傾いた建物の解体を進める重機＝１日、七尾市和倉温泉

　　●温泉街店舗初の取り壊し 　七尾市和倉温泉で最も歴史がある創業70年以上の美容店「守沢美容室」が廃業を決め、2日までに建物の取り壊しが始まった。温泉街の中心部に位置し、湯のまちの変遷を見守りながら旅館関係者や住民に愛されてきたが、能登半島地震で建物が損壊して再建が難しいと判断。店主の守沢悦子さん（65）は解体される建物を見ながら「もう少し続けたかったんだけどね」とやり場のない悲しみを募らせている。 【写真】多くの旅館関係者や住民が利用した守沢美容室=2020年11月 　和倉温泉の店舗が取り壊されるのは震災後初めて。2月21日から内部の解体が始まり、1日には重機がバリバリと大きな音を立てて壁などを崩していった。解体現場に足を運んだ守沢さんは涙声で「思い出が詰まった建物だけど、こんなにあっさりと跡形もなくなるのはさみしい」とため息をついた。 　築40年ほどの鉄骨3階建ての店舗は住居を兼ねていた。亡き義父が理髪店、義母の是枝（よしえ）さん（92）と守沢さんが美容店を営んでいたが、近年は守沢さんが切り盛りしてきた。 　地震発生時は家族4人で建物内にいたが、大きな揺れを感じて高台に避難。建物は亀裂が入って大きく傾き、守沢さんは七尾市田鶴浜地区にある実家に身を寄せ、2月からは和倉温泉の空き店舗で暮らしている。 　守沢美容室は昭和20年代半ばに和倉温泉で営業を始め、多くの旅館の仲居や芸者が利用した。是枝さんは石川県美容業環境衛生同業組合の理事長を務め、加賀屋の小田禎彦会長の母で、1990年に亡くなった元女将（おかみ）・小田孝（たか）さんの専属美容師でもあったという。 　常連客から「もったいない」「残念や」と惜しむ声が届く中、廃業を決めた守沢さん。「店を再建する元気はない。皆さんのおかげで頑張ってこられた」としみじみと感謝を口にした。