SRPGへの愛と熱を詰め込んだ果てに、10年かかった。『ユニコーンオーバーロード』制作陣が語り尽くす10年間の狂気と苦難の開発史
「10年」。 それは、小学生が社会人になっていてもおかしくない期間。 生まれたての犬が老いていてもおかしくない時間。 すべてのゲーム機がガラっと一新されてもおかしくない年月。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 とにかく、「10年」はそのくらい時代が変わるような期間だと思う。そして今回紹介するのは、なんとその「10年」の年月をかけて制作されたゲームである。 そう、アトラス×ヴァニラウェアが制作した『ユニコーンオーバーロード』! 2024年の今に「王道のSRPG」に挑戦したタイトルとして発売前から話題を呼んでいる今作だが、なんとその開発期間はピッタリ「10年」に及ぶらしい。 『ドラゴンズクラウン』や『十三機兵防衛圏』などの過去タイトルでも、なんだか常軌を逸した作りこみをしていることでもお馴染みのヴァニラウェアだが……今作はとうとう「行くところまで行ってしまった」ようだ。 そんな情報を聞きつけた編集部は、今作の開発チームへとインタビューを実施。 今作のディレクターを務めた野間崇史氏、メインプランナーを務めた中西渉氏、アトラス側でプロデューサーを務めた山本晃康氏に、いろいろとお話を伺った。というか、単刀直入に「なにがどうなって10年もかかったのか」を聞いてきてしまった。 これから語られるのは、いろいろな意味で普通じゃありえない「ヴァニラ流のゲーム作り」。 会社の勤怠システムとディレクターを兼任したり、一度用意したモデルを全部作り直したり、キャラのパーツ数がひとりあたり100個を越えていたり、一度書いたシナリオを全部捨てたり……そのゲーム作りに対する「熱意」に圧倒されると同時に、一部の人は悶絶してしまうような内容かもしれない。 だけど、それ以上に『ユニコーンオーバーロード』がどれだけの愛と研鑽を持って作られたゲームなのかも、よくわかるはず。10年かけて作り上げられた「夢」が、ここにはある。ヴァニラファンの方も、今作がちょっと気になっている方も、ぜひこの「10年分の重み」を、とくと味わってほしい。 聞き手/TAITAI・ジスマロック 編集/実存 ■ディレクターとヴァニラウェアの勤怠システムを兼任しています ──本日はよろしくお願いします。今回のインタビューは10年かけて作り込んだ『ユニコーンオーバーロード』の開発中に、どんなドラマや試行錯誤があったのかをお聞きできればと思います。まず今作における、お三方の役割をお聞かせください。 山本晃康氏(以下、山本氏): 『ユニコーンオーバーロード』では、アトラスからプロデューサーという肩書でお仕事させていただいております。簡単に仕事内容を説明すると、ヴァニラウェア社とアトラス社をつなぐ窓口の業務を担当させていただきました。 そして今作は、もしかしたらみなさん「ヴァニラウェアの新規タイトル」ということでポスト『十三機兵防衛圏』のタイトルを期待されているかもしれません。ですが、当初からコンセプトとしてはポスト『ドラゴンズクラウン』のタイトルでした。 つまり、ベルトスクロールアクションにネットワーク要素を噛み合わせた『ドラゴンズクラウン』のように、「SRPGにネットワーク要素を足したら、他にないものができるんじゃないか?」というコンセプトで作られたのが、『ユニコーンオーバーロード』です。 そして、なぜここに至ったのかを……ぜひ10年前まで遡り、野間さんと中西さんに語っていただければと思います(笑)。 野間崇史氏(以下、野間氏): 元々はプログラマーでしたが、今作ではディレクションやキャラクターデザインを担当しつつ、ストーリーやプログラムの監修なども担当しています。ヴァニラウェアの過去タイトルで言うと、『朧村正』の敵プログラムや『グランナイツヒストリー』のシステム周りとサーバー設計などを担当していました。 『ドラゴンズクラウン』の開発が終わり、ちょうど『朧村正』のDLCを作っていたのと同時期に『ユニコーンオーバーロード』の企画が立ちあがりました。 あの時、神谷(盛治)さん【※】が「プロジェクトを2ライン動かしたい」と言われていて(笑)。そこで「SRPG作りたいって言ってたじゃん。絵が描けるんだからやりなよ」という鶴の一声で『ユニコーンオーバーロード』の企画が始まりましたね。 ──そういった経緯があったんですね。 野間氏: 企画当初は『グランナイツヒストリー』にかなり近かったのですが、その要素は制作過程で変化していきました。『グランナイツヒストリー』は自社でサーバーを持たないと実現できないようなシステムでオンライン対戦を実装していたのですが、今作は少し違います。 各プラットフォームで用意されている「ランキングシステム」を使用させていただき、通信対戦の遊びとして落とし込むような形にしました。 中西渉氏(以下、中西氏): 自分はヴァニラウェアに入社したての頃は『くまたんち』のデバッグを手伝ったり、『朧村正』のステージ設計や敵の配置、刀の名前をつけたりしていました。 そこから『ドラゴンズクラウン』や『グランナイツヒストリー』に携わったのち、野間さんと同じように『朧村正』のDLCを制作しつつ、『ユニコーンオーバーロード』の企画書を書きつつ、『オーディンスフィア レイヴスラシル』の仕様書を書きつつ……一時期、三重生活みたいになっている時期がありましたね(笑)。 『朧村正』のDLCを終わらせたあと『オーディンスフィア レイヴスラシル』のメインプランナーを担当し、その裏で『ユニコーンオーバーロード』のことを少しずつ考えていました。今作の企画が本格的に動き始めたのは、その2作が終わってからでしたね。 ──やはりヴァニラウェアは、スタッフのみなさんひとりひとりが多くの役職を担当していますよね。プログラマーやプランナーよりもデザイナーが多い中で、それぞれのプロジェクトが回っているのは能力の高い方が集まっているんだろうなと。 野間氏: 中西くんは会社の会計もやっているし、僕はなぜか勤怠のシステムを作って保守しています。それ以外にも、みんながリモートワークできるように自腹でドメイン名を取得して……「何してんの俺?」と(笑)。ちなみに、今はきちんとドメイン代は会社に請求しています! 中西氏: はい、なぜか会社の事務的なことも兼任していますね。 一同: (笑)。 ──神谷さんの方から「ヴァニラウェア内でプロジェクトを2ライン動かしたい」との話が出ていたそうですが、片方で『十三機兵防衛圏』を作り、もう片方で『ユニコーンオーバーロード』を進めているような状況だったのでしょうか。 野間氏: 全体の人数としては3分の2が『十三機兵防衛圏』に参加していて、『ユニコーンオーバーロード』は3分の1もいないくらいでしたね。 中西氏: 当初の『ユニコーンオーバーロード』は、ディレクターが1人、企画が2人、プログラマーが2人、デザイナーが3人、背景デザイナーが2人の合計10人ぐらいで制作を進めていたと思います。そこから新卒の人が少し入ってくれたりしつつ、『十三機兵防衛圏』が終わったあとは全社体制になりました。 