【ユーロ】絶好調スペイン、主要国際大会でホスト国に1度も勝利のない中ドイツと準々決勝で対戦
スペイン代表が好調を維持している。ジョージアに圧勝して欧州選手権で準々決勝進出を果たし、3大会ぶり、史上最多4度目の優勝にまた一歩近づいた。 スペインは現在ドイツで開催されている欧州選手権の1次リーグで、大会参加24チーム中唯一となる3戦全勝および全試合無失点を成し遂げた。 ■ポゼッション至上主義から脱却 デラフエンテ監督が最終節アルバニア戦後、興奮気味に「欧州選手権やワールドカップの歴史の中、スペインが1次リーグをこのような形で勝利し、クリーンシートを達成するのは初めてのことだ」と語った通り、同国史上最高のスタートとなった。 1次リーグ成功の要因について、スペイン国内ではさまざまな分析が行われたが、特に“ポゼッション至上主義”から脱却したことが評価されている。初戦のクロアチア戦で112試合ぶりにボール支配率を下回り、最初3試合の平均は大会7番目の54・3%(トップ3は64・3%のドイツとポルトガル、59・7%のイングランド)。スペインのボール支配率がこんなに低いことは稀であり、70%を超えたカタールワールドカップ(W杯)と大きくかけ離れているが、これが良い結果を生み出す要因となった。 前任者のルイス・エンリケ監督はスペインのアイデンティティーと言うべき、ボールを支配するサッカーを前面に押し出して戦った。その結果、カタールW杯では相手に徹底的に引かれ、敵陣でスペースを得ることができず得点に苦しみ、最終的に決勝トーナメント1回戦でモロッコにPK戦の末に敗退するという憂き目にあった。 デラフエンテ監督は同じ轍を踏まないよう、10年以上前から脈々と続いいていた“ティキ・タカ(スペイン代表のテンポ良くパスを回すプレースタイル)”に手を加えた。ペドリ、ロドリ、ファビアン・ルイスといった完成度の高い中盤がゲームをコントロールするのがベースなのは間違いなく、1次リーグのパス成功率はドイツ(93%)に次ぐ90%(イングランド、ポルトガルと同じ)と精度の高さは変わらなかった。 しかし、あらゆる局面でボールを無理にキープしようとはしていない。相手にある程度ボールを譲ることでその背後に生まれるスペースを生かし、ヤマルとニコ・ウィリアムズといった強力なウイングおよびカルバハル、ククレジャといった攻撃的なサイドバックを擁して速攻を仕掛ける戦術を構築した。 また、1次リーグ全試合無失点という堅固な守備も忘れてはならない。イタリア代表のスパレッティ監督は試合内容で完敗したスペイン戦後、「ボールを奪い返してもすぐにプレスをかけられてしまい、ビルドアップで簡単なパスミスを何度も犯してしまった」と語っており、スペインは守備面でも成熟した姿を見せていた。 ■ジョージア寄せ付けず4-1快勝 スペインは好調のまま、決勝トーナメント1回戦でジョージアと対戦した。ジョージアは今大会の予選で2度顔を合わせ、7-1、3-1の圧勝を収めた相手だったため、スペイン国内では楽観的な雰囲気があった。 しかし、デラフエンテ監督は試合前、「まったく簡単な試合にはならないと思う。彼らはポルトガルに勝利したし、大きく成長している」とまったく油断した様子を見せなかった。ジョージア戦は相手が後ろに引いたため、スペインが徹底的にボールを持つ展開となる中、指揮官の予想は的中する。 前半18分にダイナミックなカウンターからル・ノルマンのオウンゴールで失点を喫してしまう。その後、ボール支配率が80%に達する時間帯もあり、シュートを次々と打つも精度を欠き、カタールW杯の悪夢が蘇ったサポーターもいたはずだ。 それでも今のスペインには逆境を跳ね返す力がある。前半のうちにロドリがミドルシュートで同点にすると、後半に入りファビアン・ルイス、ニコ・ウィリアムズ、ダニ・オルモが得点を重ねた。終わってみれば4-1(ボール支配率72%-28%、シュート36本-4本、枠内シュート13本-0本)と力の差を見せつけての圧勝となった。 ■視聴率60・3%注目度も急上昇 スペイン国内では開幕当初、スペイン代表は優勝候補の5番手くらいだったため、そこまで大きな期待はなかった。しかし、チームが素晴らしい結果を出すに伴い、注目度が急上昇。ジョージア戦の視聴率は60・3%に達していた。 国民の期待を一身に背負ったスペインの準々決勝の相手はホスト国のドイツ。デラフエンテ監督が「欧州選手権やW杯の決勝でもおかしくないカード」と評した通り、今大会ここまで最も出来の良い2チーム同士の対戦となる。 この一戦に向けてスペインの有利な点を挙げるとすれば、フィジカル面だろう。優勝するには1カ月間で7試合という過密日程をうまく乗り切らなければならないが、スペインには3試合目で大幅なローテーションを行う余裕があった。 1試合を残して1次リーグ首位通過を決めた恩恵を受け、最終節アルバニア戦はスタメン10人を入れ替え、レギュラー組を休ませることができた。また、登録メンバー26人中、第3GKレミーロを除く全員に出場時間が分配され、大会の雰囲気を肌で感じられたことも、残り3試合に向けて重要となる。 一方、ドイツは最初3試合をすべて同じスタメンで戦い、決勝トーナメント1回戦でようやく3人を変更しただけのため、主力選手の疲労の蓄積が影響するかもしれない。 スペインは過去、欧州選手権やW杯でホスト国と9度対戦するも、一度も勝ったことがない。世界中が注目する大一番は現地時間で5日にシュトゥットガルトで開催されるが、史上最多4度目の欧州制覇を成し遂げるためにはドイツを凌駕し、未知の世界に足を踏み入れる必要がある。 【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)