34歳を過ぎたフリーターたちはどこにいったのか…本当は苦境だけじゃなく、IT長者も誕生した新しい「ロスジェネ論」
団塊ジュニア世代の半世紀#1
ロスジェネ世代、就職氷河期世代と言われる1970年~1980年代前半生まれ。現在37歳~51歳で、社会の中心にいながら、ときに「お荷物世代」とも呼ばれる人たちは、一体どんな時代を生きてきたのか。書籍『1973年に生まれて 団塊ジュニア世代の半世紀』の著者で1973年生まれのライター速水健朗氏に、巷の世代論とは一線を画す本書に込められた意図と、その裏テーマに迫る。 【写真】給料が高いわけではなくても浮かれていた時代
34歳を過ぎたフリーターたちはどこにいったのか
――前提として、就職氷河期世代とも言われる団塊ジュニア(1971年~1974年生まれ)前後の非正規雇用や貧困について論じられた、いわゆる「ロスジェネ論」はいつごろから言われるようになったのでしょうか。 2007年です。それ以前は、単に不況と就職時期が重なった不運な世代、というくらいの話が、15年経って、世代に限った深刻な貧困問題になっていると指摘されて、日本中が驚いてしまった。 当時、朝日新聞が「ロスジェネ」という特集を組んで、「ワーキングプア」や「偽装請負」だったり、非正規労働者の低賃金が社会問題として一気に注目が集まりました。でも、当の本人である、こっちはもう30代半ばになってるんですよ。働き手としても、中堅になっていて、いまさら言われてもなあというタイミングではありました。 「無敵の人」なんて言葉も2008年に出てきたものなので、実は同じタイミングですよね。そして日本は、不況は抜け出していなくても、若年雇用はのちの2010年代にはよくなっているので、非正規雇用問題は、特定世代に押しつけられた感が強くなっていきます。
苦境を訴える「ロスジェネ」論への違和感
――当事者である速水さんとしても、自分は苦境の世代だという実感はありますか。 僕自身は、大学時代にコンピュータ雑誌の編集部にアルバイトとして入って、そのまま卒業後も編集者として勤めていたんです。だけど、労働条件的に見ると、残業代なんてもらったこともなければ、「偽装請負」と言われればそう、みたいな環境で働いていたなとは思いました。 でも実感として、苦境とはほど遠い感じでした。僕が身を置いていたのが、メディア業界とIT業界だったことが大きかったでしょうか。90年代後半は本当にバブル以上の活況を呈していた時代だったと思います。雑誌は創刊ラッシュ。90年代後半が、出版業界の売り上げのピークの時期ですし。僕が担当している年上の著者の方たちが、飲みに行くのについて行ったりすると、常に大手出版社の編集者たちが支払いをしてくれるんです。 僕は中小出版社で若手なので、大概おごってもらえました。ITバブル時のベンチャーの経営者たちも、めちゃめちゃ羽振りがよくて、僕も末端の記者として一端をのぞいていただけですが、ITバブルは一番隅っこで体感しました。 ちなみに、2000年前後くらいは、有名な海外のDJを呼んで、渋谷のクラブで新製品発表会が開催されていたり、ということが毎週繰り広げられていた感じでした。 ――景気は悪くても、IT業界は元気だったと。 僕がいた出版社は薄給でしたけど、その周囲が裕福だったので、十分にトリクルダウンがあるというか。 自分が苦境世代で、悲惨な目にあって、という体験はしていないんです。ちなみにベンチャー企業にいるのと、"日本の古参の会社"っていう環境で働いているのとでは、まるで感覚が違ったと思います。労働時間も自由だし、経費も使えたし、本来なら競合するメディアでも仕事をしたり、グレーな副業なんかも怒られなかった。なので、特に不満もなくやっていた感じでした。 すぐに人が辞める環境でもあったんですけど、競合雑誌の編集部に移ったりと、流動性も激しかった。次の仕事先が見つかる前提だから辞める人も多かったという感じです。紙媒体の編集の仕事も、フリーランスになれば、すぐに年収は2倍くらいになるなという感じですし、ウェブのメディアへの移行期で、編集者から「メディアプロデューサー」として転身する同業者も多かったかな。 実際に僕がフリーランスになった2001年くらいもそんな感じでした。なので、のちに「ロスジェネ」世代と言われ始めたときに、自分の環境とは違うなという違和感があったのは確かです。『1973年に生まれて』は、サブタイトルに「団塊ジュニア世代の半世紀」とあるように、自分の世代について書いていますが、この世代=困難世代の色が強くなりすぎるところを踏まえて、それだけではない部分を書いているつもりです。