映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 ―「ぼくのお日さま」
出会いは光と影の両面をもたらす
小学6年生タクヤ(越山敬達)は野球もアイスホッケーも身が入らず、上達しない。彼は同じリンクでフィギュアの練習に打ちこむさくら(中西希亜良)の華麗な舞に心を奪われ、彼女の真似をして無心にフィギュアのステップを試みては転倒する。不純な動機から入ったにせよ、何かに打ちこむ心性を持ちうるかどうか。そんなタクヤを発見し、フィギュアの世界へ導く荒川コーチ(池松壮亮)の情熱が心を打つ。若年世代にとって出会いがいかに大切であるかを痛感させる存在だ。 奥山大史監督は前作「僕は神様が嫌い」と同様、今回も撮影・脚本・編集を兼任し、自己の作品世界を妥協することなく構築。28歳ながら、前作のサン・セバスティアン国際映画祭での最優秀新人監督賞に続き、今作はカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で上映され、約8分間ものスタンディングオベーションで讃えられたという。少年少女の単純なサクセスストーリーだとしたら、これほどの国際的評価には繋がるまい。世界の映画界はそんなに甘いものではない。
奥山大史はすぐに見つかる答えや予定調和で終始させていない。練習し、上達し、打ち解ける。アイスリンクに差し込む恩寵的な午後の光に包まれながら氷上で舞う姿を、奥山自身もスケート靴を履いて滑走しながらカメラを回す。目くるめくスピード感で背景が流れていくが、彼らの成長する姿はしっかりと画面中央に留められている。 一方、荒川コーチは同性の恋人と暮らしているが、残念ながらそのことが物語に影を落としてしまう。こうした背景についてどう受け止めていくかが、ここで問われてもいる。他者への想像力を醸成し育むための未解決なヒントが、本作には込められているのである。 文=荻野洋一 制作=キネマ旬報社(「キネマ旬報」2024年9月号より転載)
「ぼくのお日さま」 【あらすじ】 吃音をもったアイスホッケー少年タクヤは、フィギュアスケートを練習する少女さくらの姿に心を奪われる。さくらのコーチ荒川は、ホッケー靴のままフィギュアのステップを真似ては何度も転ぶタクヤを見つけると、タクヤに自分がかつて愛用した靴を貸し、フィギュアの世界へいざなう。荒川の提案で、タクヤとさくらはペアを組んでアイスダンスの練習を始める。 【STAFF & CAST】 監督・撮影・脚本・編集:奥山大史 出演:越山敬達、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也 ほか 配給:東京テアトル 日本/2024年/90分/G 9月13日(金)より全国にて順次公開 © 2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS
キネマ旬報社