本当に初期の頃は、背景担当の前田さん・野間さん・自分の3人で企画書を書いたり、試作物を作っていた時期もありましたね。 野間氏: 本格的に開発がスタートしたのは『オーディンスフィア レイヴスラシル』が完成してからで、そこから1年くらい経った2016~2017年あたりにはバトル周りが動く形にはなっていたのですが……そういう「目に見える範囲の仕組み」ができているように見えるまでは割と早いんですよね。 つまり、そこからリソースを揃えたり、シナリオを詰めていく部分に時間がかかります。ゲーム開発は「一見、なんとなくできている」状態からが一番長いです(笑)。 ■「企画書の絵がそのまま動いたらいいのに」が、命運を分けた ──『ユニコーンオーバーロード』の企画が立ちあがったのが2014年くらいだとはお聞きしているのですが、当初の企画から現在に至るまでの間に、ゲームの形などは変わっているのでしょうか? 中西氏: 企画としては、1990年代の名作SRPGをイメージしたリアルタイム進行と、何人かのユニットでパーティーを組むスタイルがベースとなっていました。その土台の部分は当初から変わっていません。 野間氏: それこそ当初のキャラクターデザインはすべてデフォルメで描いていましたし、戦闘画面も「斜め上から見た」画面でしたね。 ただ、企画書の表紙には頭身の高い絵を描いていたのですが、それを見た神谷さんが「この絵をそのまま動かしたらいいんじゃない?」と仰られて……。こちらはもう「え?すごい工数かかりますけど、いいんですか?」と半信半疑な状態でした。 そして実際に頭身を上げて制作を進めていた頃に、なぜか当の神谷さんから「野間くんが頭身を上げたからみんな苦労しているよ」とか言われました。 一同: (笑)。 中西氏: ただ、結果的に現在の横並びでインパクトのある絵面が実現できましたね。 ──ちなみに、「企画書の表紙に描いた絵」とはどういったものなのでしょう? 野間氏: 今作のタイトル画面で使っているイラストですね。 企画書の表紙に描いた絵が、ほぼそのままタイトル画面に使われています。 本当に初期の企画書ではもう少し違うキャラも描いてあったのですが、ゲーム内容に合わせて少しずつ直していきました。 ──ヴァニラウェアの企画書は、「絵」の時点で既に面白そうですよね。ちなみに、このイラストは野間さんが描かれたものなのでしょうか? 野間氏: そうですね。「デザイナーの気持ちを理解したい」という一心から、通勤時間の間に絵を練習していた時期があり、イラストも描けます。 ヴァニラウェアに入る前は毎日4時間くらいかけて通勤していたので、電車の中がかなり暇だったこともあり……。そして絵を描き始めて2年くらい経ち、カードゲームのイラストの仕事を受けたりもしました。 中西氏: ちなみに、初期のキャラの等身はこんな感じ(上記画像)でした。 ──このデフォルメのグラフィックは、一度作ってから捨ててしまったのでしょうか? 野間氏: 「ソルジャー」だけは実験的に一度アニメーションを作ってもらったのですが、その時点でやめました。個人的には結構気に入ってはいたのですが、あとでお話するように全体的な絵作りを決める際に「まぁ、まだ初期だし……」と思い、捨てることにしました。 中西氏: たしかこのグラフィックですと、背景的な都合もあまり合わなかったんですよね。 基本的に見下ろすような形になるので、多重スクロールがやりにくかったり、画面のほとんどを地面が占めてしまい、絵作りとしても良さを出しにくかったりします。なので、開発内でも「横向きにした方が空も描けるし、絵作りの幅も広がるのでは?」という意見が出ていました。 ──つまり、現在の等身大のグラフィックを作る時は「デフォルメ時代から縦に伸ばす」ようなイメージだったのでしょうか。 野間氏: そうですね。「デフォルメから頭身を上げる」ことにしたのはいいのですが、そのせいでディティールが足りなくて……。等身大用に一度デザインをリファインする必要が出てきて、悶絶しました。 初期案は元々デフォルメだから許されていたデザインでもあったので、パーツの描き込みなどが足りておらず、いくつかパーツを増やさないとデザインとして成り立たなくなってしまったんですよね。 ──「元々等身大のキャラクターをデフォルメする」ケースはよくありますが、その逆の「デフォルメから等身大にする」パターンは中々ないですよね。 野間氏: ちなみに、いま広報で展開しているキャラの立ち絵は一番最後に描いたものなんです。「順番真逆でしょ!?」という(笑)。 ──しかし、作り方がイレギュラーだらけですね。さきほど見せていただいたデフォルメ時代のキャラは、等身大にする前に一式作られていたということなのでしょうか? 野間氏: 全てではないですが、ソルジャーやナイトといった基本的なクラスは一通り描いていました。 ただ、当初は斜め見下ろし型にする予定だったので、デフォルメキャラでも「奥向き」と「手前向き」の2パターンを用意する必要があり、それがデザイナーさんへの負荷にもなるんですよね。単純に2倍のアニメーションを作らないといけなくなるので……。ですが、横向きの画面にすることで「左右反転させるだけ」で済みました。 ──そのデフォルメ時代のモデルは再利用などはされていないのでしょうか? フィールド上で動いているキャラは、少し頭身が低めになっていましたよね。 野間氏: いえ、フィールドで動いているものはさらにもう一度デザインし直されています。 僕自身、海外のTRPGで用いるようなメタルフィギュアが好きなので、フィールドでのちびキャラはメタルフィギュア風にしてみました。ですが、「色が地味」だとか「なんで色がついていないんですか?」とかたまに言われたりもして……。 一同: (笑)。 野間氏: もしかしたら最初のデフォルメモデルをちびキャラとして使えばよかったのかもしれませんが、カラフルになると敵味方の区別も付きにくくなるので、これで良かったと思っています。最終的にはデザイナーさんの頑張りもあって、ステージやフィールドで生き生きと動く賑やかな感じになりましたね。メタルとは一体……?(笑) ──今作はキャラクターの総数もすごいことになっているとお聞きしたのですが、実際にはどのくらいの人数になっているのでしょうか? 中西氏: 仲間になるキャラですと、60人以上は用意されています。 最初からそこまで多く用意しようとしていたのではなく、最初は20~30人くらいの想定でした。ですが、開発を進めるうちに登場するクラスが増えたり、敵として倒す予定だったキャラが仲間になったりと、徐々に数が膨らんでいきました。ある意味、「10年」という期間があったからこそだと思います。 野間氏: 途中まで天使もいませんでしたね。「天使……作れるから作るか……」みたいなノリでしたが、『十三機兵防衛圏』の開発を終えたスタッフにお願いして、なんとか作ることができました。 ──今作のネームドキャラはほぼ全員ボイス付きとのことですが、これほどキャラクター数が多くなると、そもそもの「アフレコ」もすごく大変だったのではないでしょうか? 中西氏: それはもう本当に……! 