老親介護の兄「自宅を離れたくない」、別居の弟「遺産はキッチリ分けてもらう」…手詰まりとなった難問に、通りがかりの〈救いの神〉がもたらした妙案【弁護士が解説】
相続において「不動産はあるが、現金がない」というケースはトラブルになりやすく、注意が必要です。ここでは、調停寸前まで揉めて膠着状態となった難問に、想定外の打開策がもたらされたケースを紹介します。不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。 都道府県「遺産相続事件率」ランキング…10万世帯当たり事件件数<司法統計年報家事事件編(令和3年度)>
法定通りの遺産分割なら、介護に尽くした長男が家を失う…
60代の男性が、筆者の元へ相談に訪れました。 「父が亡くなり相続が発生したのですが、2人の弟とトラブルになっています。弟たちは弁護士を立ててきて、私だけでは対処できません…」 話を聞いたところ、父親は遺言書を残しておらず、相続財産がほとんどすべて不動産であるため、3人の相続人への平等な相続が難航しているというのです。 相談者の方は3人兄弟の長男で、結婚後も横浜市にある実家で両親と同居してきました。2人いる弟は、いずれも就職時に家を離れ、その後は結婚して都内にマイホームを建てています。相談者の方の母親は3年前に亡くなっています。 相談者の方の亡くなった父親は、地主の家系の出身で、複数の不動産を所有していました。しかし、3人の息子たちの教育資金や、夫婦の老後の生活費にたくさんのお金を費やしており、相続財産としてはほとんど残っていませんでした。 所有する不動産の詳細は、自宅のほか、築年数・規模・収益が異なる2棟の賃貸アパートです。 「私は両親からずっと〈長男なのだから〉といわれ、さまざまな制約を受けてきました。そのため、結婚後もずっと両親と同居し、両親が高齢になってからは、妻と2人で介護もしてきました。それだけでなく、実家近くの父のアパートの管理も、すべて任されてきたのです」 「弟たちは実家を離れ、自由に生活をしてきました。当然、両親の介護は一切していません。そんな弟たちからは〈相続は平等〉といわれ、納得できない気持ちはあるのですが…」 父親は、口頭では「すべてを長男に」といっていたものの、遺言書を残すといった対策は取っていませんでした。そのため、長男も「悔しいが、遺産分割はやむを得ない」と考えています。 「私は、長年住み慣れた自宅を相続したいと考えています。2人の弟は〈不動産はいらない、現金がほしい〉といっていて、その点は全員が納得しているのですが…」 問題となっているのは、2人の弟に支払う「代償金」です。相続財産には、ほとんど現金がないからです。 二男と三男は、不動産の評価額の1/3に該当する金額をキッチリ払ってもらいたいと主張しています。 相談者の方が生活拠点となっている実家を手放したくないのは当然なのですが、2棟のアパートのうちの1棟は、築古で収益が低く、収益物件として機能しているのは15年前に建築された1棟だけです。しかし、この2棟を手放しても、代償金の支払金額には届きません。2人の弟が主張する代償金を支払うには、自宅不動産の売却が必要なのです。
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