重盗で流れ変える…“走の切り札”巨人・増田大の勇気と研究心「自分の判断です 初球はスキが生まれるので」
◇渋谷真コラム・龍の背に乗って CS特別編 ◇19日 「2024 JERA クライマックスシリーズ セ」ファイナルステージ第4戦 巨人4―1DeNA(東京ドーム) ◆巨人・阿部監督の「クレドカード」【写真】 ヘッドスライディングで本塁をもぎ取ったのは、坂本だけではない。同じ7回、1死二、三塁から、代打・長野の一ゴロで三塁から代走・増田大が突っ込んだ。野選にオースティンの悪送球まで誘発して、二塁から岸田も生還。勝利を一気にたぐり寄せた。 大きく局面が動いたのは、その2球前だった。岸田のセーフティースクイズで勝ち越し、なお一、二塁。巨人は長野を送り、DeNAもジャクソンから中川颯に継投した。初球は119キロのスライダーだった。増田大がスタートを切り、岸田もついていく。捕った戸柱が送球できなかったほどの見事な重盗だった。 「出る前から思い切っていこうと。自分の判断です。初球はスキが生まれるので。もうアウトになったら、アウトになってから考えようと」 てっきりサインだと思っていた僕は「自分の判断」という言葉に驚いた。勝ち越した勢いがあるとはいえ、チームは崖っぷちである。盗塁失敗は、一瞬で流れを変える。自重して長野が打つのを待っても、誰も責めはしない。それでも進む勇気。そして彼には根拠があった。 「(どこかに)スキが生まれるのを探していました。毎日(映像などを)見ているので。勉強しています」 けん制球の巧拙、タイミング、回数…。中川颯に限らず、それを知るためだけに彼は労力と時間をかけている。長野との勝負に全力集中。誰だってそう思う。それがスキだった。 ノーサインというより、増田大にはグリーンライト(自分の判断で走っていい)が与えられているのだとは思うが、恐らくあの場面で走れる選手は今の中日にはいない。脚力がある選手なら、たくさん見てきた。だけどその多くは足のスペシャリスト、走の切り札と呼ばれる選手にはなれなかった。勇気。それ以上に研究心。増田大の土で汚れたユニホームは、何とも誇らしげだった。
中日スポーツ