s**t kingz小栗基裕×坂ノ上茜「何をやっても成立させる力がある」舞台の魅力:インタビュー
小栗基裕(s**t kingz)と坂ノ上茜が、4月26日からすみだパークシアター倉で上演される劇団papercraftの新作舞台『空夢』に出演。これから夫婦になる男女を演じる。世界的ダンスパフォーマンスグループ s**t kingz(シットキングス)のメンバーで、瀬戸山美咲演出の舞台『ある都市の死』、映画『孤狼の血 LEVEL2』、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』に出演した小栗基裕と、ドラマ『チア ☆ダン』『監察医 朝顔』、『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』に出演した坂ノ上茜がW主演を務める本作。『空夢』は、同級生が住む街が舞台となり同級生が1人多いというところから、事態は進展。いつ誰が、どうして多かったのかは、誰にも分からない。一人多いので一人減らさないといけないという、不思議なストーリーとなっている。インタビューでは、『空夢』の台本を読んで感じたことや今考えていること、本番までの期間どのようにテンションを上げていくのか、それぞれのやり方を語ってもらった。【取材・撮影=村上順一】 ■全貌を聞いてしまったらもったいない ――いろいろなイメージが膨らむ作品だと感じたのですが、お2人は台本を読まれたとき、どのような感想を持ちましたか。 小栗基裕 今はまだうまく言語化できていなくて、何かは確実に残っているのですが、頭の中で様々なことが渦巻いています。この世界はそんなに単純ではないという感覚がありました。 坂ノ上茜 私もまだうまく言語化はできていないのですが、台本を読んで、だんだんわかってきたこともあります。2回目に読んだ時に見え方が変わり、繰り返すことでいろいろな発見がある作品だと思いました。稽古までにもっと理解を深めなければいけないところもたくさんあるのですが、この余白感、読み終わった後に感じたものを舞台に残して演じられたらいいなと思いました。 ――確かに視点を変えての2回目は感じられるものが変わりそうですね。さて、演じられる役にどのようにアプローチしようと考えていますか。 小栗基裕 まだ稽古は始まっていなくて、一昨日に台本をいただいたばかりなので、これからどう考えていこうかなと。今はいい意味でまっさらなんです。(※取材時) 坂ノ上茜 まずは同級生の街など、共通のワードを認識して話していけば気持ちが自然とそっちに向かうと思っています。 ――お2人が演じるのは「男1」 と「女1」。主人公なのに名前がない役なんですよね。 小栗基裕 人間はみんな名前を持っているのが当然だけど、この世界はもしかしたらそういう概念がないのかもと思ったり。だとしたらどうやって自分のアイデンティティを持つんだろう、とかそういう細かい設定はまだ未知なので、それを想像するのも楽しいです。 ――逆にすごく自由度がありますよね。お2人は役の中では婚約されていますが、この関係値はどのように作っていきたいと考えていますか。 小栗基裕 これまでどういう生活を2人でしてきたのか、など考えることが沢山あります。2人は一緒に暮らしているとのことなので、いろいろなことを共有していきたいと思いつつ、今ある情報の中でそれをどう作っていこうか考えています。 坂ノ上茜 台本を読んで人間の当たり前が通用しないことがわかってしまい、名前もそうですが、もしかしたら年齢なんて概念も存在しないかもしれないので、とても難しいなと感じています。 ――本当に情報が少ないんですね。 坂ノ上茜 海路さんに聞ける場面もあったのですが、まだ迂闊に聞いてはいけないような気がして。1 回自分で咀嚼した方がいいのかなと思っています。 小栗基裕 確かにさらっと全貌を聞いてしまったらもったいないなと思う自分もいます。いろいろ想像したり考えてみることが大事なのかなと。もしそれが違ったとしても想像した何かはきっと本番まで残る気がしています。 坂ノ上茜 自分の感じたことを大事にしたいです。 ■2人にとって印象的なルールとは? ――脚本の中で同級生が1人増えたから1人減らすなど不思議なルールが登場します。お2人はルールというものをどう感じていますか。印象的なルールなどありましたら教えてください。 坂ノ上茜 今ルールと聞いてパッと思い浮かんだのは校則です。私が通っていた高校は不思議な校則がたくさんありました。たとえば全校集会や学年集会でのお辞儀は10秒間と決まっていたり、革鞄を持って行かなければいけないとか。指定された鞄以外を持っていくと忘れ物扱いになってしまうんです。他にも年中長袖を着用するというのもあって、当時はこの校則の意味はなんだろうと思っていました。 ――それこそ同級生の街みたいですね。 坂ノ上茜 似てるかもしれないです(笑)。昨年の夏頃に久しぶりに母校に行ったのですが、革鞄ではなかったり、お辞儀も5秒になっていました。