本作はキャラクターの数もさることながら、雇用したキャラや汎用の敵キャラ用のバリエーション(6性格×3種×男女の36パターン)もあるので、1ヶ月半東京に住み込みで収録に臨みました。 怒涛の1ヶ月半で何もかもが大変でしたが、終わってみれば一瞬の出来事だったようで、もうすでに楽しかった思い出みたいになっています……(笑)。収録に携わったスタジオマウスの方々やベイシスケイプさん、そして声優の皆さんにはこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。 ■自分が好きなデザインは、自分で作るしかない ──ここで、『ユニコーンオーバーロード』の10年にわたる開発を改めて時系列順にお聞きしていければと思います。企画が立ち上がって最初の1~2年は、具体的に何をされていたのでしょうか? 野間氏: さきほども少し触れた通り、並行で別のゲームの作業も進めていたので、最初の1~2年は合間に作業をするような感じでした。デザインを描いては少し見せたり、誰かに相談したり……。 中西氏: 試しで作っていた最初期は「Unity」を使っていましたよね。 野間氏: そうそう、前田くんが用意してくれたそれっぽいステージ画面を、僕が適当にUnityで試作版的にスマホに出力してみんなに見せていたりしました。時間によって流れる雲を配置して「時間経過」が正常に動作するのかを試したり、シェーダーを作ったり……最初期の試作版から、いろいろなテストをしていました。 見た目の実験をUnityで行い、実際に本番の開発に入る時には自社のフレームワークで作り直した形ですね。一応Unityでも3Dでオブジェクトを配置したりしたのですが、結局どれも使わなかったです。 中西氏: あの頃のものは、何ひとつ残っていないですね……(笑)。 ──これまでのお話を聞いていて、『ドラゴンズクラウン』に「あの時のベルトスクロールアクションを今の技術で作る」というコンセプトがあったように、今作にも「あの時のSRPGを今の技術で作り込んだらどうなるのか」という狙いがあるように感じます。そのアイデアを形にしていくにあたり、自分たちならではのコンセプトやビジョンはどのように盛り込んでいったのでしょうか。 中西氏: たしかに、「自分たちならではのSRPGを作りたかった」ということは今作の根幹にあります。当時遊んだ名作の数々の良さを活かしつつ、ひとつひとつの要素やシステムをどうすれば今の時代にも通用し楽しんでもらえるのかというのを考えるのは、大変でしたがやりがいもあり設計していて楽しかったです(笑)。 野間氏: デザイン方面でいうと、1990年代の当時好きだった「ベタなファンタジー」を目指そうと思ったんです。具体的には、「日本風ファンタジーとシックな雰囲気の間」が好みなのですが、自分が好きなデザインは自分で作るしかないので、とにかく好きなものを詰め込もうとデザインしていきましたね。 ただ実際にやってみて思ったのは、「世界観を作るのが一番大変」ということです。真似事から始まってはいますが、それでもゼロイチで世界観を起こすのは本当に大変でした。 当初はモンスターも構想していたのですが、戦記物として世界観が固まっていったこともあり、「過去に魔物はいたけど、現在はいない」という設定にしました。エルフや天使も「なんとなく存在している」のではなく、「実はこんな理由があって存在している」という理屈を用意してみたかったんです。 こういう世界観をゼロイチで作り上げていく作業をもう一回やれるかと言われると、正直できないなと思います。自分がやりたいものを一度作ったからこそ、どうしても「これを捨てるのはもったいないな……」と思ってしまいますね。 山本氏: あと、当初からあった「シミュレーションRPG×ネットワーク要素」という核のアイデアは、まったくブレていないですよね。 その結果として、カードゲームの「デッキを組むような楽しさ」を提供するシミュレーションRPGという、かなりユニークな作品が完成したと思います。それがこのボリュームと完成度でまとまったのは、野間さんと中西さんの人生を懸けた意地があったからこそだと思います。 ■2021年、一度完成したシナリオを全部捨てるに至るまで ──それほどの長い期間『ユニコーンオーバーロード』を制作する中で、大きな方向転換などはあったりしたのでしょうか? 中西氏: かなり後になってから、大きめの方向転換がありましたね……。 現在の『ユニコーンオーバーロード』はプレイヤーが自由にルートやステージを選択できるのですが、実は2021年くらいまでは1本道のシナリオだったんです。自由に動けるフィールドもあるけど、あくまで「幕間」として用意している感じでした。 野間氏: あの頃のフィールドは「ステージとステージの間を繋ぐだけの場所」でした。制限がかかっているから自由に移動もできないし、当然行く場所も決まっています。単なる編成パート・セットアップ休憩みたいな感じでした。 そして、僕がシナリオを書く兼ね合いでその辺はすごく苦労していて……1年くらいかけてシナリオを最後まで書いていたんですが、結局全部捨ててしまったんです。 ──「シナリオとフィールドのシステムが上手くかみ合わなかった」ということでしょうか? 野間氏: 要は、シナリオで「次に戦うための理由付け」ばかり話している状態だったんです。 次に向かうステージが決まっているので、シナリオでも「なぜここに行くのか」「誰と戦わないといけないのか」といったことばかり話していました。だから、自分でプレイしていても、「2ルートあるのになんで北側の安全な方に行かないの?」と思ってしまったんですよ。 たとえば、ゲーム的には「次は砂漠のステージへ行く」というのが決まっていても、プレイヤー的にはわざわざその砂漠に行く必要はないんですよね。なので、キャラクターが「その場所へ行く理由や、他の道を選べない理由」を説明し続けているようなシナリオになってしまいました。 中西氏: 一通り最後まで作り切ったものの、「こりゃダメだ」とナシにして……(苦笑)。 野間氏: そこで「これなら全部自由にした方が面白くない?」と思い立ちました。 ただ、一度ナシにしつつも、再利用可能なシナリオはリサイクルしています。 たとえば、「この場所に王子がいて、助ける必要がある」といったシチュエーション自体はフィールドに残しつつ、その出来事をいつどうするかはプレイヤー次第……という形にしました。無視してもいいし、気になるならやってもいい。そうした方が、ゲーム的なテンポもいいし、シナリオも言い訳がましくないです。 というか、プレイヤーの目線からすると「一定のシチュエーションがある」という事実があるだけで、それに立ち向かうかどうかは自分が決めたいはずですよね。むしろ、それこそが「ゲーム性」だよなと思いました。ただ、それに気づいたのがちょっと遅かったという……。 一同: (笑)。 ──ちょうど3年くらい前にフィールドに関する大きな方向転換があったんですね。 野間氏: 「フィールドを作り込んだがゆえ」に気づいた部分もあります。シナリオ的な問題もあるのですが、単純にもったいない使い方をしているなと思いました。 