「パーカーおじさん」論争、ファッション研究家の見解は? 『STATUS AND CULTURE』デーヴィッド・マークスに聞く
YouTube「新R25チャンネル」で12月6日に公開された動画にて、コラムニストの妹尾ユウカ氏が「40歳近くになって、パーカーを着ているおじさんはおかしい」と語ったことが話題を呼んでいる。動画タイトルが「【老害おじさん化回避】若者と絡むな、パーカー着るな。“いいおじさん”のすべて【イケオジへの道】」という煽りの利いたものだったこともあり、論争に発展している状態だ。 【画像】デーヴィッド・マークス氏の著作『STATUS AND CULTURE』(筑摩書房) ファッションとその文化的背景に精通し、『STATUS AND CULTURE ――文化をかたちづくる〈ステイタス〉の力学 感性・慣習・流行はいかに生まれるか?』(筑摩書房)の著書があるデーヴィッド・マークス氏は、堀江貴文氏やひろゆき氏のようなIT系の著名人から反発があったことについて、次のように分析する。 「文化によって社会的地位のある人が着る洋服は違いますが、かつてはスーツスタイルが主流であり、ほとんど義務、制服のようなものでした。しかし、IT企業が急速に隆盛するなかで、カジュアルな洋服を着て働いていたIT従事者の社会的地位が高まるとともに、カジュアルな洋服を着ることそのものがエリート文化になっていった。いまではスーツを着ている人と、パーカーを着ている人のどちらがエリートなのか、区別がつきません。 特に日本の40~50代だと、裏原宿・ストリートウェアという文化に親しんだ人も多く、着慣れたスタイルをそのまま貫いているということもあります。これは、ある意味で“組織や社会の規範に縛られず、自分の力で成功する/した”、“だからこそスーツを着なくてもいい”というメッセージを表現している面もあるのではと思います」 単に「パーカーおじさん」と揶揄されたように受け取るだけでなく、自身がファッションとともに発信している社会的メッセージを無碍にされたという感覚が、反発につながっている面もあるのかもしれない。一方で、ファッションにおいて「周囲の評価」には一定程度、敏感である必要があるとデーヴィッド氏は指摘する。 「もちろんファッションは個人の自由ですが、同時に周りがカッコいいと思うか、ダサいと思うか、ということが価値を定めるのもファッションの特徴です。今回の動画が話題になったのは、“大人がパーカーを着る”ということに対する感覚に、世代間で摩擦が生じているからという側面もあるのでしょう。実際、この問題を取り上げた記事を見ると、若い人たちからの共感の声もある。 自己表現をした結果、よくない反応を受けるのもファッションにはつきもの。これは仕方がないことでもあり、若い人たちのなかには、40~50代の人に自分たちと同じような服装ではなく“大人の姿”を期待していて、パーカー姿をあまりかっこいいとは思っていない人たちがいるのは事実でしょう。私自身、大人がパーカーを着るべきではないとは全く思いませんし、急にスーツを着るのも不自然だと思いますが、若い世代が憧れるファッションではなくなっているのかもしれないという点は、考えてみてもいいのかもしれません」 妹尾ユウカ氏がXで今回の動画を紹介しつつ、ポストした「ジジイはパーカーでフラフラすな」という言葉は確かに刺激的だ。エイジハラスメントと受け取る人が多いのも頷けるところだが、「若い世代の率直な意見」としてファッションについて考える契機にする、という考え方もありそうだ。
リアルサウンド ブック編集部