三谷幸喜×長澤まさみ×西島秀俊インタビュー!映画「スオミの話をしよう」は「俳優さんがみんな輝いて見えるものを作るという目標が一番達成できた」(三谷)
三谷幸喜監督の待望の新作映画「スオミの話をしよう」が、9月13日(金)より公開される。今作は行方不明となった新妻・スオミを個性豊かな現夫&元夫たち5人が探す極上のミステリー・コメディ。5年ぶり9本目の映画となった三谷監督、夫の数だけ異なる顔を持つスオミを演じた長澤まさみさん、4番目の夫・草野を演じた西島秀俊さんのトークをお届けします! 【写真】スオミ役の長澤まさみ ◆長澤さん演じるスオミというキャラはどのように生まれたのですか? 三谷:僕が脚本を描く時は、いつも俳優さんありきです。今回も長澤さんでどんな物語を作りたいか。長澤さんならどんな役で、どんなせりふを言ってほしいか。そこが着想のきっかけでした。僕は長澤さんから“哀愁”を感じるんです。彼女自身がそういう方というより、そういう役を演じるとより魅力的になるという印象があって。そこからキャラを膨らませました。 長澤:スオミはダンナさんたちによって見せる顔が違っていて別人のようですが、実際は1人の人間。なので、変化を付けつつ、1人の人間だという説得力をどう持たせるか。そこがすごく難しくて。現場でも三谷監督から「それじゃないんだよね」と言われて…。 三谷:そこまでキツい言い方はしていなかったと思いますけどね(笑)。 長澤:でもそれはいわば、三谷監督からの「スオミのこういう人物像にたどり着けますよね?」という挑戦状のようなものとして受け止めました。 ◆スオミの元夫の1人で神経質な警察官の草野も西島さんの印象から? 三谷:西島さんって何となく神経質そうな…実際にお会いするとそんなことはなく、むしろ真逆に近い方なのですが。でも、神経質でいろんなことが気になるからこそ警察官としては有能で真相に近づけるというイメージが浮かび、当て書きさせていただきました。 西島:どちらかと言えば大雑把な方だと思っていますが、もしかしたら、どこかに少しは神経質なところもあるのかもしれません。ただ草野は、神経質で空気の読めない言葉や態度をとってしまうのに、そのことに気づいてもいないという、ちょっと問題のあるキャラクターなんですよね。 三谷:でもそこは西島さんが面白さや温かさを肉付けして愛らしくしてくださったので、感謝しています。スオミが「料理苦手なんです」と言った後の、草野の「料理だけが苦手みたいな言い方だな」みたいなせりふも、すごく嫌みなのですが、あれをあんなにすがすがしく言えるのはすごいなと。 西島:かなり嫌な感じでしたよ。何てことを言うんだろうと思いました(笑)。 三谷:でも、西島さんが言うと不思議とそうは聞こえないんですよね。 長澤:演じる人の印象で言葉の強さが和らぐことってありますよね。 ◆この三谷組の現場で自分の新しい一面が引き出されたという感覚は? 長澤:今回、中国語のせりふがあって。他の国の言語をしゃべるのは好きですし、自然とキャラも変わるんです。言語に合った性格になるというか。それによって新しい自分を感じました。 三谷:どうしても長澤さんに中国語をしゃべってほしくて強引にその設定を入れたのですが、見事でした。あれは適当ではなく、本当の中国語なんです。 西島:僕はミュージカルシーンのダンスでしょうか。最初は気が重かったのですが、稽古が始まったらダンスの本間先生が素晴らしくて。みんなで踊っていたらだんだん楽しくなりました。 三谷:じゃあ、今度はクラシックバレエなんていかがですか? 長澤:すごく似合いそうですね。 西島:何をおっしゃるんですか(笑)。 ◆撮影1か月前から、長回しに備えたリハーサルがあったそうですね。 三谷:映像作品ではあまりそういうことはしませんが、僕は舞台をやっているので、理想的には1か月稽古して、1か月本番で演じてもらった後の俳優さんの芝居を映像に残したいという思いがあったんです。