既にあの頃の時点でフィールドは「世界地図」として繋がっていたので、余計に矛盾が目立つんですよ。フィールド上では明らかに突破できるルートがいくつか見えているのに、シナリオでは「○○平原に20万の軍隊がいるから行けない」と言われるんです。作っている側も「嘘やん!」と思うんですよ(笑)。 つまり、「フィールドを作り込みすぎてしまったせいで、シナリオ上の嘘がバレる」という状態になっていたんです。そこで、改めて「嘘をつくのはやめよう」と思いました。 中西氏: なので、「せっかく広大なフィールドがあるんだから、これをちゃんと活かそう」という話になったんです。この方向転換が、現在の形にかなり影響を与えています。 ただ、この方針に切り替える前に「本当に変えて大丈夫なのか」という実験を1ヶ月ほど行いました。一部の国だけを現在の「自由に探索できる」形にして試してみたところ……こっちの方が面白かったんですよね。開発的にも「自由にやれた方が絶対面白い」ことが判明し、「もういい、全部捨てよう」と。 ──「フィールド」に関連するのですが、今作はバトルやドラマ中に映っている「背景」にもこだわりを感じました。 野間氏: 最初はそこまで背景のバリエーションは多くなかったのですが、フィールドができあがってくるにつれ、「これだと地域差が絶対必要だよね」という話になりました。たとえばテントが張っている「駐屯地」は、同じ駐屯地でも「雪国なのか砂漠なのか」で、その背景は全く変わってきますよね。 他にも町などといった施設は国によって建築様式が違っていたり……それぞれの土地柄に合わせた結果として、背景のバリエーションもかなり増えました。 中西氏: 種類だけで言うと、色違いやバリエーション含めて180種類ぐらいになっています。 ちなみに、歩き回っている時のフィールドグラフィックも、背景の前田さんがほぼひとりで描いています。「90年代のSRPGのグラフィックを現代に蘇らせた」ような表現を目指し、ノスタルジックでありながらも今風なグラフィックに作り上げられました。 野間氏: あと、町の背景が出来たタイミングで「支配されている世界なのに、こんなに明るくていいのか?」という疑問が指摘され、最終的に各地の町がボロボロになりました。前田くんに「これから町をボロボロにしたい」と伝えたら、「えっ、町を全部壊すんですか!?」と困惑していましたね(笑)。それが後の「復興」システムに繋がりました。 ──それほど背景が多くなると、「ここの地域に対してはこの背景」といった設定もすごく緻密に作られていそうです。 中西氏: フィールドのコリジョンを作ることもかなり大変で……ドットを描くように手作業で塗っていきました。 野間氏: 結果として、戦闘中に飽きが来ない感じにはなっているかなと思います。今作の世界観は「国」がハッキリとわかれていて、国が変わると背景も音楽も変わります。だから、実は音楽的にもベイシスケイプさんにはすごい数を担当していただいて……結果的に90曲くらいになっています。 ──たしかに、SRPGにおいて「戦闘に飽きがこない」のは大切ですよね。 野間氏: ただ、慣れてきた人のために「戦闘アニメのスキップ」も用意しています。最初は「スキップさせない方がいいんじゃないか」という話も出ていたのですが、「スキップのないシミュレーションゲームは流石にマズいでしょ!?」と判断しました。 ですが、スキップし続けていると、部隊が負け始めた時に「勝敗の理由」がわからなくなります。どんなバトルが繰り広げられているのかを把握しておくことも重要です。ここの「強制で見せれば勝ち方がわかるけど、バトルスキップも用意しておきたい」という点は、かなり悩みましたね。 ■実はキャラの「〇〇〇」が、とんでもないことになっている ──これまでも何度か「デザイン」で苦労されたお話が出ていますが、『ユニコーンオーバーロード』のすごさは、まさにこの「ビジュアル」だと感じています。このビジュアル周りの作り込みを、お聞きできればと思います。 野間氏: 神谷さんは、ディレクターだけど絵を描かれるじゃないですか。だから今作では、僕もディレクターとして絵を描いています。その作業の中で「デザイナーさんに渡す元絵は、全部自分で描かなきゃいけない」ということが衝撃でした。 要はデザイナーさんに「この絵をアニメーションにしてください」とお願いするのを、ほぼすべての箇所で行わなければいけなかったんです。だから、戦闘キャラの元絵はほぼ全部自分で描いています。ただ、こんなことはヴァニラウェアでしかしないんじゃないかな……(笑)。 中西氏: 「キャラのパーツ数」もすごいことになっていますよね。 具体的な数はキャラによってバラつきがあるのですが、多めのキャラだと100パーツ前後、馬に乗っているキャラだと120パーツ以上にもなるようです。 ──通常のゲームではどのくらいのパーツ数でキャラを作られるのでしょうか? 野間氏: 普通はもっと少ないです。通常のゲームなら20~30パーツで済んでいますし、『ドラゴンズクラウン』のプレイヤーキャラでも多くて40パーツくらいでした。それが今作は、100パーツくらいになっていたりします。 なぜこれくらいパーツ数が多くなったのかというと、「色変え」をグラデーションマップ【※】でやろうと思ったからなんです。 僕が軽めのグラデーションマップシェーダーを書いたので、「パーツに番号を振ったらパーツ単位で色を変えられる」ようになりました。つまり、今までは一体化して描いていたパーツをふたつにわけて、色を変えられるようになったんです。 たとえば普段は鎧とベルトはひとつのパーツで描くところ、今回は鎧部分の色を変えるためにバラバラのパーツに分けたりしています。その結果としてパーツ数がとんでもないことになり、デザイナーさんが悶絶していました。 ──具体的にはどういうパーツの分け方をされているのでしょうか? 野間氏: キャラにもよるのですが、たとえば髪の色を変えたときに「眉毛の色を変わってほしい」という要望のために、「眉毛」のパーツが存在しているキャラもいます。 ──それほどパーツが膨大な数になってしまうと、ゲーム内のリソース管理も難しそうですよね。 野間氏: そうですね。メモリ管理も結構大変でした。 容量が足りない事態に陥ったときに、ドラマ用に「パーツを削減したキャラ」を作ったりもしました。「このキャラはドラマにしか出てこないから、このアニメーションだけで十分」といったように、なんとか削減した感じですね。 それでも「よく使うリソース」は常駐化した方がよく……そこの管理が大変でした。 ──話を聞けば聞くほど思うのですが……よくSwitchで動きましたね!? 野間氏: どの機種も「半透明」の表現は重いんです。 2Dのゲームは基本的に半透明テクスチャがメインになるので、実は3Dゲームよりも処理が重たいケースがあったりします。だから、各ハードへの対応は大変でしたね……。 Nintendo Switch版は『十三機兵防衛圏』の移植を行った方が手伝ってくれたこともあり、60fpsで動いています。シェーダーを削ったり、いろいろやりくりして何とか収まりました。 ──ちなみに、そういった各ハードへの移植作業もヴァニラウェアの社内で完結しているのでしょうか? 野間氏: 移植に関しては、社内だけで完結しています。 内部のプログラマーが担当していますね。 中西氏: 過去タイトルの移植もだいたいひとりで担当することが多いですよね。 無茶苦茶です(笑)。 ──圧倒的なパーツ数に関してもそうですが、ヴァニラウェアのグラフィックやアニメーションは、やはり社内独自のツールなどで実現されている部分が大きいのでしょうか? 中西氏: そうですね、基本的にアニメーションについては自社ツールで制作しています。 野間氏: よく作り方を聞かれますが、正直、ひたすら工数が多い作り方をしています。 仮に他社さんに方法を明かしたとしても真似はできないんじゃないかと思いますね。 作るのがしんどすぎて、おそらく真似する気が起きないと思います……。 一同: (笑)。 野間氏: ひとつ言えるとすれば、「単純にいっぱい描いている」ということですね。とにかくいろんなポーズとパターンを描く力技で、ヴァニラウェアのアニメーションは作られています。 中西氏: 今作に至ってはアニメーション数が多すぎて、内部でも「このままアニメを流用してアクションゲーム作れるよね?」と言われていますよね(笑)。 ──そのヴァニラウェアのアニメ技術の高さは、なにか特別な社内研修で技術を教えられたりするからなのでしょうか? 野間氏: いわゆる「研修」的な社内教育もあるにはあるんですが……どちらかというと「各々が謎の技術を持っている」面も大きいと思います。 各々が独学で技術を磨いていて、みんながそれぞれ違うテクニックを持っているので、「これどうやって作ったんですか?」と聞いて返ってくる答えが、スタッフによって違うんですよね。これは割とヴァニラウェアの面白いところかなと思います。 ──キャラのパーツ数以外にも、「作り込んだ結果としてとんでもないことになってしまった」箇所などはありますでしょうか? 中西氏: 「アイテムアイコン」にも、グラデーションマップを適用できるようになったんですよね。だから、通常はひとつで済ませることができるアイコンも、いくつかのパーツに分かれていたりします。 野間氏: 当初は、「剣のアイコン」に関しても「8種類くらいを使い回そう」という話になっていたんです。ただ、アイテム数が多すぎるとどれも見た目が一緒になってしまうから、せめてグラデーションマップを使って色を変えるようにしました。なので、パッと見はひとつのアイコンなのに、分解すると5パーツくらいあったりします(笑)。 ──「アイコンのパーツが分かれている」のは、通常のゲームで起こりうることなのでしょうか……? 野間氏: いや、あまりないと思います。 テクスチャと色を変えたアイコンをたくさん用意するのが普通です。 ──結果的に、アイテムの数はどのくらいになったのでしょうか? 中西氏: この前に資料用にアイテムアイコンを書き出したのですが、500個くらいあったと思います。 野間氏: その辺りはプログラマーがネタを考えて、アイテムを増やしてくれていますね。 ■開発初期、「一生懸命〇〇を綺麗にする」ミスをしていた ──これまでにもいくつか出ていると思うのですが、野間さんが『ユニコーンオーバーロード』で初めてディレクターを担当された中で、どのような発見や苦労がありましたか? 野間氏: 発見で言うと、「意外と自分の手で作業ができない」ことですね。 これは神谷さんも言っていたことなのですが、「一番楽しいこと」はディレクターがやらずに、他の人にどんどん回さなくちゃいけないんです。つまり、ディレクターは一番の便利屋として足回りを行い、みんなにひたすら頭を下げて仕事をお願いする役職でもあります。 誰かができることはどんどん別の人に回して、「できないこと」はむしろ自分でなんとかします。だから、「この作業はこの人に頼りたいな」と思っていた箇所が不可能だと判明した時、自分で責任を取らなくちゃいけません。今回の制作は、その度に自分の知識がなさすぎて苦労していました。 たとえば、今作は「文章の校正」も僕が監修しています。これに関しても全く知識がなかったので、一生懸命新聞の閉じ開きを調べていき……もう辛くて泣きそうになりました。こういう「知識が足りない」場面に遭遇するたびに、「ディレクターって大変なんだなぁ……」と痛感しました。 ──先ほどから何度か神谷さんの話題が出ていますが、今作において神谷さんはどういった関わり方をされているのでしょうか? 野間氏: 「たまに様子を見にくる人」ですね。 「できた? おーできてるじゃん、いつ売れるの?」みたいな社長ムーブを楽しんでいました。 一同: (笑)。 野間氏: 真面目に答えると、あまりにも悩んだ時にストーリーの構成にアドバイスをもらったり、直接神谷さんにセリフを書いてもらったこともあります。ダメなテキストを渡したら、「こういう考えでセリフは書くんだよ」というアドバイスと共にめちゃくちゃ直されて戻ってきましたね。実際、すごく参考になりました。 ──やはり一度ディレクターを担当されてみて、改めて神谷さんの考えが理解できた部分もあるのでしょうか。 野間氏: それはすごくありますね……。 これまでは神谷さんが口を酸っぱくして言っていたことが全然理解できていませんでした。だから、僕が「今なら神谷さんの言っていたことが理解できますよ」と言うたびに、「だから言ったじゃん!!」と神谷さんに怒られます(笑)。 やっぱり、人間は失敗しないとわからないものですね。 中西氏: 「人は分かり合えない」って、神谷さんはよく口癖で言っていますよね(笑)。 ──具体的には、どんなことを神谷さんから言われていたのでしょうか? 野間氏: 主に「シナリオ」について、いろいろ聞きました。具体的には「シナリオは最初からケツを考えて書け」「インパクトのあるシーンを寄せ集めて繋ぐんだよ」といったことです。 中西氏: 頭からシナリオを書いていくと、最終的にどこに向かうかがわからなくなるんですよね。 辻褄が合わなくなったりもします。 野間氏: あと、神谷さんは「もっと真似をしろ」とも言われていましたね。 どんな真似から入ったとしても、結果的に世界の事情やシチュエーションで否応なく変わるから、原型なんて残らない。もっと自分が「良い」と感じたものを取り込んで、ちゃんとその感性が反映されたキャラと世界観を作った方がいい。……というお話がありました。 だけど、僕みたいな初心者ほど「オリジナル」をやろうとしてしまうんですよね。今だったら「このキャラはどんなことをするだろう」というワクワク感でシナリオを書けると思うのですが、最初は初心者にありがちな「一生懸命お弁当箱を綺麗にする」ようなミスをしていました。 ──それはどういったことなのでしょう? 野間氏: 端的に言うと、「シナリオの書き方」や「映画脚本の作り方」といった本を読んで、満足してしまうんですよね。 シナリオ全体が「お弁当箱」だとして、具体的にシナリオ上で描くシチュエーションや好きなものを「具」とします。要は、一生懸命「書き方」の勉強をする=お弁当箱を綺麗にしたところで、その綺麗になったお弁当箱の中にいれる「具」がない状態だと意味がありません。 