昭和100年を目前に「昭和レトロ風」の動画が流行 “あの頃の映像”っぽさの決め手とは?
日本政府は、2026年が昭和100年目にあたるとして、7月5日に昭和100年に関連する施策推進室の設置を決定した。近年は現役世代だけでなく、Z世代の間でも「昭和レトロ」が人気のあるカテゴリーとして愛されているだけに、ますます機運の高まりを予感させる。 【画像】注目のレトロなMV/映像たち9選 そんな中で、数年前から人気の動画ジャンルになっているのが「“昭和風”」の動画だ。レトロ風な動画を制作するクリエイターといえば、初期のサノヤス造船のCM「造船番長」シリーズから近年のNHK『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』の「タローマン」シリーズ、今年はキタニタツヤのMV「次回予告」などの制作で知られる藤井亮を挙げる人も多いに違いない。もちろん、それ以外でも数多くのクリエイターがいるので、本稿では、このところ頻繁に目にしているであろうクリエイターを中心に取り上げ、その制作技術にフォーカスを当てて紹介してみたい。 5月27日の公開から2000万再生を超える大ヒットとなっているMV「はいよろこんで」。俳優・菅田将暉の弟としても知られるこっちのけんとが手がけた楽曲に、かねひさ和哉がアニメーションを提供した作品だ。かねひさによるキレキレなアニメーションも、楽曲の大ヒットを牽引する要因となっている。 かねひさは主に、昭和30年代から40年代(1960年代から70年代)風の動画を自主制作しており、特にアニメーション分野においては、iPhoneやChat GPTなど現代のテクノロジーを題材を扱って人気を博してきた。その作風に注目が集まり、日本コロムビアの『笠置シヅ子とブギウギの時代』など、CMやMVの制作依頼も増えており、今話題沸騰中といって差し支えないクリエイターだ。 その他のアニメーションクリエイターを見てみると、90年代生まれの複数メンバーから構成されるアートプロジェクト「NOSTALOOK」は、同じ昭和でも1970年代から平成初期の90年代までを対象としている。一口に「昭和レトロ」といっても、年代によって作風にばらつきが出る。これもまた、興味深いポイントだ。NOSTALOOKは架空のテレビシリーズの予告編を自主制作する傍ら、Sexy Zoneの「THE FINEST」や「Purple Rain」、優里の「15の夜」(尾崎豊カバー)や降幡愛の「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。」(中原めいこカバー)などのMVを手がけており、引き続き注目を集めている。 一方、実写では「多摩中央テレビ(編注:実在するテレビ局ではなく、クリエイター名)」などが知られているが、なかでも勢いのある「フィルムエストTV」を見かける機会が多い。前述したかねひさも「知りすぎた女 #4 ~兵頭の正体~」で制作に協力しており、NOSTALOOKも6月29日に公開された「水曜どうでしょうの元ネタ番組『水曜いかがでしょう』を発掘!?」の冒頭で流れる「『水曜いかがでしょう』提供コマーシャルフィルム」を制作するなど、他クリエイターとの繋がりも豊富だ。 そんなフィルムエストは1980年代から平成初期の90年代をモチーフとした作品を制作している。かねひさやNOSTALOOKと比べると活動歴は長く、転機となったのは、2020年に「テレワーク」のレタリングがX(旧Twitter)でバズったことだ。後に振り返ったところによれば、この時点で「VHSのビデオテープに録画したような作風」という、クリエイターとしての方向性が定まったのだそうだ。 これらの「昭和レトロ風」の映像たちは、「どこか昭和っぽい」と言われがちである。では、具体的にはどういった要素が、我々にそう思わせるのだろうか。少し考えてみよう。 まず、制作においては、基本的にデジタルで昭和レトロ風の映像効果を再現することとなる。とはいえ、アナログの要素は欠かせない。アプリやソフトは数多くあるものの、こだわりを見せるならプリセットのまま使わずに補正することになる。フォントにしても、特にタイトルロゴなど目立つものであるならば、レタリングしたものをデジタルで補正した方がより良くなる。 絵についても、たとえばアニメーションであれば、年代によってはトレスマシンでセルにキャラクターの鉛筆画を焼き付けたような質感、アナログ画材による彩色の質感を再現する意識で補正していくこととなる。また、音声もAMラジオのように周波数帯域が狭く、データ量が少ない感じの音質になるよう、イコライザーやピッチシフターなどで補正する。 このように、基本的にデジタルで作業する場合、アナログ色を強めたいのであれば、それなりに手作業での補正が重要になってくると言える。特に実写では、映像を見返してみると屋内外の背景、登場人物の衣装や装飾など、撮影の前に留意しなければならない箇所が山ほどあるのがあらためて分かるかと思う。明らかに年代の異なるものが写り込んでしまうのは避けたい。 こうした当時の制作手法特有の質感にくわえて、動画の視聴環境まで考慮するとさらにリアル感が増す。たとえばデフロストの自主制作アニメ『古代戦殻ジェノサイダー』シリーズは、動画の制作後にビデオテープに録画してノイズを加えているため、当然ビデオデッキでも再生できる(しかもVHSではなくベータマックスを使用することで、希少価値を高めてもいる)。 昭和レトロ“風”が流行しているなかではあるが、実在した「昭和のクリエイティブ史」を知ることで、さらに楽しめるはず。また、クリエイターとしてこうした作風を志すのであれば、当時の機材をインスタレーションとして用意してみるのも楽しいのではないだろうか。
真狩祐志