時代に逆行? なぜ、渋谷区はラブホテル規制を緩和するのか
東京・渋谷は若者の街と形容されるほど、たくさんの中高生で溢れています。特に夏休みに入った今、若者の街・渋谷は朝から晩まで若者でにぎわいます。開放的になる夏休みは、友達と夜遅くまでハメをはずして遊びに夢中になってしまうこともあるでしょう。 中高生が多いことから流行の発信地にもなっている渋谷区ですが、その反面で青少年が犯罪に巻き込まれることも少なくありません。今般、行政は青少年を守ろうと規制を強化していますが、そのひとつにラブホテルの規制強化があります。もともと、ラブホテルは学校などの文教施設に近接したエリアで営業することはできませんでした。しかし、ビジネスホテルとして届け出されている宿泊施設が、実態はラブホテルだったという“偽装ラブホテル”が社会問題化。それらの対策として、各自治体がラブホテルの建設を規制する条例を相次いで制定しました。 渋谷区も青少年を保護する目的で、2006(平成18)年にラブホテル建築基準条例を制定しています。ところが、条例制定から10年目に入った今年になって、渋谷区は条例を緩和する方針を打ち出しました。時代に逆行するかのような渋谷区の方針転換、いったい何が起きたのでしょうか?
外国人観光客向けホテルも建てられない ダブルベッドの客室数に規制
「条例が制定されてから、区内では新たにラブホテルは一軒も新設されていません。そういう意味で、条例が果たした役割はかなり大きかったと思います。その一方で、弊害も生まれています」と渋谷区危機管理対策部安全対策課は説明します。 「条例制定当時、渋谷区内には通常のホテルが約70軒ありました。ところが、条例制定後の10年間で新しい宿泊施設は8軒しかオープンしていません。昨今、訪日外国人観光客が増え、渋谷にも多くの外国人が訪れるようになりました。そうしたインバウンド需要を取り込むためには、宿泊施設の整備は欠かせません。ところが、現状の規制のままだと、一般の宿泊施設をつくることもできないのです。そうした状況を改善するため、規制を見直すことになったのです。」(同) 渋谷区が制定したラブホテル建築規制条例では、一般的なビジネスホテルとラブホテルを明確に区分するために11の項目を設けています。これらを1つでも満たしていなければ、渋谷区ではラブホテルとみなされます。しかし、外国人は体が大きく、シングルベッドよりもゆったり寝られるダブルベッドの部屋を好む傾向が強く、渋谷区が設けた「ダブルベッドを備えた客室は、総客室数の5分の1以下にする」という規制が時代に合わなくなっていたのです。 また、昨今の渋谷界隈では大規模商業施設の複合化が進み、一棟のビルの低層階がオフィスや商業施設、高層階がホテルという構造も増えています。渋谷区のラブホテル建築規制条例では、「ホテルのフロントやロビーは1階に配置する」とされているので、複合ビルの上層階にホテルをオープンさせることもできませんでした。 さらに、渋谷駅周辺はすり鉢状の地形になっています。駅はすり鉢の底にあたり、そこから道玄坂や宮益坂へ向かってゆるやかな坂になっています。そうした地形を利用して建てられたビルでは、2階や3階に主要出入口が設けられていることも珍しくありません。こうした地形的要因も、ホテルの新規開業を阻害する要因になっていました。 「渋谷区は外国人観光客が多く訪れるのにも関わらず、宿泊施設の数は新宿区の4分の1、池袋のある豊島区の2分の1という状態です。区としては、もっと一般の宿泊施設が増えてほしいと考えています。そうした事情を斟酌した結果、今回の規制緩和になったのです。」(同)
業界間の競争活性化で悪質業者の淘汰期待
今回の規制緩和には、ラブホテルを増やそうという意図はありません。渋谷の宿泊施設が増えれば、訪日外国人観光客がさらに渋谷を訪れるようになり、経済効果が期待できます。また、ホテルの数が増えることで業界内での競争が活発になり、それらの競争が悪質な業者を淘汰することも期待されています。 渋谷区がラブホテル規制の緩和を打ち出した理由は、めまぐるしく変わる観光業界のトレンドや不動産業界の事情が考慮された結果なのです。 小川裕夫=フリーランスライター