いろいろな作り方やノウハウを勉強するのはいいけど、どちらかというと、その弁当箱に詰め込む「具」としての「好きなもの」や「面白いもの」のシチュエーション作りの方が大事なんです。これは今後の反省点として、一生残ると思いますね。 とにかく、制作当初は「お客さんが見たい物を理解する」というステップが抜けていました。今回の制作はこの事実に途中で気づき、徐々に僕自身の「好きなもの」を反映していきました。だから、次にやる時は最初から全力で「好きなもの」を取り込もうと決めています。 ──ですが、いちユーザーからすると今作には「野間さんの好きなもの」がすごく詰め込まれているように感じます。 野間氏: もちろん個人的には、「全力で趣味を入れた」とは思っています。もう好きなものをぶち込みまくって……最初はいろんな人に文句を言われたのですが、そこは無視しました(笑)。 それこそ「アーマリア」は、「デカい女でメイクが濃い」というキャラを最後にぶち込むことができたので、かなり満足しています。キャラデザに関しては、自分の趣味をかなり詰め込めたんじゃないかなと。 ──中西さんの中で、「今作でやりたかったこと」は実現できましたでしょうか? 中西氏: 今作でやろうと思っていたことは実現できたと思います。 シンプルだけど戦略性の高い戦闘であったり、敷居の高いシミュレーションパートを遊びやすくしつつも戦略性を持たせたり、といった部分ですね。 特にさきほどの「フィールドのオープン化」を実現できたことは大きかったです。 これを実現したことによって、シナリオ上の進行だけでなく「SRPG」の部分にも影響が出たんですよね。SRPGは戦略が重要なゲームですが、フィールドとルートを自由にすると「進め方」に違いが生まれ、各々の戦略にも大きく影響が出るような形になっています。 その意味で「SRPG」と「オープンなフィールド」はかなり相性が良かったと思いますし、ゲーム内のすべての要素を「戦略」として組み込むことができるようになりました。 野間氏: 今の中西くんの話で思い出したのですが、今作は「編成画面」にもこだわりを込めています。僕は「編成画面」が好きで……自分のオリジナルの部隊にキャラを配置して「こいつとこいつは仲が良いに違いない」とか「この組み合わせだったら無双できるんじゃないか?」とかを妄想するのが昔から好きだったんです。 だから、今作の編成画面でもプレイヤーがいろいろと妄想できるように丁寧に作りました。さきほど中西くんも言ったように、今作は進み方によってキャラの編成も大きく変わります。順路によっては全然違うことができるし、「ここを進むためにはこんなキャラや装備が必要だ」という編成方針を自分で探していくのも、楽しいのではないかと思います。 そして、「自分の好きなキャラを全力で最初に仲間にする」こともできます。だから、「コイツらはイチャイチャしているに違いない」と最初から妄想したりできます(笑)。 ■おっさんが仲間になった後はおっさんが仲間になり、お兄さんが仲間になったと思ったらその後もおっさんが仲間になる ──これまで「ビジュアル」や「フィールド」に関するこだわりやエピソードはお聞きしましたが、他にも大きく進化していった部分などはありますでしょうか? 野間氏: 他に挙げるとすれば、「バトル」はかなり進化しましたね。 キャラのアニメーションが映えるように見せつつ、テンポのいいバトルを作っていきました。ただ、本当はもっとテンポをよくできる部分はあったんですが……今作はパッシブスキルによる割り込みがあるので、どうしてもテンポを上げきれないところがあるんです。でも、その中でなんとかギリギリまでテンポを切り詰めていきました。 中西氏: もしもデフォルメキャラだったら、動きもある程度大胆にデフォルメすることはできたのですが、頭身が高くなると「瞬間移動」をするだけでも違和感が生まれるんですよね。そういった問題に直面しつつ、アニメーションはデザイナーさんの方で切り詰めたい部分を調整していただきました。 野間氏: ギリギリまでテンポを高められるように、「カメラが戻るまでに次のキャラが斬りかかってくる」といった工夫を行っていますね。 ──やはり、デフォルメだと許されるスキップの表現や抽象化が、今の等身大のビジュアルだと許されない部分があるんですね。 野間氏: そうですね、あとは「ジャンプ問題」というものがずっとありました。 たとえば「敵の前に移動して攻撃する」というシーンがあったとして、基本的にジャンプで移動する方が早くてテンポもいいのですが、みんながみんなピョンピョン飛び跳ねると滑稽な映像になってしまって……(笑)。かといって走って移動すると、今度は敵に背中を向けて撤退するのは不用心すぎるだろうと(笑)。 なので「キャラ的にOKかな」と判断した場合は走らせつつ、機敏に動けそうなキャラはできるだけジャンプさせるようにしています。 中西氏: 「ウォーリア」のようなずんぐりむっくりなキャラは、ジャンプで移動するより走って攻撃して、そのあとのそのそと走って帰っていく方がそれっぽいですよね。 ──全キャラ2Dで作られた今作の場合、帰っていくときの「後ろ向き用のグラフィック」を新規で用意する必要があるのではないでしょうか? 野間氏: はい、そして急に聞かれるんですよね。 「このキャラの背中ってどうなってるんですか?」と(笑)。 中西氏: たとえば、盾を持ったキャラが背中を向けて帰るとき、ただ反転させるだけではなくて「ちゃんと手に持った盾が奥にある」状態で帰っているんです。 ──つまり、「後ろ向きは想定しないまま全員分のグラフィックを用意したけど、いざ動かしてみたら後ろ向きが必要になり、全員分の背面を用意した」ということなのでしょうか。 野間氏: そうですね。天使を例にとると「背中の翼はどうなっているんだ」となったので、そこから新たに「背中が開いている服を着ている」デザインを用意しました。 ──ここまでのお話を聞いているだけでも『ユニコーンオーバーロード』がすさまじいボリューム感で作られていることはひしひしと伝わってくるのですが、具体的なプレイ時間はどのくらいになるのでしょうか? 中西氏: 想定プレイ時間は、100時間くらいですね。 あまり寄り道をせずにメインクエストだけを進めていくプレイだと50時間くらいかかり、サブクエストなどのやりこみ要素もまんべんなくプレイしていくと、大体100時間くらいです。 ただ、これもフィールドがオープン化したことで、人によって進め方は大きく変わります。社内で効率的にプレイされた方は、40時間くらいでクリアしていました。 ──ちなみに、「100時間のボリュームになってしまった」理由などはあるのでしょうか。 野間氏: もう、「なってしまった」としか言いようがないですよね。 最初の想定では、まんべんなく遊んでも50時間くらいをイメージしていました。 中西氏: フィールドがオープンになった結果として、メインクエスト以外のイベントなども増えていき、この物量になってしまいましたね……。そして、これだけプレイ時間が長いと、デバッグも大変なんですよね。 