継続的にお伝えしている「“あの日”を伝える震災伝承施設」です。今回は宮城野区蒲生の「なかの伝承の丘」と「蒲生なかの郷愁館」です。隣り合う二つの施設が地域の歴史と震災を伝えています。 仙台市宮城野区蒲生、七北田川の河口近くの一角に「なかの伝承の丘」があります。閉校した中野小学校の跡地に２０１６年に整備されました。およそ３０００人が暮らしていた蒲生地区は震災後災害危険区域に指定され住民は移転を余儀なくされました。現在、この地区に住んでいる人はいません。 下山正夫さん（蒲生なかの郷愁館館長） 「こんにちは、よろしくお願いします」 下山正夫さん（８０）。震災前は蒲生地区で暮らしていました。 千坂紗雪アナウンサー 「もともと中野小学校があったんですよね」 下山正夫さん 「そうですね。震災がなければ、今年で１５０周年の記念の年だったんです」 １８７３年に開校し、地域のつながりの中心だった中野小学校は津波の被害と震災後の児童数減少で２０１６年に閉校となり１４３年の歴史に幕を下ろしました。 下山正夫さん 「４つの町内（会）はまとまりがある町内。中野小学校中心にしてつながりができた」 伝承の丘に置かれた石碑は蒲生地区にあった４つの町内会のつながりを伝えています。丘の高さは６メートル５センチ。蒲生にある日本一低い山日和山の震災前の標高です。階段の印はこの地域を襲った津波の高さ５．５ｍを示しています。 千坂紗雪アナウンサー 「慰霊塔と慰霊碑ですね」 下山正夫さん 「うちも親父が犠牲なったんですよね。この４町内で１５７名が犠牲になった」 慰霊塔に刻まれているのは、自然豊かな蒲生干潟に集まる生き物たちです。 下山正夫さん 「日和山の干潟にカニとかいるってことで」 蒲生干潟は震災で大きな被害を受けましたが、今、たくましく再生しています。 伝承の丘に隣り合うのが「蒲生なかの郷愁館」。今年３月に開館した宮城野区で唯一の震災伝承施設です。まず目を引くのは震災前の蒲生地区を再現したジオラマです。 千坂紗雪アナウンサー 「私たちが今いるのは、このあたりですね。津波は？」 下山正夫さん 「津波が来たのは、大体は産業道路（県道仙台塩釜線）の東側」 郷愁館は５つのテーマで構成されています。「蒲生なかの地区の移り変わり」のコーナーは中野小学校で使っていた地域教材をもとに地域の歴史を伝えています。 下山正夫さん 「仙台港ができて中野小学校が移転した。蒲生地区は２回変わってるんだよね。仙台港ができて１回変わって、震災でまた変わった」 そして、「中野小学校の記憶」。校旗と校歌からは１４３年間地域とともに歩んだ中野小をいつまでも記憶にとどめようという地域の思いが伝わってきます。 中野小学校を中心に、地域の繋がりが強い蒲生地区だったからこそ、復興も４地区一体となって行いました。 下山正夫さん 「蒲生地区はみんなで一緒に復興をやろう。３月２０日に災害対策委員会という復興に対しての組織を立ち上げる」 災害対策委員会のメンバーとして下山さんは瓦礫撤去や仮設住宅の設営、集団移転の問題に向き合い続けました。そして、２０１５年１１月、下山さんは内陸部へと移転しました。 下山正夫さん 「やっぱり戻りたかったよ。だって６６年もそこに住んでたんだもの」 千坂紗雪アナウンサー 「郷愁館は下山さんにとってどんな場所ですか？」 下山正夫さん 「私だけじゃないと思うんだけど居場所ができた。ここから移転したもんだから、この地域がどう発展していくか、興味があるよね」 郷愁館のシンボルになっているものがあります。樹齢４００年の杉の切株。震災前は中野小の玄関に置かれていたもので、子供たちと地域を見守ってきました。 下山正夫さん 「この切株見て中野地区の歴史があったんだなって認識してもらうのが一番かな。地域の歴史を残し、伝えたい」 蒲生なかの郷愁館の展示には、住み慣れた土地を離れざるを得なかった元住民たちの思いもそっと添えられていました。