「私は革鞄をちゃんと持っていってたのに!」と思ってしまう自分もいて、いつの間にか疑問に思っていたはずの校則に自分も染まっていて、ルールって不思議だなと思った瞬間でした。 ――とても厳しい校則の学校だったんですね。小栗さんはどのようなルールが印象的でしたか。 小栗基裕 僕がよく思うのは、ルールとはちょっと違うかもしれないのですが、冠婚葬祭のマナーです。たとえば結婚式のご祝儀の包み方もダジャレみたいで、偶数だと割り切れてしまうから奇数じゃないとダメ、ピン札じゃないと失礼、帛紗(ふくさ)に包んで出さなければいけないなど、それを守らなかったとしても、きっと何もないけど守らなければいけない気がしてしまう。そもそも誰が決めたルールなのかもわからないし、誰が取り締まるわけでもないのに、日本はそういうものがより多いイメージがあります。 坂ノ上茜 結婚式で「妻が先立つ」という意味で、つま先が開いているヒールを履いてはいけないとも言いますよね。 小栗基裕 そういうのもあるんだ! でもちゃんと僕らはそこに縛られてそれを守ろうとしている自分もいます。ルールって見えないけど、すごく強制力があります。この『空夢』でもルールを破ったところで誰にもバレないし、みんな隠れてやってるよと言いながらも、破ることができない不安さや怖さがあります。 ――改めて考えると不思議ですよね。さて、これから稽古に入られて本番に臨まれるわけですが、お2人はどのようにテンションを持っていきますか。 小栗基裕 自分がお芝居をやる時は舞台を観に行くことが多いです。そこから刺激をもらうと言いますか、自分もこんな風に舞台上で輝きたい、といったモチベーションにつながります。他にもこのセリフを今この人はどういう気持ちで言ったのだろう? とか自分がその舞台に立っていることを想像しながら観て、テンションを上げて行きます。 ――坂ノ上さんはいかがですか。 坂ノ上茜 私は日常を描いた作品に出演させていただくことが多かったので、『空夢』のような世界観の作品は初めてなんです。なので、テンションの持って行き方もこれまでとは変わってくるかもしれないなと思っています。いつもだったら何となく気分を作品に近づけて、作品の世界観に近いと思える音楽があったらそれを聴いたりしています。もし曲調が作品の世界観と違ったとしても、歌詞が近ければ、歌詞を中心に聴くときもあります。今回はどうしようかまだ考えています。 ■舞台は何をやっても成立させる力がある ――さて、小栗さんだったらダンス、坂ノ上さんだったらアクションなど、お2人が得意なものがありますが、そういうのを見せる機会は今回なさそうですよね? 小栗基裕 作品的になさそうですが、稽古が始まったら海路さんが突発的に何か提案されるかもしれないので、100%ないとは言い切れないです。 ――今まで経験してきた舞台や映像作品で想定外の演出があったこともありましたか。 坂ノ上茜 私は昨年参加した『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』でありました。劇場での舞台経験が初めてだったこともあるのですが、驚きの連続でした。特に演出はとても独特で。たとえばワイヤーを使用して飛んだりするシーンでは、基本ワイヤーをつけるところを見せないようにするのがベターだと思うのですが、あえてワイヤーをつけるという工程が描かれていました。最初はワイヤーをつけてもらうのですが、最後は自らつけるんです。それは自ら乗り込むという意思を見せる演出だったのですが、ワイヤーを付ける行為ひとつにもこんな意味があったんだといい意味で裏切られました。 小栗基裕 舞台では何をやっても成立させる力があると思います。たとえば台本上では向き合って話しているシーンなのに、 舞台上では縦に重なって同じ方向を向いて、向き合っているという体で話すことが成立します。去年参加した舞台『ある都市の死』でも、そういう風に見せるんだ! という驚きがありました。僕は想像がつかないようなアイデアがとても好きで、ミニマムな中でどのように見せるのかといったコンセプトを持った作品を観たときは、すごく刺激をもらいます。 ――最後に舞台『空夢』を楽しみにしている方へ一言お願いします! 小栗基裕 想像を楽しく裏切る舞台になると思います。皆さんはまずあらすじを読んでいただいて、見終わった後にあらすじからの印象が変わるところも楽しんでほしいです。もちろんまっさらな状態で観ていただいても絶対楽しめると思うのですが、ある程度自分で想像してからの方が“やられた感”がより味わえるのかなと思います。 坂ノ上茜 『空夢』は2週間ほどの期間を描いたストーリーなのですが、場面展開がかなりあって、日をまたぐ時間経過などどんな演出になるんだろうとワクワクしています。いま台本を繰り返し読んでイメージしていますが、これが舞台でどう動くのか全く想像できていなくて、海路さんがどういう風に舞台を作られるのかとても楽しみです。観る前と観た後で見え方が変わってくる舞台になると思うので、ぜひ劇場にお越しください! (おわり)