最後まで遊ぶのにすごく時間がかかるし、通しプレイが大変なゲームになりました。 ──もちろん良い意味で、『ユニコーンオーバーロード』には「とにかく大変な方に突っ込んでいっている」プロジェクトだという印象があります。ある意味、そこにヴァニラウェアらしさも感じます。 中西氏: 「とにかく面白くしたい」「ユーザーのみなさんが楽しめるものを作りたい」と思って作り続けていたら……こんなことになってしまいましたね(笑)。 野間氏: やはり、発売した瞬間にゲームはお客様のものになると思います。発売後にはディレクターである自分ですら一歩離れたポジションになるというか……だから、発売されるまでは少しでも多くの「喜んでもらえる要素」を入れておきたいという気持ちが、ひたすらにありました。 その結果として、ブレーキが壊れたような開発状況になりましたね……。 ──せっかくプロデューサーの山本さんがいらっしゃるので、「正直、この開発状況に対してアトラスはソワソワしていたのではないか」をお聞きしてみたいのですが……。 野間氏: あぁもう、すみません本当に! ブレーキがかかっていないからこんなことに……。 山本氏: いえいえ、アトラス側もヴァニラウェアさんのクリエイティブには絶大な信頼を置いています。 そして、プロデューサーの視点からすると……以前『十三機兵防衛圏』をプロモーションする際に「このゲームがどんな面白さなのか」をユーザーに伝えるのに、かなり苦心しました。ですが、『十三機兵防衛圏』は実際に触れた方の感じた「すごい熱量で作られた作品だ」という驚きや感動によって、広まっていきました。 そして『ユニコーンオーバーロード』は近年のSRPGとはまた違ったシステムの遊びを提示したタイトルでもあるので、「思っていたものと違う」というリアクションも出るのではないかと思います。 ですが、そんな時にも「この作品がどれだけの熱量を込めて、どれだけの心血を注いで作られているのか」を感じてもらえれば、必ず作品としては誰かの心に残るはずですし、世界中にいるゲームファンのどなたかには共感いただけると信じています。 『十三機兵防衛圏』の時に狼狽したざまと比べると安心して構えているので僕もいくらかは成長できたのかもしれませんね(笑)。 野間氏: 僕はもうめちゃくちゃソワソワして、発売前から真っ青になっています。 実は、事前にプレイした私の娘にいろいろ突っ込まれたりしていて……。「なんで最初に洗脳されたおじさんが出てくるの?」「おじさんばかり仲間になるんだけど、これは今どきのゲームなの?」とか言われていました。 その「なんで洗脳された女の子じゃなくて、洗脳されたおじさんなの?」と言われた時、正直「たしかに……」とは思いました(笑)。 中西氏: おっさんが仲間になった後はおっさんが仲間になり、お兄さんが仲間になったと思ったらその後もおっさんが仲間になる……「いつ女の子出てくるの?」という(笑)。 一同: (笑)。 山本氏: むしろ、これこそが「野間さんの好きなもの」ですよね。 キャッチーな構成ありきではなく、「俺の好きなものがこれ!」という要素で構成されていて、野間さんご自身が娘さんや息子さんに残したい物語がこの作品だったのだと理解しています。 ■これは、愛と憧れで始まった夢のプロジェクト ──素朴な疑問ではあるのですが、『ユニコーンオーバーロード』を「自分たちなりのSRPG」として作り上げるにあたって、SRPGというジャンルそのものを研究されたりはしたのでしょうか? さきほどいくつか例が挙げられたように、多くのSRPGのエッセンスを抽出したようなタイトルとして仕上がっているように感じます。 野間氏: そこは、「単に好きだから」という部分が大きいかもしれないですね。 元々好きだったから、結果的に「研究した」感が出ていると思います。 中西氏: 「研究」という目的があったというより、単純にSRPGというジャンルが好きで、普段からずっと遊んでいたからこうなったのだと思います。その上で、「自分たちだったらこうしたいな」という要素をぶち込んでいます(笑)。 ──やはりSRPGというジャンルに対する「愛」が大きいんですね。では、SRPGというジャンルの面白さや魅力を、どういった形で『ユニコーンオーバーロード』に詰め込まれたのでしょうか? 中西氏: まず、「戦いを模したもの」は広義で「シミュレーションゲーム」と言えると思います。そして、そこに「RPG」の要素が加わってくるのが「SRPG」です。 つまり、キャラクターや成長要素、物語などが加わることで戦いに参加する駒のひとつひとつが単なる記号ではなくなり、その世界で生きる人物として愛着が持てるようになる。それがSRPGの良さだと思っています。 そして愛着が湧くと、クラスの相性や戦略性だけでユニットを組むのではなく、「このキャラクターが好きだから使いたい、成長させたい」という思い入れや葛藤が生まれます。しかも、そんな思いが戦略にも反映されて、面白さに相乗効果が加わります。だから、SRPGにおいて「キャラに愛着を持ってもらう」ことは、すごく大事だと思います。その思い入れが結果を結ぶと、さらに嬉しいですよね。 たとえば今作には、「親密度」というシステムが実装されています。このシステムによって編成ボーナスや親密度会話があったりして……さらには「契約の儀式」という一大イベントがあり、それによってその後の展開も変わるといった、「愛着を持ったキャラクターに対して、ゲーム側がちゃんと応えてくれる」ようにしました。 野間氏: そこは僕も中西くんと同じ意見ですね。 SRPGって、ゲームとしてはシンプルなストーリーでも良いのかなと思っていて……「軍として大義名分を持ち、仲良くなった味方と共に悪を倒したい」という欲求を満たすことができれば、それはもう魅力的なSRPGだと思います。そして、そのために必要なセットアップがゲーム側にあったら嬉しいですよね。 特に気に入ったキャラとは儀式があり、儀式に応えた終わりがあり、その終わりの後はどうなったのかということもちょっとだけ見れたら嬉しい……今作は、そんな「思い入れのある仲間を見ていたい」という思いに応じたゲームになれたんじゃないかなと。そして何より、「自分がやっていて楽しいもの」にしたいと思っていました。 中西氏: だから、どのキャラにも愛着を持ってもらえるように「なんとなく憎めないキャラ」が多くなるようにしたかったんです。とにかくキャラクターを好きになってもらえるよう、いろいろ狙いました。 ──プロデューサーの山本さんから見て、SRPGとしての『ユニコーンオーバーロード』はいかがでしょうか? 山本氏: 現在の日本市場におけるSRPGは、90年代に誕生し今もなお人気を誇られているタイトルが親しみのあるゲームシステムで(僕たちも大ファンです)新しいシナリオやキャラクターを楽しむものがメインストリームになっていると思います。 転じて、『ユニコーンオーバーロード』はそれらのSRPGをリスペクトしつつも、もう少し源流を遡ったウォーゲーム寄りの要素が多分に含まれています。日本のゲーム市場では根付かなかったRTSという遊びの系譜、90年代で途絶えてしまった進化系統樹を、2020年代の今に掘り起こしたのがこの作品だと思っています。 