【何観る週末シネマ】大好きな父の死期を子どもながらに悟っていく少女の視点『夏の終わりに願うこと』
この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、現在公開されている『デッドプール&ウルヴァリン』。気になった方はぜひ劇場へ。 【写真】7才の子どもの視点から療養中の父を描く『夏の終わりに願うこと』場面写真【9点】 〇ストーリー 7歳の少女・ソルは、父・トナの誕生日パーティーのため祖父の家を訪ねる。病気で療養中の父と久しぶりに会えることを喜ぶソルだったが、身体を休めているから、となかなか会わせてもらえない。従姉妹たちと無邪気に遊びまわることも、大人たちの話し合いに加わることもできず、いらだちや不安が募るばかり。やがて父との再会を果たしたとき、それまで抱えていた思いがあふれ出し、ソルは“新たな感情”を知ることになる。よろこび、悲しみ、希望、落胆。波打つ自身の感情の変化に戸惑いながらも、物語のラスト、少女が願ったこととは――? 〇おすすめポイント 第36回東京国際映画祭において『Totem』というタイトルで上映されていた作品が一般公開に。 闘病中で、もう長く生きることができないと悟った父と家族、親戚たちによる父の誕生日パーティーを7才の少女の視点からホームビデオを回しているようなドキュメンタリータッチで描いた作品だ。 闘病のために実家で暮らす父に久しぶりに会える喜びが抑えきれない無邪気な少女ソルだが、親戚同士の会話や表情の変化などを部分的に拾い集め、子どもながらに違和感を感じとり、次第にそれがただの誕生日のお祝いでないことを悟っていく。 その違和感の正体が父の死というものに直結することはわからないのかもしれないが、ソルの些細な心の揺らぎを観客に感じさせる技術とソルを演じたナイマ・センティエスの演技は必見。とくに後半でみせるナイマの表情が一瞬大人のようになることで、ソルが全てを悟ったことを表しているのも見事な演技力だ。 しかし、全体的にシリアスな作品としてはコーティングされておらず、細かい笑える要素も散りばめられていて、子どもから見た大人の行動の不可思議さがコミカルに描かれている。その点では「ロッタちゃん」シリーズでもお馴染みのアストリッド・リンドグレーン作品、あるいは『ラモーナのおきて』(2010)などのビバリー・クリアリー作品のような女の子が主人公の児童文学的側面もある作品だといえるだろう。 子どもの視点に立ち返って観るのが一番良いのだろうが、そんなことは、大人には雑念が多く、実際問題としてできることではない。しかし、今作を通して子どもの視点に”立ち返った気”にはさせてくれる。 ただ、子どもの視点ばかりが描かれているのかというと、決してそうではない。親の視点、そしてそれを見守る親族の視点が交差している。子どもの成長を見ることができない悲しさや悔しさ、無力感といった、何ともいえない感情が痛いほど伝わってくるのは、観ていて辛い部分もあったりする。 (C) 2023- LIMERENCIAFILMS S.A.P.I. DE C.V., LATERNA FILM, PALOMA PRODUCTIONS, ALPHAVIOLET PRODUCTION 〇作品情報 監督・脚本:リラ・アビレス 出演:ナイマ・センティエス、モンセラート・マラニョン、マリソル・ガセ、マテオ・ガル シア・エリソンド、テレシタ・サンチェス 2023年/メキシコ・デンマーク・フランス/カラー/95分/スタンダード 原題:Tótem 日本語字幕:林かんな 配給:ビターズ・エンド 後援:メキシコ大使館 8月9日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!
バフィー吉川