれぐれも、私のように自分の力を過信して転倒するようなことのないよう願っています。 さらに連載記事〈ほとんどの人が老後を「大失敗」するのにはハッキリした原因があった…実は誤解されている「お金よりも大事なもの」〉では、老後の生活を成功させるための秘訣を紹介しています。
丹羽宇一郎