せりふを覚えたレベルではなく、普通にどんどん出てくるレベルまで行き着いた芝居を映し出せたら、どんなすごい映画になるのか。それに近い形に挑戦してみました。 西島:僕は初めての三谷組だったので、いつもこんなふうにリハーサルをされているのかな、すごいなと感銘を受けていました。三谷監督は本番で毎回違う演出をされるんですが、そのたびに俳優全員が謎の緊張感を持ちながら、でも真剣に応えようとしていて。それが楽しかったです。 長澤:私は三谷監督の舞台「紫式部ダイアリー」に出演させていただいた時のことを思い出しました。その都度注文が入って、刻一刻と形が変わっていくのは今回も同じ。ただ今回のリハでは、自分がイメージしていたスオミ像と三谷さんが求めていたスオミ像が違っていたんです。そこはずっと悩んで悩んで、夜も眠れないほど悩んで。 三谷:そんなにですか? 長澤:はい。そんな時に軸になったのが草野さんの存在でした。いろんな顔を見せるスオミですが、大元の彼女は草野さんとの関係の中にいる。悩んだらいつもそこに立ち返っていました。 三谷:長澤さんは大体いつも悩んで、反省してらっしゃって。エンケンさん(遠藤憲一)もそういうところがあって、意気投合されていましたよね。 長澤:そうなんです。「一緒だね」って言われて、仲良くなりました(笑)。 三谷:でも、結果的には長澤さんという俳優さんの魅力を余すところなくこの作品に残せたのではないかと思います。もちろんこの先もっといろんな面を見せてくださるでしょうけど、現段階での集大成的作品にできた気がしますし、それがやりたかったことでもあったので、僕はすごく満足しています。 ◆特に終盤、現夫&元夫たちを前にした長澤さんのお芝居が圧巻でした。 三谷:撮影で長澤さんが他のみんなと一堂に会するのは、あのシーンが初めてでしたよね。あのセットに入るのも、長澤さんは他のみんなとは違ってその前に1回来たことがあるくらいで。だから新鮮で、その分緊張もされたでしょうけど、すごくよかったです。 長澤:本当に緊張しました。でも、そこも草野さんがいたから安心できました。やっぱり今回は、自分の中にあるものというより、草野さんとの関係の中にあるスオミを通して出てくるものに向き合ったという印象が強いです。 西島:リハーサルの時からすごいシーンになるという予感はしていましたが、頭から最後までワンカットの緊張感もある中、長澤さんのお芝居が本当に素晴らしかったです。OKが出た時は感動しました。 三谷:これまで映画を作ってきた中で少しずつ見えてきたのは、やっぱり僕は映像作家ではなく舞台の人間であり、そんな自分にできるのはリハーサルを重ねたり、カットを割らずに長回しにしたり。そうやって演劇的に撮影することも含め、俳優さんがみんな輝いて見えるものを作ることしかないということ。そういう意味では、今までで一番その目標が達成できたと思います。 <プロフィール> 三谷幸喜 ●みたに・こうき…1961年生まれ。東京都出身。A型。近年では、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の脚本を手掛け、大きな話題を集めた。今作は映画監督作品としては「記憶にございません!」以来5年ぶり、9作目となる。 長澤まさみ ●ながさわ・まさみ…1987年6月3日生まれ。静岡県出身。A型。三谷作品にはこれまで、ドラマ『わが家の歴史』、NHK大河ドラマ『真田丸』、舞台「紫式部ダイアリー」などに出演。『鎌倉殿の13人』では、語りを務めた。 西島秀俊 ●にしじま・ひでとし…1971年3月29日生まれ。東京都出身。A型。近作は、映画「首」、ドラマ『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート』、Apple TV+『サニー』など。三谷作品には今作が初出演となる。
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