後部座席にいた7歳と5歳の姉妹が事故死 シートベルトをしていたのに「命を奪う凶器」になった理由
子どもの安全性を蔑ろにするシートベルト着用の「2つの基準」
また、ジュニアシートを使う場合も身長125cmまでは背もたれとヘッドレストがついたものがマスト。125cm以上では背もたれなし座面だけのジュニアシートが使えるが、より確実な安全性を考えたら、150cmまで背もたれ付のジュニアシートを使うべきだ。そしてジュニアシートを装着する際も、鎖骨の上を通り、腰ベルトは両腰骨を通るように装着しなければいけない。 ただ、シートベルトの着用についての基準は今の日本にはなぜか、2つのスタンダードが存在する。 警察やJAFは「シートベルトは身長140cmで使用できるように設計されている」ことを前提に、「6歳未満の子どもを乗せる際には安全基準に適合したチャイルドシートを使う」ことを法律として義務付け、6歳以降は140cmに達するまではジュニアシートなどを使うことを推奨している。 一方、車を製造するメーカー側はシートベルトの着用基準を身長140㎝にしているか、といったらそうではない。 自動車メーカーの集まりである自動車工業会(自工会)は、身長150cmの成人ダミー(AF05)を使って衝突安全性を検証している。それは国際的な安全基準がシートベルト着用を150cmとしているためだ。それ以下の身長ではシートベルトの安全検証そのものをやっていないため、自動車メーカー各社は「シートベルトは身長150cmを過ぎてから」としているのだ。このギャップが「命にかかわる誤解」を招く要因になっている。 つまり日本は、世界トップクラスの安全性能を誇る車を数多く製造する国であるのに、それに乗る子どもの安全性は蔑ろにされてきたと言っても過言ではないのだ。
福岡の事故後にJAFが基準の変更を発表 警察はどうするのか……
自動車メーカーは身長150㎝以上を基準に安全を確認する実験をしているのに、なぜJAFは「シートベルトは身長140cmで使用できるように設計されている」「140㎝未満はジュニアシートを使用することを推奨する」としてきたのか。筆者がJAFに問い合わせたところ、以下のような返答があった。 「当時のチャイルドシートや車のシートベルトの状況等を考慮し、このようなキーワードで啓発を行っておりました」 チャイルドシートやジュニアシートに子ども用ダミー人形をのせて実験した結果、安全とされたのが身長138㎝だった。さらに、ドライバーが免許を取るときの最低身長は135㎝とされている。そのあたりのデータをもとに、「140㎝以上であればシートベルトを使用可能」とした可能性がある。いずれにしても、明確な根拠はないのだ。 一方、身長150㎝以上を安全基準として実験を行ってきた自動車メーカーで組織される団体(自工会)は、警察やJAFが140㎝を着用基準にしていることに対してどう感じてきたのか。筆者は質問をぶつけたが、「自工会としては意見を申し上げる立場にございませんので、回答は差し控えさせていただきます」という返答にとどまった。 さらに、福岡の女児2人が事故で亡くなった数日後から世間を騒がせたのは、JAFが140→150cmに基準を見直すことを公表したことにある。なぜJAFは見直すことにしたのか。筆者の質問にこう回答する。 「今回の事件を受けて見直したわけではなく、各団体での(基準ではなく)目安が異なっていたため、3年前から再検討を行った結果として『150cm未満』に見直すことにしました。身長はあくまでお子さんのシートベルトが正しく着用できているかを確認するための目安であり、重要なのはシートベルトが首にかからず、腰骨を通るように正しく装着されることです」 なお、警察はいまだに、動きを見せておらず危険性の高い「140cm」を基準としているところがほとんどで、神奈川県警など「135cm」としているところもある。身長135cmの子どもにジュニアシートをつけさせず後部座席でシートベルトだけつけることは非常に恐ろしいことだ。これで死亡事故が新たに起こってしまったら、警察はなんとコメントするのだろうか? JAFは来月中旬から「シートベルトは150cm超えてから」という方向で啓発活動を開始するという。長い間、警察やJAFは安全性が証明されていない身長140cmを「シートベルト着用基準身長」としていたことになるが、JAFが軌道修正の動きを見せた今、警察も従来の考え方を早急に見直し、「シートベルトは身長150㎝超えてから」と謳うべき時に来ているのではないだろうか。
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