近年のSRPGがお好きな方からすると“ウォーゲーム”や“カードゲームのデッキビルディング”のような新奇なゲームシステムで構築されたのが『ユニコーンオーバーロード』なので、熱心なSRPGファンの方にもゲームシステムをご理解いただくまでは難易度CASUALでお楽しみいただくことをオススメしております。 野間氏: 正直に言うと、今作はシナリオ主導のゲームではないんですよね。どちらかというとゲームドリブンなタイトルだと思います。その上でキャラクターにあれこれ妄想してもらうためにも、意図的に「妄想の余地」を広げています。 ──やはり今作は、どちらかというとゲームドリブンなんですね。 山本氏: それこそ『ドラゴンズクラウン』は既に10年前の作品ですが、ネットワーク要素があることによって初見のプレイヤーであれば今でも楽しめるようになっています……つまり、10年耐えうるゲームシステムになっている作品だと思います。 その路線を継承した『ユニコーンオーバーロード』も、「物語を消費する」ゲームではなく「ロジックで遊ぶ」ゲームになっています。 ですので、「世界一のランカーになる」という動機さえ続けば、10年遊べるゲームだと思います。少しセールストークが過ぎるかもしれませんが。 中西氏: ちなみにオフラインも、いろいろな味わい方があると思います。 なにせ進行が自由なので、片っ端から攻略するもよし、いろいろすっ飛ばして遊ぶもよしという(笑)。 野間氏: やればやるほど「悪さをしてやろう」という気持ちが湧いてくるんじゃないかなと。「この編成だったら、どこに行っても勝てるんじゃないか?」と思いながら遊んでいただけると嬉しいですね。 ──ちなみにフィールドがオープンになっているということは、たとえば『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のように最初からラスボスに挑むことも可能なのでしょうか。 野間氏: もちろん最初からラスボスに突っ込めます。 ボコボコにされますけど(笑)。 中西氏: 既にデバッガーの人たちが、そういう「想定していないプレイ」をいくつかされていて、「そんなことできちゃうの!?」と頭を抱えましたね(笑)。でも、そういう遊びが許される「懐の深さ」も良い仕上がりになったと思います。 山本氏: これはもうプロデューサーとしての意見ではないのですが、僕・野間さん・中西さんは好きなものが共通していて……やっぱり3人とも「SRPG」「RPG」はもちろん「シミュレーションゲーム」が大好きなんです。 そして僕らは割と、PCも含めて百花繚乱なシミュレーションゲームが出ていたあの90年代にワクワクしていた世代でもあります。 だから、この30年越しに突如として現れた『ユニコーンオーバーロード』が願わくば大ヒットし、それに触発される形でシミュレーションゲーム市場が賑やかになって新しいシミュレーションゲームが遊べるようになると夢のようだとも思います。 野間氏: たしかに、他のSRPGも見たいですね! ──最後に「10年作ってきたゲームがいよいよ発売される」ことについて、なにかお客様に向けたメッセージなどがあれば、お聞かせください。 野間氏: 正直、僕はもう「思い残すことはあまりない」というくらいにはやりたいことはやったかなと思っています。ある意味後悔がないというか、人のせいにはしないタイトルというか……「どんな結果になっても、全部自分のせいだな」と思える作品ができたと感じています。 やっぱり自信がないと逃げ道を探してしまうと思うのですが、10年作る中で逃げ道をどんどんなくしていったので、最終的には「何もかも俺のせい」と思えるようになりました(笑)。とにかく、自分自身でも楽しめる作品を作り上げることができました。ぜひ、みなさんにも楽しんでいただければと思います。 中西氏: ちょうど野間さんが言われたように、やはり「自分たちが楽しめるゲームを、ちゃんと作れた」ことが大きいと思っています。 この楽しさが、お客様にも届いたら嬉しいですね。 山本氏: 僕がヴァニラウェアさんの開発タイトルに携わって20年が経ちました。だからこそ、これまでのアトラス×ヴァニラウェア作品のディレクターである神谷さんが大事にされてきたことを受け継がれた野間さんと中西さんが、ご自身の人生を懸けられてこの作品を作られたんだなと感じています。 ですので、この作品は他の誰でもない、野間さんと中西さんにしか作れない作品になっていると思います。『ユニコーンオーバーロード』はまずはじめにいちゲーマーとしての「SRPGへの愛」があり、これまで遊び倒したゲームへの憧れが動機となって発案され、そしてついに完成した、夢のような、宝石のようなプロジェクトです。 そんなプロジェクトにアトラス側の人間として関わることができたことを、本当に誇らしく思います。今作は神谷さんにとっての次世代である野間さんや中西さんに「ゲーム作り」が継承された作品でもありますし、この作品がさらに次の世代のゲームクリエイターにとって影響を与える作品になれば、とても嬉しく思います。 その成果として……もっと新しいシミュレーションゲームで遊びたいですね(笑)。 中西氏: SRPGはこれからも新作が出る度に遊びます! 野間氏: ただ唯一、神谷さんが言っていた「鎧を着たキャラクターがダメージを受けるたびに鎧が剥がれていく」という表現だけは実現できませんでしたね。「どんどん合法的に脱げて行ったらいいのに」とか言っていました。それだけはできなかった! ──それは流石に難しくないですか!?(了) 合法的に鎧が脱げる『ユニコーンオーバーロード』、めちゃくちゃ見たいですね。 ……という冗談は置いておきつつ、今作がどんな荒波に揉まれながら制作されたゲームなのか、読者の方にはもう嫌というほど伝わったのではないでしょうか。というか、クリエイター業をしている人は頭を抱えてしまっているのではないでしょうか。 そんな心配をしてしまうほど、いろいろな意味で「すごい話」をお聞きしたインタビューだと感じています。 ですが、さまざまな苦労話をお聞きしつつも、やはりその根底にあるのは純粋な「創作」の精神だと感じました。「自分の好きなものを作る」。「こんなものが見たかったから作る」。それはあらゆるクリエイティブの根源にして、もっとも重要な動機。もっとも大切な燃料。これが尽きなかったからこそ、10年作り続けられたのだとも思います。 キャラクター、ボイス、バトル、背景、フィールド……ありとあらゆるところに熱意と愛を込め続けた10年間。それがとうとう、この世に解き放たれます。もうこちらから言えるのは、「みなさん『ユニコーンオーバーロード』を遊んで、どんなゲームなのか確かめてください!」ということだけ! アトラス×ヴァニラウェアの新作SRPG『ユニコーンオーバーロード』は、本日発売! いろいろなプラットフォームで遊べます! この夢の作品、たっぷり楽しんでください!
電ファミニコゲーマー:
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