イスラエル人とパレスチナ人がドキュメンタリー映画を共同制作した理由「パレスチナの問題は世界のニュースから消えていく。だからこそ…」
パレスチナ“占領下の子どもたち”#2
イスラエル人の映画監督デヴィッド・ヴァクスマン氏と映画プロデューサーで人権活動家のパレスチナ人、モハマド・ババイ氏。二人がNHKと共同製作したドキュメンタリー『World Lost Justice 正義なき世界で』が11月7日NHK BSスペシャルで放送される。常軌を逸したガザへの虐殺をイスラエル国内ではどのように受け止められているのだろうか。(前後編の後編) 【画像】イスラエルとパレスチナの間で続く憎しみの連鎖の解決の糸口を探った映画
イスラエル人監督がパレスチナの子どもたちの映画を撮る難しさ
――イスラエル人であるデヴィッドさんとパレスチナ人のモハマドさん。お二人のようなタッグはどうして実現できたのでしょうか。 デヴィッド・ヴァクスマン イスラエル人の私がパレスチナの子どもたちの映画を撮るというのは大変難しいことでした。モハマドさんに出会う前に一緒に仕事をしていた別のパレスチナ人研究者は、取材したいのならば私がイスラエル人であることを隠す必要があると言いましたが、私は嘘はつきたくなかった。 取材する人たちに対して、私が誰であるかを伝えることは、最も重要なことであり、そうでなければこの映画を作る意味はないと思っていたからです。ですからモハマドさんに最初に出会ったときもそのように伝えました。 モハマド・ババイ 最初に出会ったときから、彼は自分がどのような人間で、どうしてこの取材をしようと思ったかを多くの時間をかけて私に説明してくれました。そしてパレスチナの子どもたちの現実や人々に対して、たくさんの質問を投げかけ、彼の思いを私に示しました。 この人は、真実を伝えようとしている。何か情報を隠そうとしたり、現実を違う方向で見せようとしたりするようなことはしない人だと感じました。それは私と彼の間だけでなく、取材対象の子どもたちに対してもそうでした。 パレスチナ人、イスラエル人であるという以前に、人間同士として相手の信頼を得ようとしていました。そこに嘘はなかったし、結局それは、人と人が対話していくための唯一の方法なのだと感じます。 デヴィッド 直接会うことが重要なのです。会って、話して、一緒に食事するだけで、私たちは同じ人間なのだと、気づくことができる。私が話したパレスチナの人たちは、私が兵士でもなく、シオニストでもない、同じ人間だと分かってくれました。しかし残念ながら、イスラエル社会の大半は、壁の向こう側にいるパレスチナ人を自分たちと同じ人間だとは思っていないというのが現実です。